自販連による4月の登録車ランキングでは上位6位までがすべてトヨタ車。そしてトップ10位のうち7車を占めているなど、トヨタ車は今圧倒的に売れている。
しかし、売れているからといってトヨタ車ばかりがいいクルマではない。そんな人気のトヨタ車にも負けていないトヨタ以外のメーカーの5車種を、ここでは紹介していこう!
文/渡辺陽一郎 写真/HONDA、MAZDA、TOYOTA、ベストカー編集部
【画像ギャラリー】トヨタだけがクルマじゃない!! 売れてるトヨタ車に負けない魅力のクルマたち
■販売台数が少ないモデルにもいいクルマはある!
1カ月平均1万台前後を売り上げるトヨタ ヤリス
最近の小型/普通車の登録台数を見ると、トヨタが上位を独占している。ヤリス(ヤリス+ヤリスクロス+GRヤリス)、ルーミー、アルファード、カローラ(シリーズ全車合計)、ハリアーなどが上位を占める。
2020年にトヨタの全店で全車を買えるようになった影響もあり、人気の高いトヨタ車は従来以上に登録台数を増やした。
好調に売られるクルマは、多くのユーザーが購入しているから、優れたクルマと判断できる。しかし販売台数が少ないから劣った商品とはいえない。
例えば2020年度にアルファードは10万6579台を登録したが、姉妹車のヴェルファイアは約14%の1万4749台だ。売れゆきには大差がついたが、両車の違いはフロントマスクなどの外観だから機能は共通だ。
そこでトヨタの売れ筋車種に勝っている他メーカーのライバル車を取り上げたい。
■トヨタ ヤリスに勝っている「ホンダ フィット」
ヤリスと比べて前後の視界がいいホンダ フィット。後席の広さもフィットに軍配が上がる
2021年のヤリスの登録台数(SUVのヤリスクロスとスポーツモデルのGRヤリスを除く)は、1カ月平均で1万台前後だが、フィットはおおむね7000台で推移している。ホンダの販売店では「フィットは半導体の不足もあって生産が滞っている」という。
ヤリスはハイブリッドXのWLTCモード燃費が36km/Lと優れ、衝突被害軽減ブレーキは右左折時の直進車両や歩行者も検知するが、フィットが上まわる機能も多い。
まずフィットはヤリスに比べて視界がいい。ヤリスはサイドウィンドウの下端を後ろに向けて持ち上げたから、斜め後方と真後ろが見にくいが、フィットは水平基調だから見やすい。
前方視界も同様だ。フィットはフロントピラー(柱)の形状を工夫して正面と斜め前方の視界を広げ、インパネの上面を平らに仕上げたから小柄なドライバーも前方を見やすい。
安全な運転には車両の周囲に潜む危険を早期に察知することが大切だから、フィットのボディや内装の形状は、ヤリスよりも安全性が優れている。
後席の広さもフィットが勝る。身長170cmの大人4名が乗車して、ヤリスの後席に座る乗員の膝先空間は握りコブシ1つ少々だが、フィットは2つ半になる。
乗降性も同様だ。ヤリスは天井を後方に大きく下降させたから、頭を下げて乗り降りする姿勢になるが、フィットであれば頭部の通過性はいい。
荷室もフィットが広い。燃料タンクを前席の下に搭載したから床が低く、後席を小さく畳むと大容量の空間になる。ヤリスの荷室面積は相応に確保しているが、リアゲートを寝かせているため、背の高い荷物は積みにくい。
走りでは乗り心地が異なる。ヤリスは操舵感が機敏で、燃費にも配慮したから硬めに感じる。フィットも少し硬いが、ヤリスよりは柔軟だ。登坂路でのエンジンノイズも、直列3気筒のヤリスは少し粗いが、フィットの4気筒はマイルドだ。
■トヨタ ルーミーに勝っている「スズキ ソリオ」
スズキ ソリオ。急遽開発されたトヨタ ルーミーに比べて多くの面で抜きん出ている
2014年には先代ハスラーの発売により、スズキとダイハツの軽自動車販売合戦が激化した。小型車から軽自動車への乗り替えも進み、同年には国内で売られた新車の41%が軽自動車になった。
小型/普通車が中心のトヨタでは、売れ筋の軽自動車となるN-BOXやタントに対抗できる商品が必要と判断した。
そこで大急ぎで開発されたコンパクトカーがルーミーとその姉妹車だ(タンクは2020年に廃止)。軽自動車の販売が激化した2014年に開発を開始して、2年後の2016年に発売されている。
開発期間が短かったので、ライバル車のスズキソリオに比べると、見劣りする機能が多い。室内空間では、ルーミーは後席の座り心地が悪い。床と座面の間隔も不足気味で、足を前方に投げ出す座り方になる。座面の柔軟性も乏しい。
自然吸気エンジン同士だとルーミーのエンジンは直列3気筒1Lで、4気筒で1.2Lのソリオに比べると動力性能が低い。車両重量はソリオの売れ筋グレードが1000kg、ルーミーは1080kgと重いから、加速力に不満が生じて3気筒のノイズも粗く聞こえる。ソリオであれば走りに余裕がある。
ルーミーには1Lターボも用意されていて、こちらでは動力性能の不満は解消するが、2000~3000回転の常用域でノイズが気になる。2020年の改良で少し静かになったが、依然として粗さは残る。
ルーミーのプラットフォームはパッソと共通で、想定される車両重量は900~950kg程度だ。ルーミーの車両重量は2WDでも1080kgだから、ボディが重く、走行安定性や乗り心地にもよくない影響を与えた。さまざまな機能において、ソリオのバランスが優れている。
■トヨタ ヤリスクロスに勝っている「ホンダ ヴェゼル」
コンパクトSUVとしてヤリスクロスに対抗するホンダ ヴェゼル。上質な内装は上級グレードの車種にも匹敵する
両車ともにコンパクトなSUVだが、インパネの周辺など、内装のつくりはホンダのヴェゼルが上質だ。ヤリスクロスのインパネはヤリスと同じ形状だが、ヴェゼルは独自に作り込んだ。質感はミドルサイズのSUVに近く、上級のCR-Vをも上まわる。
居住性もヴェゼルが快適だ。前後席ともに座り心地はヤリスクロスよりもしなやかに仕上げた。後席もヴェゼルが広い。身長170cmの大人4名が乗車した時、後席に座る乗員の膝先空間は、ヤリスが握りコブシ1つ半でヴェゼルは2つ半になる。
荷室も同様だ。ヴェゼルは燃料タンクを前席の下に搭載するから、荷室の床が低い。後席を小さく畳むと大容量の空間になり、後席の座面を持ち上げると車内の中央に背の高い荷物を積める。
ヴェゼルの最上級グレードになるe:HEV・PLaYは、納期が長く2021年5月の契約で納車は3月以降だが、パノラマルーフなど独自の装備を採用している。装備の選択肢もヴェゼルが多い。
■トヨタ ハリアーに勝っている「マツダ CX-8」
マツダ CX-8。スポーティな走行性能やディーゼルの動力性能はハリアーを上回る。価格面でもわずかに有利だ
トヨタのハリアーハイブリッドG(2WD)の価格は400万円。ライバル車となるマツダのCX-8にクリーンディーゼルターボを搭載するXDプロアクティブは382万8000円だ。
ハリアーは内外装が上質でノイズも小さいが、動力性能はCX-8のディーゼルが優れている。低回転域では4.5Lのガソリンエンジンに匹敵する駆動力を発揮する。
スポーティに走らせた時の走行安定性もCX-8が勝る。車両重量は1800~1900kg(2WD)と重いが、操舵角に応じて正確に曲がる。
居住空間はCX-8が広く、全車に3列目のシートを装着した。CX-8の3列目は、SUVでは最も余裕がある。片道45分程度の距離であれば、大人の多人数乗車も可能だ。3列目を畳めば広い荷室になり、CX-8は上級SUVでありながら実用性も優れている。
■トヨタ アルファードに勝っている「ホンダ オデッセイ」
ホンダ オデッセイ。乗降しやすい床面地上高と3列目シートの座り心地でアルファードに勝っている
アルファードは2020年度に10万6579台を登録したが、オデッセイは1万1941台だ。オデッセイはアルファードの11%しか売れていない。ところが機能を比較すると、オデッセイの優れたところが多い。
オデッセイで最も注目すべきは、アルファードと同じように床を平らに仕上げながら、床面地上高を約100mm低く抑えたことだ。そのために乗降性が優れている。アルファードのようにサイドステップ(小さな階段)を使って乗り降りする必要がない。
3列目シートの座り心地もオデッセイが快適だ。アルファードは床が高いために、座面との間隔が不足して、足を前方に投げ出す座り方になる。その点でオデッセイは、床と座面の間隔が適度で着座姿勢も良好だ。つまり多人数乗車時の総合的な快適性は、アルファードよりもオデッセイが優れている。
しかもオデッセイの3列目シートは床下格納だから、スッキリと広い荷室に変更できる。左右跳ね上げ式のアルファードと違って、荷室に3列目のシートが張り出さない。
床を低く抑えたから、必要な室内高を確保したうえで、2WDの全高を1695mmに抑えられた。アルファードの1935~1950mmに比べると250mm前後は低い。そのためにオデッセイは、ボディが軽くなって重心も下がった。動力性能、走行安定性、燃費性能などに優れた影響を与えている。
ちなみにアルファードも現行型でプラットフォームを刷新したから、オデッセイのようなクルマに仕上げることも可能だった。それをしなかったのは、売れゆきを伸ばすためだ。
アルファードは、厚みのあるフロントマスク、背の高い存在感の強いボディスタイル、乗員が周囲を見降ろせる感覚を重視したから、機能はオデッセイに劣っても登録台数では上まわる。オデッセイとアルファードには、ホンダとトヨタの考え方が色濃く反映されて、興味深い比較になっている。
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