■第2戦富士以来のガチンコ勝負! 真夏のオートポリスはどうだった?
開幕戦を鈴鹿、第2戦は富士と続いた2022年のスーパー耐久シリーズ。
そして第3戦菅生から僅か3週間、第4戦はオートポリスでおこなわれる5時間耐久です。
カーボンニュートラル燃料を使って参戦するORC ROOKIE RacingとTeam SDA Engineeringはどのような戦いを繰り広げたのでしょうか。
【画像】シーズンも折り返し!? 「GR86」と「SUBARU BRZ」の戦い! オートポリスではどうだった?(29枚)
ちなみにカーボンニュートラル燃料を使うGR86/SUBARU BRZは九州初上陸となります。
オートポリスは1周4.674km、高低差52m、最大登り勾配7.2%、最大下り勾配10%とアップダウンの激しいテクニカルなレイアウトで、どちらかといえばエンジン/シャシーを含めた基本性能の高さがラップタイムに表れやすいコースです。
第3戦菅生では、「クルマの根本を見直す必要がある」と参戦をスキップして車両改善をおこなったORC ROOKIE Racing GR86 CNF Concept。
見た目の変更点は冷却のためにダクトがプラスされたボンネット程度ですが、中身はどのようなアップデートがおこなわれているのでしょうか。
開発責任者の藤原裕也氏はこのように語っています。
「これまでの戦いで得た定量データや今までの積み重ねで把握したことを、一度立ち止まって検証しました。
それを元に自分たちが目指した諸元に対して良し悪しを判断してアップデートに活かしています。
具体的にはブレースの追加(剛性バランス適正化)、スタビリンクの取り付け位置変更(ロールバランスの適正化)、ブレーキ変更(信頼性向上)をおこなっています。
加えて、データ収集で車両のさまざまな場所にセンサーをプラスしています」
レースに参戦する以上は、スタートできる状況にする必要があります。
ただし、走らせることに一生懸命になってしまうと、本来の目的から離れてしまうのも事実です。
そういう意味でORC ROOKIE Racing GR86 CNF Conceptは、対処療法である程度走れるクルマになっていたものの、それはチームが目指す「もっといいクルマ」ではないと。
その負のループから出るために、一度立ち止まったというわけです。
「我々のクルマはSUBARU BRZと比べると『一発の速さ』はあったかもしれませんが、『いいクルマか?』といわれると……。
今回はその部分に注力して『しっかり対話できる』、『みんなが乗ってわかりやすい』クルマを目指してきました。
仮に以前と同じタイムでも、数値には表れない部分……安心・信頼は全く違うはずです」(前出藤原氏)
一方、前回“速さ”に注力して大きな成長を遂げたTeam SDA Engineering BRZ CNF Conceptですが、今回はどのような進化がおこなわれたのでしょうか。本井雅人監督に聞いてみました。
「大きくは2つです。
1つは菅生で酷評だったエアコンで、風の通路の見直しでシッカリ冷えるようにしたのと、より緻密な専用制御を盛り込んでいます。
もう1つはシャシの見直しです。
菅生で良いセットが見つかりましたが、当初からいわれていたネガを解析していくと剛性が足りない部分が解ったので、各部の取り付け剛性を上げています」
実は第3戦菅生から投入されているカーボンボンネットは、SUBARUならではの新しい取り組みから生まれたアイテムだといいます。
「実はあれは弊社の航空部門で使用されなかった端材を再生して作られた物です。
もちろんSDG’Sの観点もありますが、『オールスバルで戦う』という意味合いもあります。
今回はコロナの問題で担当者は来ていないので、次戦(もてぎ)で詳細をちゃんと紹介する予定です」
そういえば、第3戦菅生にて、トラブル(車両ストップ)の原因となったハザードスイッチのカイゼンはどうなったのでしょうか。
「ハザードスイッチのレイアウトはそのままですが、ステアリングスイッチを活用して3回点滅できるような回路を追加しています」
このように、前回の大きな進化が良い方向に働いたことで、今回はその良さをさらに伸ばす熟成方向の進化というわけです。
■雨と晴天を繰り返す。予選の様子はいかに
第2戦富士から約2か月振りの「ガチンコ勝負」となる予選がおこなわれる土曜日。
ORC ROOKIE Racingのピットは45/46、Team SDA Engineeringのピットは43と取材する我々にはいい距離ですが、両チームにとっては近くて遠い間隔です。
朝から雨が降ったかと思うと突然青空が顔を出すなど、標高800mに位置するオートポリスならではの不安定な天候。
午後からおこなわれた予選はウエット宣言が出され、Bドライバー走行時は雨足が強いなかでの走行となりました。
予選タイムはA/Bドライバーの合算となりますが、結果は以下になります。
●ORC ROOKIE GR86 CNF Concept
4分18秒743
A:蒲生尚弥 2分5秒537
B:豊田大輔 2分13秒206
●Team SDA Engineering BRZ CNF Concept
4分19秒711
A:井口卓人 2分6秒856
B:山内英輝 2分12秒852
その差はわずか0.968秒です。
ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptのドライバーである豊田選手は次のようにコメントしています。
「タイムよりも乗っていて楽しいクルマになったことが大きな進化です。
具体的には懐が深くなったことで、嫌いな雨でもしっかりタイムが出ていることが証明しています。
まだまだやることはありますが、マシンは良い方向に向いていると思っています」
また藤原氏は「これまでエンジニアリングでやってきたこととドライバーのフィーリングがやっと噛み合ってきた感じです。個人的には上出来の予選だと思っています」とホッとした様子でした。
一方、BRZのドライバーである山内選手は次のようにコメントしています。
「マシンは良い方向に向いています。
菅生に続いてオートポリスでも『速さ』に振ったセットアップを試していますが、さまざまなアップデートにより乗りやすさもアップしています。
ただ、28号車(GR86)は速いですよね……」
また本井氏は「前回進歩を遂げましたが、28号車との直接比較ができていなかったので、今回はそこに注目していましたが、負けてしまいました。さらにパフォーマンスを上げるために、皆で知恵を絞ります」と悔しさがにじみ出ていました。
ただ、どちらもコメントを聞くと、不安定な走行状況にも関わらず、どちらも「速さ」と「乗りやすさ」のバランスが整ってきた印象で、個人的には4戦目にして「真の意味でのガチンコバトルが始まった」といってもいいと感じました。
■レースには魔物が住んでいる? 好調一転のトラブルとは
決勝がおこなわれる日曜日。朝方は雨雲も覆われていましたが、徐々に雲は薄くなり、時折青空が見えるように。
スターティンググリッドは第2グループのST-2クラス5台の後ろで、ORC ROOKIE GR86 CNF Concept、Team SDA Engineering BRZ CNF Conceptと横並びです。
スタート進行の合間にSUBARUのエンジニアはORC ROOKIE GR86 CNF Conceptに近づき、下回りを覗き込むなど隅々をチェックし始めました。
「普段、ここまで近づいて見る事できませんから」、「やっぱり、そうするよね」などと語っていると、藤原氏は「車両説明しましょうか?」と応戦。こんな関係性も「仲良く喧嘩している」証拠といえるでしょう。
11時にフォーメンションラップが開始されスタート。
スタートドライバーはORC ROOKIE GR86 CNF Conceptが鵜飼選手、Team SDA Engineering BRZ CNF Conceptが山内選手です。
不安定なコース状況ながらもスピンやコースアウトなどのアクシデントはなく進行。
2台は序盤から接近戦バトルです。13周目にTeam SDA Engineering BRZ CNF ConceptがORC ROOKIE GR86 CNF Conceptを抜き順位が入れ替わりますが、同一周回かつ僅差でレースは進んでいきます。
途中、タイヤが外れスロー走行するマシンの影響でFCY(フルコースイエロー)となりますが2周で解除。その後も2台は周回を進めます。
僅差のときはピットストップも勝敗に影響しますが、最初に動いたのはORC ROOKIE GR86 CNF Conceptで、12時16分にピットインして鵜飼選手から蒲生選手にドライバーチェンジ。蒲生選手は2分6秒代で追い上げをおこないます。
そんなORC ROOKIE GR86 CNF Conceptの動きにスバルは戦略を練ります。
本井監督は「BRZは燃費がいいので、ピットストップのタイミングはフレキシブルに対応できる」と語っていましたが、それをフル活用。
何とTeam SDA Engineering BRZ CNF Conceptがピットインしたのは、ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptのピットインから45分後の13時。ここで山内選手から井口選手にドライバーチェンジします。
このタイミングでORC ROOKIE GR86 CNF Conceptが先行しますが、13時43分、蒲生選手から豊田選手へのドライバーチェンジ時にトラブルが発生。
マシンはガレージに運ばれ、原因はアッパーマウントのボルトの緩み、路面からの入力が大きいのことが原因だといいます。
すぐに増し締めをおこなないピットアウトしたもののTeam SDA Engineering BRZ CNF Conceptとは2周差です。
豊田選手は追い上げをおこないますが、14時12分に「パワーが出ない!!」と緊急ピットイン。
エンジニア/メカニックは即座に故障診断を開始、チェックに時間が掛かるため豊田選手は一旦降車します。
その間、豊田選手に話を聞くと「鈴鹿で起きた症状(燃料系トラブル)によく似ています」と話してくれました。
■勝負は最後までわからない…GR86とSUBARU BRZ…それぞれの結果はいかに
14時30分、今度はBRZが緊急ピットイン。実は井口選手に交代後、「クラッチが切れない」というトラブルが起きていました。
井口選手はクラッチを使わず回転を合わせてシフト操作をおこないながら走行していましたが、ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptのトラブルを聞いてピットに入ったそうです。
マシンはガレージに運ばれチェックをおこない、クラッチフルードのエア抜きを実施。このタイミングで井口選手から廣田光一選手にドライバーチェンジしてピットアウト。
約4分30秒のロスとなりましたが、順位は変わらず。
Team SDA Engineering BRZ CNF Conceptがピットアウトしてから10分後、ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptはエンジンを再始動させて問題ないことを確認して再びコースイン。ここから約30分のロスを挽回……と思った矢先に先ほどの症状が再発。
豊田選手はピットに戻れないと判断し、1コーナーのランオフエリアにクルマをストップ。チームはリタイアを選択しました。原因は燃料ポンプのヒューズ切れでした。
その後、Team SDA Engineering BRZ CNF Conceptは111周目に廣田選手から山内選手にドライバーを交代。終盤強い雨が降り始めたものの安定したタイムで走り続け、16時のチェッカーを受けました。
序盤はガチンコでいい戦いをしていましたが、途中で運命が大きく分かれた2台。
まずは最後まで走り切ったTeam SDA Engineering BRZ CNF Conceptの本井氏に感想を聞きました。
「途中までは非常に順調で、燃費戦略も当たりオーバーテイクもできましたが、想定外のトラブルが起きてしまいました。
結果として勝つことができたものの、『これもレースだな……』というのが本音です。
ただ、マシンもチームもいい方向に進んでおり、ドライバーからの要求レベルも上がってきています。
次は完璧なレースができるように、もっといいクルマに仕上げてきます」
続いて、初のリタイヤとなってしまったORC ROOKIE GR86 CNF Conceptの藤原氏です。
「クルマの進化は走りに表れていたと思いますが、まだまだ甘いな……と。
アッパーマウントの緩みも燃料系も以前のレースで発生していたことですが、真因を追求することなくここまで来てしまいました。
まだまだ土台固めがシッカリできていないことを改めて思い知らされました。
次戦(もてぎ)まで少し時間があります。
『レースに出るクルマを作る』ということに対して、一度総ざらいして見直しをおこなって挑みたいと思っています」
どちらも途中まではいい流れだったと思いますが、やはり一筋縄ではいかないのが、もっといいクルマづくりの面白い所であり難しいところです。
今回の結果で、Team SDA Engineeringが3勝/ORC ROOKIE Racingが1勝です。
スーパー耐久シリーズは全7戦なので、次戦(もてぎ)でORC ROOKIE Racingが勝たないとTeam SDA Engineeringの勝ち越しが決まります。
そういう意味では、次戦もてぎは大事な1戦となりそうです。
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