「千代とロニーの状態は、かつての本山とブノワのようだった」NISMO柿元アンバサダーが思いを馳せる、クインタレッリの過去と今

　12月8日に開催されたスーパーGT最終戦をもって、NISMOのロニー・クインタレッリがスーパーGTから引退した。クインタレッリは2002年に来日し翌年から全日本F3にチャレンジし翌年にはタイトルを獲得。その次の05年からはフォーミュラ・ニッポン（現スーパーフォーミュラ）、そしてスーパーGTにはSARDからエントリーした。07年にフォーミュラ・ニッポンで初優勝を果たしたクインタレッリだったが、08年にスーパーGTでは日産陣営へ移籍し、史上最多4回のGT500クラスチャンピオンを獲得した。

　トヨタ系チームのINGINGに在籍し、フォーミュラでも実力を発揮し始めていたクインタレッリの日産系チームへの移籍はスムーズだったのか？　そして成功の秘訣は？　当時日産系スーパーGTチームの総監督を務めていた柿元邦彦 日産／NISMOアンバサダーに訊いた。

「ロニーをチームに欲しいと言ったのは長谷見（昌弘）さんでした。そこで私とNISMOの飯島（嘉孝）監督（当時）と共に東京滞在中のINGINGの卜部（治久）代表のホテルを訪ねたんです。卜部さんとは1時間ぐらい話をしたのかな？　でも、すんなりと手放してくれなかったような気がします。最後は卜部さんから『ロニーをチャンピオンにして欲しい。それであれば良いよ』と言われ、『ちゃんとそうしますから』と言って移籍が決まりました」

「かつてエリック・コマスがCERUMOのにいて、その時に良いドライバーだなと思いました（97年にNISMOへ移籍）。ロニーもフォーミュラ・ニッポンではINGING（07年からCERUMO・INGING）で走っていました。どちらも走りだしてすぐに速かったんですよね。そういう走り方をCERUMOの佐藤（正幸）さん（通称：バテさん）がやらせていたのかな？　その印象がすごく強かったんです」

「これはもう『欲しいな』と思っていたんですけど、他メーカーのドライバーは簡単に移籍ってできないですよね。それでも長谷見さんが何とかしてくれって言うのでね」

　そのように移籍の経緯を語った柿元氏。彼の人となりについては次のように語った。

「彼は他の多くの外国人ドライバーと違って、日本人に馴染んで“郷に入れば郷に従う”という精神を持っていました。日本人を良く理解しようとすると日本語を覚えて話しますよね。コマスや（ミハエル）クルムもそうだし。日本語を話さなければダメだというのは、やっぱり日本で活躍するためには必要なんだと理解したんでしょう」

「チームスタッフともそうだしライバルのドライバーともそうですが、そういう姿勢があったからこそ成功し今の彼を作ったのではないかと思いますね。彼に生年月日を聞くと『昭和54年』と昭和で言うんですよ。僕は昭和で言われてもピンと来なくて、西暦の方が分かりやすいんですけどね（苦笑）」

　クインタレッリのことを気にしていた柿元氏は、今年の彼の様子をこう語る。

「今年は、自分でタイムが出ているはずがタイムが出ていない。眼がついていかないとか感覚がちょっとずれて来ている。それではちょっと無理かと思ったのかもしれないですね」

「僕はずっと彼のことを見ていたから、今年はタイヤでちょっと苦労するかなと思っていました。かつて本山（哲）はブリヂストンでは速かったけれど、ミシュランではハードに入力しないといけなくて苦労しました。でもブノワ（トレルイエ）には合っていた。今年の千代とロニーの状態は、かつての本山とブノワがブリヂストンからミシュランに変わった時の違いのような感じがしました」

「1、2戦すれば慣れると思ったけれど、どんどん悪い方向に行ってしまいましたね。例年だと僕を捕まえて話をしてくるのに、今年はなかなか目を合わそうとしなかった。レースにドライバーとしてしがみつくよりはスパッとやめた方が良いと思ったんじゃないのかな？」

　そして「僕は2004年から12年間日産のスーパーGT総監督をやって6回タイトルを獲ったわけですが、そのうち4回はロニーが獲ったもの。彼が実績を残してくれたので僕も実績を残せたということが言えますね。結果を残したドライバーだから、今後は後進のアドバイスや育成に携わってくれると思っています」と新たな活躍に期待を込めた。