■あえて抑えられた豪華さは上質さを生み出す
若返り、世代交代、オーナーのサスティナビリティ。すべての自動車ブランド、ことに高級銘柄、が抱える課題のひとつであろう。近年、ユーザー層の若返りに世界でもっとも成功したブランドは何か。答えはロールス・ロイスだ。
ロールス・ロイスのごく一般的なイメージといえば、白い手袋をはめた運転手が巨大なサルーンの観音開きドア(コーチドア)を恭しく開けるとなかから白髪の大金持ちが降りてきて。というものだが、最近はまるで違う。平均年齢はなんと43歳。つまりグッドウッド・ロールス・ロイスから降り立つのは若々しい成功者であり、それも後席ではなくたいていは運転席のドアが開く。
若い世代はサルーンのショーファードリブンを好まない。それならいっそアルファードのようなミニバンでいい。よいクルマはやっぱり自分でドライブしたい。そう考えている。ロールス・ロイスでいえば2009年に登場した初代「ゴースト」と、その派生モデルである2ドアの「レイス」&「ドーン」によってその傾向に拍車がかかった。端的にいってそれらは運転する歓びのあるモデルだったのだ。スタイリングにはモダンな華やかさもあった。初代ゴーストの成功こそ若返りの原点であったといってよい。
10年ぶりとなるゴーストのモデルチェンジに際して、グッドウッドは攻めた。2代目は似て非なるモデルへと進化を遂げたのだ
●自動車としての本質にこそ、先見性があった
果たして若いハイエンドカスタマーの望みとは何か。グッドウッドの回答は「ポスト・オピュレンス」だった。直訳すると”贅沢の先”にあるもの。見せかけだけの贅沢ではなく、真の贅とは何かを追求する。そんな彼らの姿勢を補足する言葉が「リダクション」(縮小)であり、「サブスタンス」(実質)である。要するにシンプルに極めることこそがモダンエレガンス。無駄な贅沢はもうやめた、というわけだ。
すでにその実力の一端をメディア試乗会で味わっていたが、少し乗っただけでハードとしての完成度の高さは十分に理解できた。後はもう少し長く乗ってみて、グッドウッドのいう「ポスト・オピュレンス」の髄を確かめてみたい。そう思った筆者はきめ細かなメタリックグレーのゴーストSWBを借り出して、一路、東京から京都を目指した。
シャットラインやキャラクターラインは少なく、クロームラインの輝きも控えめで、車体全体の優雅さでは先代を遥かに凌ぐ。インテリアも同様で、上質なウッドやメタル、レザーといった素材のもつ力を生かすべく可能なかぎりシンプルなデザインを貫いた。インテリアを高級に見せる手段はいくつもあるが、“全部載せ”がよいとは限らない。けれどもただ減らせば貧相になってしまう。だからシンプルな贅沢さの表現は難しい。
もっとも、新型ゴーストの目指す“贅沢のその先にあるもの”とは、ただそんな見栄えの話に限ったものではなかった。自動車としての本質、そのパフォーマンスにこそあったのだ。
テクニカルにみて最大のポイントは、ブランド専用開発のアルミニウム・スペースフレーム骨格を採用したことに尽きる。先代はBMWグループの上級プラットフォームを活用していたが、新型ゴーストは違う。ロールス・ロイスに「必要な性能」を盛り込むべく新たに開発されたもので、「ファントム」と「カリナン」にはすでに採用されているプラットフォームだ。
車台を一新した一方で、心臓部には純内燃機関を受け継いだ。ファントムやカリナンでおなじみの6.75リッターV型12気筒ツインターボエンジンである。これに8速ATを組み合わせ、わずか1600回転からフラットに850Nmもの大トルクを発揮する。この大トルクをロールス・ロイスのサルーンとしては初めて4WDシステムにより路面へと伝えることになった。
■新型サスペンションは新たなドライバビリティを感じさせた
この手の大型高級サルーンに乗るといつもそうなのだが、走り出してしばらくはクルマとの一体感をなかなか得ることができず、クルマはクルマでバラバラに動いているような感じがする。けれども新型ゴーストではそう思う時間が短い。街中では少しゴツゴツとする場面もあるのだが、それが気になるだけであっという間に身体と馴染む。
首都高速に入ることには、すっかり寛ぎ始めていた。トンネルを下る入り口を入って本線へ。いくつかの緩いカーブを抜けるうち、極上のステアリングフィールに改めて感銘する。「プラナー・サスペンション・システム」というまったく新しい考え方の足回りの成果で、なかでも前足の「アッパー・ウィッシュボーン・ダンパー」(ダンパーのためのダンパー)構造が効いているのだ。ステアリングを切っている最中のライドクォリティの高さはカリナンやファントムを上回る。
東名高速に入った。距離を進むにつれて車体が小さくなっていくかのようだ。同時に乗り手との一体感も増していく。下半身の輪郭がぼやけてくる感覚もまた、よくできたブリティッシュリムジンの美点である。
その上でゴーストとは意志の疎通が普通のクルマよりも上手くいく点が嬉しい。もはや大きさは感じないから、あとはドライバーの操作に対して車体がいかに自然な動きを見せるかに尽きるわけだが、そこが素晴らしい。ドライバーズカーとして今、ロールス・ロイスが世界最高であると筆者が断言する所以である。
加速も進路変更も追い越しも、すべてが意のままでドライバーの望みどおり、両腕や右足の動きどおりにクルマが反応してくれる。エンジン音は遠く微かだが、存在の確かさを右足を通じて常に知ることができる。スーパーカーのようにも走れるし、新幹線のような空間移動を味わうことも可能だ。
●2021年ナンバー1乗用車に当確!?
自ら積極的にドライブしても、運転支援に大方を任せていても、急いでも急がずとも、乗り手に疲労感というものがほとんどない。京都までの450kmをこれほどあっという間に感じさせたクルマは一年ぶり、そう「カリナン・ブラックバッジ」以来である。
京都の街中でも、その扱いやすさは想像以上だった。確かに物理的な大きさは何をするにも気がかりだ。けれどもそれは狭い駐車場に停めなければならない時や、路地で対向車が戸惑っているような時のことで、動いている限りたいていは凌いでいける。いけると思わせるだけのドライバビリティがある。持て余すということがないのだ。
ワインディングロードでもよくできたミッドサイズのスポーツサルーンのように振る舞った。それでいて、リアシートに座れば途端に眠気に誘われる。オーナードリブンカーではあるけれども、ショーファードリブンという伝統も決して忘れない。
新型ゴーストは早くも今年ナンバー1の乗用車に決まりそうである。
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みんなのコメント
浮ついた文章であんまり役に立たない駄文ですね。
エヴァカラーはやりすぎだが、デザインはスマートでカッコ良さがかなり増した。