■転んでもただでは起きないランボルギーニ
「ヤングタイマー」とも呼ばれる1980-90年代のネオ・クラシックカーは、個性的な人気モデルが数多く存在することで知られている。
「ハリアー」を「ランボルギーニ」そっくりにカスタム! その再現度がハンパない!
とくに「スーパーカー」と呼ばれるジャンルのバラエティが格段に増えたのも、この時期の特徴。なかでもランボルギーニのスーパー・クロスカントリーカー「LM002」は、この時代の百花繚乱ぶりを象徴するモデルといえるだろう。
ランボルギーニの最新SUV「ウルス」の登場で、再びスポットライトを浴びたLM002は、もともとアメリカ/NATO軍からの正式採用を目指して開発されたプロトタイプ「チータ」から発展し、「LMA」など複数の試作車両を経て、1986年から市販が開始された。
シリーズ生産モデルとなったLM002は、「カウンタック・クワトロヴァルヴォーレ/アニバーサリー」用の5.2リッターV型12気筒4カムシャフト48バルブのエンジンを、クロスカントリーカーの使用目的に適合させるべく、若干ながらデチューンして搭載。それでも450psをマークし、総重量では3tオーバーに達する巨体を、実に210km/hまで引っ張ったとされている。
その出自を示すように、ボディは軍用車然とした武骨なスタイル。極太で巨大なタイヤも相まって、その迫力は乗用車の常識を超えたものとなっていた。
しかしその一方で、インテリアは豪奢な本革レザーと天然ウッドパネルによって設えられるという、当時としては異次元的なスーパー・クロスカントリーカーであった。まさしく唯一無二の存在であったがゆえに、極めて高価であった。1993年に生産を終えるまで328台(ほかに301台説もあり)が、ランボルギーニ本社工場からラインオフしたという。
今回はRMサザビーズ社が2020年10月および11月に、大西洋を挟んだ英国とアメリカで相次いで開催した「LONDON」オークション、および「OPEN ROADS, FALL」オークションに出品された、生産年の異なる2台の「LM002」を紹介しよう。
2年の年式差があるとはいえ、基本的には同一のモデル。それが車両のコンディションや来歴、あるいはオークションのおこなわれた国や時期によって、オークションの評価にいかなる違いが出るかについてもレポートする。
●1988 ランボルギーニ「LM002」
まず紹介するのは、2020年11月中旬にRMサザビーズ北米本社が主催した「OPEN ROADS, FALL」オークションの出品車両である、1988年型のLM002である。
公式WEBカタログによると、新車としてはスウェーデンにデリバリーされ、1988年11月11日に初めて交通当局の登録を受けたとされる。
スウェーデンで一定期間を過ごしたのちイタリアに戻り、一時期はエミリア・ロマーニャ州ボローニャ近郊の「ムゼオ・フェルッチオ・ランボルギーニ」に展示されていたとも伝えられているが、その後は長らくオランダのディーラーによって所蔵されていた。
そして2015年、今回のオークション出品依頼者によって英国に輸入されて現在に至るとのこと。2017年6月に発行された請求書は、純正指定の「ピレリ・スコーピオン・ゼロ」タイヤ5本の交換を含む、直近のメンテナンス履歴を示している。
またこの作業の際には、新品バッテリーにエアコン用コンプレッサークラッチ、燃料タンクのフロートセンサー、オイルフィルター、リアアクスルのCVブーツなどもすべて交換。それらの作業については、すべて整備記録簿に記されているという。
さらにこのオークション出品に際しては、ブレーキやイグニッション、燃料供給システムなどについても、必要に応じて見直しや修理がおこなわれていたとのことだ。
このアカプルコ・ブルー/オーバーライトグレーレザーのLM002は、この時代の正しいキャブレターを備えており、現状のマイレージは1万7260km未満で表示されている。
一方、本革レザーで設えられたインテリアでは、日本のアルパイン社製ヘッドユニットと独ブラウプンクト社製アンプ/スピーカーからなるオーディオシステムが、ウッドトリムで見事に仕立てられたコンソールに組み込まれている。
このランボルギーニLM002に対して、RMサザビーズ社は25万ドル-30万ドル、すなわち邦貨換算約2570万円-約3080万円のエスティメートを設定したが、実際のオンライン競売では最低落札価格に及ばなかったようで、残念ながら「No Sale(流札)」となった。
現状では、RMサザビーズ北米本社のカスタマー部門による継続販売中となっているようだ。
■「BBCトップギア」に出た「LM002」とは
2020年10月末に開催されたRMサザビーズ社「LONDON」オークションのランボルギーニLM002は、ボディ/インテリアのカラーまで「OPEN ROADS, FALL」オークション出品車と同じなので少々まぎらわしいのだが、こちらはちょっとだけ新しい1990年型である。
ボンネットに設けられた大きな「こぶ」が示すように、当時のデフォルトたるキャブレター仕様車である。
●1990 ランボルギーニ「LM002」
ランボルギーニ本社直営のクラシック部門「ランボルギーニ・ポロストリコ」の資料によると、もともとスイスのローザンヌに新車としてデリバリーされた1台とのこと。しばらくののちサンタアガタ・ボロネーゼのランボルギーニ本社工場に戻されてサービスを施されたとの記録も残っている。
1997年に、ウイスキーリキュールの名門「ドランブイ(DRAMBUIE)」社のコレクションに収蔵されるべくスコットランドに移送されたのだが、5年後の2002年にドランブイ社が資産を売却した際に、スコットランドのフェラーリディーラー「グレン・バラギル」社を介してチェシャーのランボルギーニ愛好家に売却された。
2003年9月、当時のオーナーは英国内でおこなわれたランボルギーニのイベントに持ち込んだ際に、ヴァレンティノ・バルボーニによる「レジストロ・ランボルギーニ」の技術委員会に代わってテクニカルチェックを受けた。この時のチェックで、バルボーニは「エッチェレンテ(Eccellente=エクセレント)」と評したという。
また1か月後の2003年10月には、英国の超人気TV番組「BBCトップギア」のランボルギーニ・スペシャルにも出演。この時代の「スティグ」として知られているレーシングドライバー、ベン・コリンズ選手によって、サーキットのタイムトライアルにも供されている。
そして「BBCトップギア」で酷使された直後、ロンドンのランボルギーニ社指定サービスエージェント「HRオーウェン」社ファクトリーに持ち込まれ、完全なチェックとマイナーサービス、そして小規模の修理が施されたとのことである。
2008年の後半には再びHRオーウェン社に戻され、より徹底的なサービスに加えて、新しいスプリングとショックアブソーバーへの交換を含めたサスペンションのオーバーホールや、そのほかの修復作業に供された上に、ランボルギーニ本社に残されていた最後の1台といわれる純正ウィンチも取り付けられている。
さらに2019年には、完全なリペイントと内装のディテール修正、エンジンおよび補器類のオーバーホール、燃料タンクとブレーキのオーバーホールが施された。
新車時以来のオリジナルを保ったインテリアと美しい外観を持つ、最上級のLM002をレストアするためにおこなわれたこの一連の作業には5万ポンド以上のコストが投入され、作業時の詳細な写真ファイルも添付されるという。
このLM002について、RMサザビーズ社は21万-26万ポンド、日本円に換算して約2940万円-約3640万円というエスティメート(推定落札価格)を設定。これは、前述の個体と比べるとかなり強気な価格であり、新形コロナ禍以降のマーケット相場から見ればLM002のハイエンドともいえる。
数奇なヒストリーまで含めて英国内ではもっとも有名なLM002であり、しかもコンディションも極上であることを意識しての価格差と見て間違いあるまい。
残念ながら、こちらもオンライン競売での落札には至らなかったが、終了からしばらくののちに「Sold After Auction」とWEBカタログに表示。つまり、営業部門による個別販売が成立したことになる。
おそらく一定のディスカウントはあったものと思われるが、やはりこれほどのLM002には、然るべき顧客がつくということなのだろう。
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間違いなく目立つだろうけど。