スクランブラーに対する情熱
「スクランブラー」と言うと、日本勢で該当するモデルはホンダ「CL250」と「CL500」くらいですが、海外勢にとってスクランブラーは重要なジャンルで、昨今ではトライアンフやBMW、ドゥカティ、ロイヤルエンフィールド、ハスクバーナ、ファンティックなど、多くのメーカーのラインナップに、オフロードテイストを盛り込んだオンロードバイクが並んでいます。
【画像】400ccクラスの単気筒スクランブラー。トライアンフ「SCRAMBLER 400 X」(2024年型)を画像で見る(18枚)
中でも、スクランブラーに並々ならぬ力を注いでいるのは、古き良き時代の雰囲気を再現した「モダンクラシック」シリーズを重要な柱としているトライアンフでしょう。ライバルに先駆ける形で、2006年から排気量865ccのツインエンジンを搭載するスクランブラーの販売を開始した同社は、近年はこの分野に900ccツインと1200ccツインを投入し、さらに2024年からは新世代の400cc単気筒車「スクランブラー400X」をラインナップに加えたのですから。
「スクランブラー400X」には、基本設計を共有するオンロードモデルの「スピード400」が存在し、各車の価格(消費税10%込み)は「スクランブラー400X」が81万9000円で、「スピード400」は72万9000円です。
9万円の差をどう感じるかは人それぞれですが、ツインエンジンを搭載する既存の同社製スクランブラーが、開発ベースのオンロードモデルより10~20万円ほど高額だったことを考えると、妥当と言って良いような気がします。
多岐に渡る、兄弟車との相違点
「スピード400」を基準にして考えた場合、「スクランブラー400X」の特徴は、フロント19/リア17インチのブロックパターンタイヤ、前後とも150mmのストロークを確保したサスペンション(「スピード400」のタイヤは前後17インチイのハイグリップスポーツ系で、サスペンションストロークはフロント140/リア130mm)、ワイド&アップタイプのハンドル、前方かつ下方に設置されたステップ、長めのホイールベース(スピード400+41mmの1418mm)などです。
そのあたりは既存の同社製スクランブラーに通じる要素ですが、スポークホイール、アップマフラー、ショートタイプのフロントフェンダーを装備する900/1200ccの兄貴分とは異なり、「スクランブラー400X」はキャストホイール、ダウンマフラー、ロングタイプのフロントフェンダーを採用しています(いずれのパーツも「スピード400」とは異なるデザイン)。その理由は定かではないですが、おそらく、フレンドリーさを意識してのことでしょう。
ちょうど良い性能を改めて実感
一昔前の400cc前後の単気筒車には、ちょっと特殊な分野、何らかのこだわりを持つ人が選ぶ車両、などというイメージがありました。とはいえ今回の試乗で「スクランブラー400X」を体験した私(筆者:中村友彦)は、「もしかすると400cc前後の単気筒車は、日本人と日本の道路事情との相性がムチャクチャ良好なんじゃないか?」と感じました。
と言っても、それは基本設計を共有する「スピード400」にも通じる話です。エンジンが必要にして十分なパワーを発揮し、車重が軽くてハンドリングが素直なトライアンフの400cc単気筒車は(最高出力はいずれも40ps/8000rpm、車重は「スピード400」が170kgで「スクランブラー400X」が179kg)、混雑した市街地から快適なワインディングロードまで、どんな場面にも柔軟に対応できるうえに、操作に難しいところがまったくないので、「ちょうど良い」という言葉が頭に浮かぶのです。
もちろん、なにをもってそう感じるかは各人各様でしょう。トライアンフの400cc単気筒車よりクラシカルな特性のホンダ「GB350/S」や、ロイヤルエンフィールド「クラシック350」シリーズなどがしっくり来る人がいれば、トライアンフの400cc単気筒車よりスポーティなKTM「390デューク」やハスクバーナ「ヴィットピレン401」「スヴァルトピレン401」にそそられる人もいるはずです。
いずれにしても、周辺技術が進化した近年の400cc前後の単気筒車には、一昔前のビッグシングルのような、爆発回数の少なさに起因する低回転域の扱いづらさや、爆発感がダイレクトに伝わる過大な振動といった問題が存在しないのです。そして「スクランブラー400X」と「スピード400」は、ライバル勢よりも400cc単気筒車のちょうど良さが実感しやすいモデルだと私は感じました。
意外なことに、ヒラヒラ軽快ではない?
ところで、スクランブラーと言ったら「オフロードが気軽に走れてハンドリングがヒラヒラ軽快」というイメージを抱いている人が多いのではないでしょうか。かく言う私もその1人ですが、「スクランブラー400X」の場合は、オフロードがそれなりに走れる悪路走破性を備えている一方で、ヒラヒラと言うほど軽快ではありませんでした。
その主な理由は、兄弟車の「スピード400」より9kg重い車重と、41mm長いホイールベース、ダンパーの利きがいまひとつで動きがフワフワしている前後サスペンションです。
じつは試乗前の私は、高めのシート(「スピード400」+45mmの835mm)の効果でライダー込みの重心が高くなり、そのおかげで軽快な乗り味を実現しているはず……と想像していたのですが、「スピード400」と比較すると、そのハンドリングは良く言えば安定性重視、悪く言うならモッサリだったのです。
もっとも、私にとってその印象はマイナスではありませんでした。それどころか、穏やかで優しくて安定感が高い乗り味は、ツーリング好きの私にはグッと来るものがあります。
軽くて小さくて運動性に優れる「スピード400」と比較するなら、絶妙な差別化が図れていると思いました。そしてそういった各車各様の特性は、これまでの「モダンクラシック」シリーズでスクランブラーに関するノウハウを積み上げてきた、トライアンフだから実現できたのではないかと思います。
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俺はいらん。