レクサスの人気車種である「UX」にこれまでのガソリン、ハイブリッド(HEV)に加え、「UX300e」というレクサス初のEVモデルがラインナップされた。
レクサスは『Lexus Electrified』という電動化ビジョンを打ち出し、電動化技術を用いて車両の基本性能向上を目指して2025年までに全車種に電動車を設定し、HEV、PHEV、EV、FCVの販売比率がガソリン車を上回ることを目標としている。世界各国のニーズやインフラ環境に応じた適材適所の電動車ラインナップを拡大する予定だ。
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肝となるのは「クルマの楽しさや喜びを大きく進化させ、未来の高級車の在り方を根本から変えていく」というレクサスのクルマ造り。このようなビジョンの下、レクサスのEVモデルのドアはこの「UX」から開かれたことになる。
航続可能距離は367km、日常使いとしては十分なバッテリーを搭載
2018年に登場した都会派コンパクトクロスオーバーモデルの「UX」。キリッとしたプロポーション、そしてインテリアの空間演出における独特の感性と表現も魅力だ。運転席でドライビングポジションを合せると、インパネ上部とボンネットの造形を連続させ一体感を演出するデザイン手法により、縁側から庭を眺めるような“抜け”の良い視界感が得られる。
また、コンパクトなボディーサイズが都市部の住宅街でも扱いやすく、一方、郊外生活者の日常の使い勝手はもちろん、休日にショッピングに出かけるようなカー&ライフを送る幅広い多くのユーザーにも支持されている。その人気ぶりは街中で見かける「UX」との遭遇率からも想像がつくのではないか。
このようにデザイン性、利便性、取り回しの良い既存モデルの「UX」は、航続可能距離367km(WLTCモード)と日常使いとしては十分なバッテリーを床下に搭載する。レクサスは、まず日常づかいをしやすい実用モデル「UX」に、EVという新たな動力を投入するという極めて現実的なモデル選択をした。
電動化技術については、すでにハイブリッド車で培ったモーター制御を武器(軸)に、EVならではのますますの静粛性はもちろん、モーター制御で走る動力レスポンスのマナーやエモーション、姿勢制御を実現している。
見た目は既存の「UX」というモデルのEV化ということで、エキゾーストパイプがなく専用のデザインを採用するホイールをグレードの一部に採用するほかに、デザインなどの大きな変更はない。インテリアはEV専用のシフトレバーやシフトノブ、そしてメーターパネルは後続可能距離や電費などを表示するEVモデル用メーターを採用。ステアリングの奥には、回生ブレーキ力を選べるパドルシフトも装備されている。
床下にバッテリーを搭載することによる空間のパッケージングや実用面での犠牲はない。着座位置がリヤシート下のあたりのバッテリーが2段積みになり、少しだけ高くなっているくらいだ。ラゲージの容量も2019年の一部改良時に拡げられた容量310ℓが変わらず用意されている。
そんな変わらぬ実用性とともに感じさせてくれる新しさと言えば、ドライブフィール&ドライバビリティー、そして空間の居心地の“質”だ。「UX300e」のアクセルペダルを踏み込めば、その瞬間からその度合いに応じたダイレクトで濃密な加速やトルクが得られるのは期待通り。
さらに「EVらしさよりもレクサスらしさ」を念頭に置いて仕上げられたという街中から郊外での低~中速域の加速フィールやマナーの精度を特筆したい。アクセルペダルの操作フィールはもう少しで仕上がる生クリームをかき混ぜているような滑らかさのなかに重さ(踏み応え)が感じられるところに上質なトルクを扱っている感覚を抱く。
日常、街中を走るような場面では静粛な室内でこのドライブフィールを味わえるのがちょっといい。また強めにアクセルを踏み込んだ時のフォームもよりフラットな乗り味のなかでは印象的だった。
加速をした際、腰の下あたりでタメを作って(沈み込んで)前進する“フォーム”のようなものが、わずかだけど無音の加速にエモーショナルさを添えてくれているようだったのだ。これはEV専用のショックアブソーバーの採用とともに、今回はピッチ(前後)方向の車両姿勢変化を抑える駆動力コントロール(特にペダル踏み込み初期の加速特性)にこだわっているそうでそれが効いているのかもしれないと開発者が教えてくれた。
走行モードをSPORTに切り替えれば、いっそうダイレクトでシャープな加速が得られ、パドルシフトの回生力コントロールもNormal、Sport、ecoなどの走行モードによって、可変段階数も変わり、減速時にはパドルも併せた操作を“あえて”楽しむことも(Bレンジに入れる4段をフルで活用することも)できるが、他ブランドのような1ペダル走行を採り入れた制御ではない。
ボンネット下の最重量物であるエンジンが取り除かれたことでフロントタイヤは走る、曲る、減速など止まる仕事がよりし易くなるというのもEVの強みだ。EVにとって主たる重量物となるバッテリーは床下のしかも前後タイヤ間という中央の低い位置に配置され、回頭性に優れる運動性能も向上している。
直進走行時はフラットで滑らかな乗り心地の良さが感じられ、連続するコーナーでも乗り心地の良さはそのままに姿勢を崩すことなく、スイスイとクリアしていく様子から、サスペンションが丁寧な仕事をしてくれていることが想像できた。EVは、そんな場面でも“アラ”が見えそうなほど、様々なことが静粛な中で行なわれるから一層、クルマづくりも隅々まで目を配らなければいけない。
ちなみに「UX300e」がEVモデルとしてのボディー補強が行なわれていることは言うまでもないが、目には見えない床下にちょっと注目してみたい。フラットに並ぶ(後方は2段重ね)“バッテリーパック”は“井桁形状(縦横で組むことで、一方方向より効率よく剛性がより上がる)のアンダーフレーム”に保護されている。さらにこれが、双方を点(部位)や線ではなく「面」で固定することで、ボディー剛性を高める効果もあるレクサスのEVづくりのちょっとした特徴なのだ。
ちょうどいいドライビングフィール
空間の居心地の良さは、視覚や感触に係わるデザインやそれらを構成する素材や質感だけでなく、乗り心地や静粛性も重要な要素。「UX300e」の場合、いわゆる“ノイズ”的な微細な振動なども感じにくく、取り除かれていた。内燃機関の独特の音や振動も決して悪いものではないが、EVとなれば話は別。静かになるからこそこれまで気にならなかった音が聞こえてしまうものへの対策もレクサス第1弾のEVとしてはぬかりなく丁寧に造り込まれているようだ。
ちなみに、EVはまったく音がないと言うわけではなく、わずかにモーター音は聞こえるし、タイヤが路面を捉える音も聞き感じることはできる。さらに「UX300e」にはアクティウサウンドコントロールを搭載され、ガソリン車とは異なるEVならではの加速音がドライビングの情緒感を盛り上げてくれる。
近年、様々なブランドからEVが登場しているが、正直言ってどのブランドのEVにも明確な個性が感じられるから面白い。レクサス「UX300e」のインプレッションでは、EVならではの洗練されたものであることは明白だった。
ただ、それだけでない理由で、試乗を終える際、離れがたい気持ちになった。「UX300e」はとにかく手頃なサイズ感で実用的。「あ~、このくらいのサイズってやっぱりいいな」と感じたのだ。
そして、絶妙なホスピタリティー。凄いのではなく、身の回りのモノが快適に使えるのがうれしかった。デザインに走りすぎず、必要な操作系スイッチをわかりやすく存在させるためにしっかりと取捨選択をし、使いやすさと快適な使用感をレクサスは提供している。
ACC(アダプティブクルーズコントロール)のセットも音楽との接続、さらにスマホの充電など、取るに足らない機能かもしれないが、日常のドライブでもちょいちょい使いたいものにスムーズにアクセスできるのがいい。そしてスイッチ類の操作の質感がいい。
EVモデルとしての進化はスマホとの連携によって、リモート充電や管理、リモートエアコンや専用アプリを使った自車位置周辺の充電ステーションの検索も可能だ。検索と言えば、レクサスには、レクサスオーナーデスクというオペレーターによるサポートも実績もあり心強い。
EVならではの走行性能や静粛性も新たな魅力ではあるものの、結局のところ、自分のライフスタイル(利用環境や価格も含む)に合わせて動力を選べばいいわけだが、近年ますますレクサスのレクサスらしい世界感をブランドに感じられるようになったという実感がある。世界が求める電動化に対し、レクサスはハイブリッドで培った技術の高い信頼性とブランド力で、しっかりと応えようとしている。
◆ 関連情報
https://lexus.jp/models/ux300e/
文/飯田裕子(モータージャーナリスト)
撮影/望月浩彦
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