フェラーリ、ランボルギーニ、プジョーなど、世界の多くの自動車メーカーが、エンブレムのモチーフに動物を採用している。動物が採用されることは特段おかしなことではないが、自動車メーカーのエンブレムは、異常に「動物率」が高い。
自動車メーカーのエンブレムには、なぜ動物が使用されることが多いのか。自動車メーカーのエンブレムの歴史を振り返りつつ、動物がモチーフになっている背景について紐解いていく。
売れまくり新型ハリアー 登場から1年たっても続く快進撃 大ヒットの要因は
文:エムスリープロダクション/立花義人
アイキャッチ写真:Adobe Stock_Mathias Weil
写真:Ferrari、Lamborghini、Peugeot、JAGUAR、Porsche、Alfa Romeo、ABARTH、TOYOTA、SUZUKI
【画像ギャラリー】こんなにたくさんある!! 動物のエンブレムが採用されているメーカーやクルマ
フェラーリの跳ね馬は「騎兵隊が駆る馬」がルーツ
自動車と動物には「移動する」という共通の特徴がある。疾走する馬やしなやかな体躯のジャガー、威厳のある存在感のライオンなど、万国共通のイメージをクルマに投影させることで、車に対してあたかも血の通った生き物であるかのような佇まいと生命感を与えることができるのだ。
例えば、黄色の背景に後ろ足で立ち上がる黒い馬、「跳ね馬」と呼ばれるエンブレムを採用するフェラーリ。まさにスーパーカーにふさわしい気品とプレステージ性を備えたエンブレムであるが、これは創業者のエンツォ・フェラーリが創作したものではない。
「跳ね馬」と呼ばれるフェラーリのエンブレム(PHOTO:Adobe Stock_Mathias Weil)
フェラーリのエンブレムは、イタリアの戦闘機パイロット、フランチェスコ・バラッカが自身の乗る機体に貼り付けていた、騎兵隊が駆る馬(当時まだ空軍は存在せず、航空部隊は騎兵隊の一部であった)をルーツとするシンボルマークに由来しているのだ。
彼の戦死から5年後の1923年、当時のレースで優勝したフェラーリに、バラッカの母親が「フェラーリ、私の息子の跳ね馬をあなたの車に乗せてあげてください。それはあなたに幸運をもたらすでしょう。」と言ったとされている。フェラーリはこの申し出に応え、1932年、ベルギーのスパ24時間レースに参戦した二台のマシンに跳ね馬のエンブレムを取り付けた。
「跳ね馬」は、フェラーリの躍動感のあるフォルムにぴったりだ
バラッカはその輝かしい戦績からイタリア空軍の英雄と讃えられた人物だった。彼の両親はその息子の記憶を引き継ぐために、レースで優勝したエンツォ・フェラーリに託したのだ。
モーターレースでの活躍やスーパーカーの開発など、その後のフェラーリの歴史や高尚なブランド力については多くの方が知るところだ。力強く走ることや気品あふれる佇まい、躍動感のある美しいフォルムなど、「跳ね馬」に人が抱くイメージが、そのままフェラーリのブランド力として見事に生かされている。
レースで勝つことに情熱を注いだエンツォ・フェラーリの思いを象徴するのに、ぴったりの動物であったと言えよう。
もはや「跳ね馬」あってこそのフェラーリだ
「トラクター」のイメージを逆手にとったランボルギーニ
さて、イタリアのスーパーカーブランドの中で、フェラーリに並ぶ人気を誇るのがランボルギーニである。
ランボルギーニのエンブレム。「(フェラーリの)馬に対抗して牛」という単純なものではなく…(PHOTO:Adobe Stock_Mathias Weil)
ランボルギーニは第二次世界大戦後、イタリアで不足していたトラックやトラクターの製造でビジネスを拡大。その後、1960年代の初頭に「フェラーリに対抗するスーパーカーを作る」というプロジェクトが立ち上がったという歴史がある。
このように農業機械の生産からビジネスを展開したランボルギーニのエンブレムには、「猛牛」が描かれている。
猛牛のエンブレムは、トラクターの製造をルーツに持つランボルギーニが、その「力強さ」というイメージをエンブレムに表したもの
乗用車を作り始めた当初こそトラクター製造の出自を揶揄されたが、スペインの有名な闘牛牧場「ミウラ」をはじめ、ディアブロ、ムルシエラゴ、レヴェントン、ヴェネーノなど、闘牛にちなんだ名前と猛々しい排気音、独創的なデザインの車を次々と販売し、ファンを獲得していったのだ。
ランボルギーニのエンブレムの由来は「フェラーリ(馬)に対抗して牛」という単純な発想ではない。農作業で力強く活躍するトラクターの製造をルーツに持つランボルギーニが、そのイメージをスーパーカー・GTカー作りの個性に活かしたのだ。牛はまさにそのインスピレーションの象徴ということである。
猛々しい排気音はまさに「猛牛」の力強さを感じられるものだ
元々は「最高品質の証」だったプジョーのライオン
フランスのプジョーは今でこそ自動車メーカーとしてのイメージが定着しているが、もともとは家族経営の製鉄業がルーツである。そのはじまりは1810年に遡る。当時プジョーは、最高品質を示す「ライオン」マークをつけた工具や傘、コーヒーミル、自転車といった製品を世に送り出していた。
もともと「ライオン」のマークは、ノコギリの最高品質の証として用いられていたもの。刃物の切れ味や固さ、しなやかさがライオンの歯や肉体、獲物に飛びかかる力強さと結び付けられていたのだ。これが次第に、最高品質の証として定着し、プジョーの他の製品にも用いられるようになっていったのだ。
プジョーは2021年2月にロゴを刷新。これまでとは異なり、ライオンの顔だけをモチーフとしたデザインとなった
当然のようにプジョーは、ライオンマークを自動車のエンブレムにも採用し、世界中の人々、特に庶民の生活を支えるヒット車を次々と誕生させる。これもひとえにライオンの威厳に満ちた存在感が、プジョーの品質の「証」となってきたからであろう。
近年、自動車産業の競争が激化する中で、プジョーはライオンの動物的な特徴を「個性」として、より積極的にブランディングに活用している。例えばライオンの牙を象ったシグネチャーランプや、鉤爪をモチーフにしたコンビネーションランプなど、プジョーがライオンをモチーフにしているからこそ成り立つディテールが見られる。
技術が進歩して「壊れない」クルマが当たり前の今、プジョーにおいてライオンマークが果たすべき役割も変わってきているのだ。
日本では販売されているプジョーブランドのクルマは、旧エンブレムのまま
欧州で販売されている308には、新エンブレムが装備されている
動物モチーフは「人間の憧れ」
ここで紹介したメーカー以外にも、ジャガーやポルシェ、アルファロメオ、アバルト、ダッジなど、動物をモチーフにしたロゴ・エンブレムはたくさんあり、それぞれに歴史と背景がある。また、メーカーエンブレムだけでなく、個々のクルマで動物エンブレムを採用しているクルマもある。
トヨタハリアーは、先代型まで「鷹」のエンブレムを採用していたが、ブランド戦略の変更により、現行型からトヨタマークになってしまった。トレードマークとなっていただけに残念だ
俊敏さや軽やかさ、しなやかさ、力強さなど、動物の持つ特徴に人間が憧れ、これらの動物のように、力強く生き、軽快に大地を駆け抜けるというイメージをクルマに持たせた。そう考えると、異常な動物率も納得できるであろう。
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