国産初のスーパースポーツ「ホンダ NSX」生誕30周年。フェラーリやポルシェをも驚かせ、NSXが築いた新たな「スーパーカーの常識」とは?
ホンダ NSXが、1990年に発売されてから今年9月14日でちょうど30周年を迎える。当時、フェラーリやポルシェに対抗できる国産車はなく、同車は国産初のスーパースポーツの道を拓いた1台でもある。
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現在も2代目モデルが現役を続けるが、NSXはそれまでのスーパースポーツの常識を変えたと言っても過言ではない革新的なモデルだった。改めてその衝撃と挑戦の歴史を振り返りたい。
文:片岡英明/写真:HONDA
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■フェラーリをも驚かせた国産初のスーパースポーツ
1990年に発売された初代NSX。当時の価格は5MT車で800万円だった
日本の自動車メーカーが世界に名を轟かせたのが1980年代だ。本田宗一郎氏が一代で築いた本田技研工業もグローバルメーカーへと成長をとげた。
同じ時期、ホンダはF1の世界に再び足を踏み入れ、連続してタイトルを奪取した。が、ホンダでも持っていない栄光がある。それはフェラーリやポルシェなどのスーパースポーツと同じ土俵で戦えるスポーツカーだ。
そこで第1期のホンダF1プロジェクトに関わった本田技術研究所の川本信彦氏などの首脳陣によって企画され、精鋭のエンジニアを集めて開発に着手したのが「NSX」である。
基礎研究と先行開発のときはミドルクラスの2L級スポーツカーだった。が、次第に構想がエスカレート。フェラーリ 328やポルシェ 911とガチで勝負できるスーパースポーツをめざすように軌道修正している。開発責任者の上原繁氏は、刺激的な走りと操る楽しさにこだわり、最新技術を積極的に採用した。
フェラーリやポルシェなどの老舗スポーツカーメーカーを驚かせたのはボディ設計だ。軽量化を徹底するために、世界で初めてオールアルミ製モノコックボディを採用した。アルミ材は剛性値が鋼板の3分の1だから、アルミの種類を厳選し、工法も一新している。
この結果、鉄よりも高い剛性を実現した。モノコックの骨格からアウタースキンまでアルミ材とし、鉄より155kgも軽い。車重は驚異的な1350kgだ。
■欧米を驚かせたNSXの“非常識な”快適性
初代NSXのインテリア。スポーツカーはドライバーにある種の不便を強いるものという常識を破る快適性も特長だった
それまでのスーパースポーツにはない人間優先のパッケージングも欧米のエンジニアから注目を集めた。
NSXは最適なドライビングポジションを取ることができ、視界もいい。乗降性も優れている。また、エアコンの効きはいいし、便利なパワーシートやパワーウインドウなども装備していた。ゴルフバッグを2個積める広いトランクも驚きを与えた。
ミッドシップに搭載するパワーユニットは、紆余曲折の末に、革新的な3Lの90度V型6気筒DOHC・VTECを選んでいる。F1のイメージを重視するならターボだ。が、エンジニアは切れ味鋭い自然吸気のDOHCにこだわり、ターボ並みの高性能を実現している。
トランスミッションは、5速MTと時代に先駆けて電子制御4速ATを設定した。5速MT車は8000回転まで軽やかに回り、6000回転付近でVTECのカムが高速側に切り替わる。一気に官能的なエンジン音に変わり、パンチある加速を楽しめた。クルージング時は燃費も良好だ。
ラック&ピニオン式のステアリングギアにはパワーアシストが付き、4速ATも選べるからビギナーにも運転しやすい。
パッセンジャーも快適だ。サスペンションは前後ともインホイール型ダブルウイッシュボーンで、これもアルミ製の凝った設計とした。
ブレーキはベンチレーテッドディスクを採用し、ABSに加え、時代に先駆けてトラクションコントロールも標準装備する。快適性だけでなく、安全装備に関しても最先端のメカを導入していたのだ。
■“ほぼ専用設計”異例づくめのNSXとタイプR誕生
NSX タイプR
NSXは、年号が昭和から平成に変わった1989年2月に初めて姿を現した。お披露目されたのはシカゴショーで、このときは「NS-X」を名乗っている。
参考出品から正式発表までの1年半、NSXはテストコースだけでなくドイツのニュルブルクリンクサーキットに持ち込まれ、過酷な耐久テストを行った。評価ドライバーにはF1ドライバーのアイルトン・セナと中嶋悟も名を連ねている。
1990年9月14日、NSXは秘密のベールを脱いだ。ほとんどの工程を専用設計としたNSXは栃木に専用工場を建設し、ここで1日25台のペースで生産を行っている。期待のスーパースポーツの開発には膨大な投資を伴ったが、ホンダは800万円というバーゲン価格で販売を開始した。これも大胆な販売戦略だ。
が、初期モデルはハンドリングにクセがあった。コーナリング中に駆動力が抜けたり、ウエット路面になると挙動が落ち着かなかったのだ。また、リアタイヤの磨耗も驚くほど早いなど、バランス感覚は今一歩だった。
ホンダのエンジニアはこれらのウイークポイントを短期間のうちに修正し、実力をフルに引き出せるように改良している。
1992年11月にはレーシングテクノロジーを結集し、ドライビングプレジャーを徹底的に追求したNSX「タイプR」を限定発売の形で送り出した。極限まで軽量化(120kg)した究極のNSX、それがタイプRだ。
1995年春のマイナーチェンジでは時代を先取りしたドライブ・バイ・ワイヤやシーケンシャル4速ATを導入し、ルーフ部分を脱着できるタイプTも投入。
また、1997年2月にはタイプRを惜しむファンの声に応えてタイプSを追加。エンジンはC30A型に代えて3.2LのC32B型V型6気筒DOHC・VTECを搭載。5速MTはクロスした6速MTへと進化した。
また、レカロ製のフルバケットシートを装備し、サスペンションは専用チューニング、アルミホイールはBBS製の鍛造だ。
2001年、大胆なフェイスリフトを行い、ヘッドライトを固定式に変更している。そして2002年5月には第2世代のNSXタイプRが登場。軽量化に加え、オートクレープ製法を用いたエアロパーツなどでエアロダイナミクスを向上させている。
■NSXが変えたスーパースポーツの常識と現在
スーパースポーツの世界で長く愛されている「NSX」
NSXは、走りの実力が問われるスーパースポーツの世界で15年以上も日本を代表するスポーツカーの座に君臨し、ヨーロッパのスポーツカーのその後に多大な影響を与えた。
NSX以降のスーパースポーツは快適性が飛躍的に高まったし、信頼性も大きく向上している。常にライバルの目標であり続けたのは、基本設計が素晴らしかったからだ。
2005年夏に販売を終了したが、それ以降もNSXは憧れの存在であり続けている。多くのスポーツカーに刺激を与えたNSXの生産打ち切りから11年、2代目NSXが姿を現した。
3.5LのV型6気筒DOHCツインターボに加え、モーターを加速やコーナリングに活かした3モーター・ハイブリッドのスポーツハイブリッドSH-AWDを採用し、トランスミッションはツインクラッチの9速DCTだ。
アメリカ生まれ、アメリカ育ちの2代目NSXは痛快な加速を多くの人が楽しめ、トルクベクタリングの採用によって気持ちいいコーナリングを楽しむことができる。
だが、初代と違ってクルマが重いから軽快感は薄く、操る楽しさもちょっと物足りない。
2代目のNSXが登場した今になると、初代モデルの魅力が再確認できるし、凄さもよくわかる。初代NSXは、不世出のスーパースポーツだった。
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みんなのコメント
全く飽きない車ですね。