バリアフリーとユニバーサルデザインの違い
バリアフリーとは、既存のバリアーを何らかの形で補うことであり、ユニバーサルデザインとは、最初から誰もが使えることを意識してモノやサービスをデザインすることである。
ユニバーサルデザインは1985年頃、自身も車いすの利用者だった米国の建築家ロナルド・メイスによって提唱された。彼は、誰もが使いやすくするためのユニバーサルデザインの7原則を提唱した。
1.公平:誰もが不利になることなく、みんなが公平に利用できること
2.柔軟:利用する上での自由度や柔軟性が高いこと
3.簡単:必要な情報が直感的にすぐ理解できること
4.理解:難しく、長い説明書等を読まなくても使い方がすぐに分かること
5.安全:うっかりミスや危険につながらないこと、失敗してもすぐに克服できること
6.省力:無理な体勢をとることなく、少ない力で楽に使えること
7.空間:誰もが操作しやすいスペースや大きさに仕立てること
これらは交通環境の構築においても重要である。
公共交通の柔軟性
ここでひとつ誤解がある。ユニバーサルデザインというと、ノンステップバスやエレベーターなど、
「誰もが移動しやすい手段」
を作ることだと思っている人が非常に多い。筆者(西山敏樹、都市工学者)が大学で講義をしていると、この点を誤解している学部生や大学院生を多く見かける。公共交通にとって重要なのは
「柔軟性」
である。例えば、駅のホームにエレベーターしかなく、エスカレーターや階段がなかったら、ラッシュ時のホームは人であふれかえるだろう。
・車いすの利用者
・ベビーカーを押す小さな子どもの親
・重い荷物を持った出張者
はエレベーターを使う。
・少し具合の悪い人
・軽いけがをした人
はエスカレーターを使う。健康のために階段を好む人もいる。このような組み合わせによって、誰もが自分の好みに応じて柔軟に移動できるようになれば、システム的にはユニバーサルデザインに達していると考えられる。
路線バス完全キャッシュレス化
さて、本題である。
国土交通省はこのほど、路線バスの運賃をキャッシュレス決済のみで運行できるようにする方針を打ち出した。完全キャッシュレスバスを認めることで、
・現金管理にかかるコスト
・ドライバーの負担
を軽減する狙いがある。筆者も通勤で都内の路線バスを利用するが、ときどき、運賃230円(均一)を5000円札や1万円札で払おうとする人がいて、運転手が困っているのを見かける。
札を崩せないとき、他の乗客に両替を頼む人もいる。これはドライバーの負担になり、バスの遅れの原因にもなる。事前に230円の硬貨を用意していない乗客が悪いのだが、
「交通系ICカードすら持っていない高齢者」
は意外に多いのだ。
一都三県に住む人の「約9割」が、交通系ICカードかモバイルICカードを利用しているといわれている。利用していないのは1割だ。大手クレジットカード会社のジェーシービー(東京都港区)が2022年3月17日に発表した「クレジットカードに関する総合調査」2021年版によると、クレジットカードを持っていない人の割合は14.1%となっている。
首都圏ICカード利用率
そんななか、また新たなニュースが飛び込んできた。熊本県内の路線バス事業者5社
・九州産交バス
・産交バス
・熊本電鉄
・熊本バス
・熊本都市バス
は、バスと熊本電鉄電車の運賃支払い方法として、2024年内までに全国交通系ICカードの使用を廃止し、代わりにクレジットカードなどのタッチ決済を導入する方針を固めたというのだ。
クレジットカードに移行する主な理由は、交通系ICカードの運用コストに比べ、約半分に抑えられるからだ。現金決済や地域ICカード「くまモンのICカード」が継続利用できるようになったのは一安心だ。
しかし、この流れが全国に広がる危険性もある。そもそもクレジットカードは与信審査が基本である。
・高齢者の増加
・非正規社員の増加
で、クレジットカードをあきらめたり、審査に落ちたりする人が増える可能性も今後多くなるはずである。コード決済やモバイルICカード決済もクレジットカードとひもづいているケースが多い。
クレジットカードのタッチ決済は確かに便利だ。しかし、クレジットカードを中心とした決済システムのデザインが進むと、公共交通での移動そのものをためらう生活者が出てくる可能性が高い。
その点、交通系ICカードは無審査で購入できるため、誰にでも開かれたユニバーサルデザインの決済手段である。筆者のような“出張族”にとって、SuicaやPASMOで全国の公共交通を利用できるのはとても便利だ。このような状況が崩壊するかもしれないのである。
硬貨の重要性再評価
熊本にも
「せっかく全国交通系ICカードに慣れたのに」
という人が少なからずいるだろう。ただ、公共交通事業者の経営的な窮状は理解しているので、一概に批判はできない。
筆者は前回の連載記事「路線バス問題だけじゃない! なぜ日本では「移動の自由」に関する真剣な議論が起こらないのか」(2024年5月30日配信)で、誰もが自由に移動できる権利
「移動権」
について書いたが、その観点から見れば、デジタル化、キャッシュレス化が進めば進むほど、
「公共交通から排除され、移動権すら持てない人」
が増えていくことになる。
・貧困をなくそう
・飢餓をゼロに
・すべての人に健康と福祉を
・質の高い教育をみんなに
・ジェンダー平等を実現しよう
・安全な水とトイレを世界中に
・エネルギーをみんなに そしてクリーンに
・働きがいも経済成長も
・産業と技術革新の基盤をつくろう
・人や国の不平等をなくそう
・住み続けられるまちづくりを
・つくる責任 つかう責任
・気候変動に具体的な対策を
・海の豊かさを守ろう
・陸の豊かさも守ろう
・平和と公正をすべての人に
・パートナーシップで目標を達成しよう
というSDGs(持続可能な開発目標)が世界的に問われるなか、誰ひとり取り残さないためのユニバーサルデザインの理念も重要になってきているのだ。硬貨はアナログだが、
「真に万人に開かれたもの」
である。全国で使える交通系ICカードを管理するのが経営的に難しいのであれば、せめて硬貨だけでも残しておいたらどうだろうか。
国土交通省もキャッシュレス化の検証・評価を重要視しているが、ユニバーサルデザインの重要性を考え、移動権の観点から、地域でどの決済手段が重要なのかを議論してもらいたい。
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みんなのコメント
そのカードの運営コストを全国のバス・鉄道会社で割れば、今より運営コストは抑えられるんじゃないかな?
それを提案もしないで、地方の経営難のバス・鉄道会社の方針転換に移動権がどうのこうのと批判しても、『都会の人が煩い』ってだけだよ。