デザインやインテリアで最高とはいえない
今日は、かつてランボルギーニ・ムルシエラゴを打ち負かした、996型ポルシェ911 ターボSの鍵が手元にある。目前にすると、昔の思い出だけでなく、過ぎた時間を感じずにはいられない。
【画像】リアウイングを正当化する爆発的パワー ポルシェ911 ターボ 930/993/996 現行の992も 全123枚
広がったフェンダーはドラマチックで、フロントバンパーに勇ましいエアインテークが並ぶ。涙目のヘッドライトが収まるノーズはフラット。リアバンパー・サイドのエアアウトレットは、エンジンルーム内に負圧を作り、インタークーラーへ空気を導く。
996型ターボSは、やっぱり筆者の心を動かす。状態の良いGT3 RSが、15万ポンド(約2850万円)で売買される理由もわかる。
2024年は、911 ターボの誕生50周年。これを記念し、グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードでのデモ走行のため、ポルシェはドイツのミュージアムで所蔵する車両をグレートブリテン島へ運んできた。
GTシルバーのボディは新車のように美しく、トランスミッションはマニュアル。これを機に、AUTOCARで試乗する時間も作っていただいた。走行距離の短い、ダークグリーンの930型ターボと、止まっていても速そうなレッドの993型ターボも一緒だ。
まず運転するのは、996型。ミレニアム世代の911は、確かにデザインやインテリアで最高とはいえないかもしれない。しかし、エンジンは特別。450psを発揮する水冷のフラット6は、排気量がピッタリ3600cc。静かに、すぐに始動する。
公道へ出てみると、ターボの載ったスポーツカーとしては印象が控え目。息が詰まるような加速を、前のめりに披露するわけではない。
911 GT1の延長上にあるタフなフラット6
とはいえ、このエンジンは1998年のル・マン24時間レースで優勝した、911 GT1の延長上にある。同時期のカレラに載っていた、3.4Lユニットとは別物。当時のポルシェは、レーシングカーのホモロゲーションを取得する必要があったのだ。
911 GT1のドライサンプユニットを公道モデルへ展開すれば、開発コストを回収できる。その結果、996型のターボには、耐久レースにも耐え得るフラット6が与えられた。これぞ、本物のメツガー・エンジンだ。
運転体験は、想像以上にスムーズ。サスペンションはソフトで、素晴らしい乗り心地。しなやかで、適度な締まりがある。ボディは小さく感じられ、911 ターボのイメージ通り。だが、993型ほどレスポンシブではない。
先代からボディ剛性は50%高く、モダンな雰囲気も漂わせる。ステアリングラックは油圧式で、自然な重み付けが好ましい。
シフトレバーのストロークは長く、着座位置は高め。設計の古さも匂わせるが、大きな欠点とはいえない。同時期の四輪駆動モデルより、高い速度域で走りやすい。
ひと世代前の、993型ターボへ乗り換える。不思議にも、この3台では992型との印象が最も近い。クラッチを強化する必要があったほど、トルクが太いからだろう。
ステアリングホイールは大きいが、ツーリング志向の996型にはない、積極性を滲ませる。自然な敏捷性が、活発な個性を強めている。
旋回性は、3台で最もリアアクスル寄り。博物館コンディションの930型を、本域で攻める勇気が筆者にあれば、2番目かもしれないが。
高回転域で劇的サウンドを撒き散らす930型
そんなダークグリーンの930型は、機械的な雰囲気が濃く、果てしなく魅力的。最高出力は259psで、本で読むほど気難しいマナーではない。高精度なシャシーが、急激に高まるパワーデリバリーを親しみやすいものにする。
何より軽さが強みで、車重は1140kg。993型比で360kgも軽い。996型は1540kgある。そう考えると、650psで歴代最速の992型ターボSは1640kgだから、重すぎとはいえないだろう。
この3台は、ターボが強化するパワフルさで共通する。だが、930型はちょっと悪びれた生涯の友人といった感じ。996型は、飛行機の操縦室でパートナーを組みたい友だち。993型は、一緒に飲み歩きたい幼馴染みといったところ。
それに対し992型は、ブースト感が弱い。2016年以降は、通常のカレラにもターボエンジンが載り、「ターボ」の特別感も薄まった。結果として、往年のヒーローは一層輝いて見える。
911 GT1由来エンジンが生み出す996型のトルクは、際立って刺激的。可変バルブ機構、バリオカム・プラスの効果でレスポンスは鋭く、線形的なパワー感が気持ちいい。
930型の3.0Lフラット6は、高回転域で劇的なサウンドを撒き散らす。パワーバンドが狭くても、思いきり楽しい。機械だが、野生動物のような味わいがある。2500rpm以上へ引っ張れば、景色が霞む勢いで突進してみせる。
その間に作られた993型は、印象もその中間。413psは、2024年では驚くような数字ではないものの、実際は熱狂的。ブースト上昇時に表出するエネルギッシュさは、最高以外の何物でもない。930型より扱いやすくもある。
リアウイングを正当化してきた爆発的な速さ
半世紀に渡って、目的地までの道を縮める爆発的な速さが、911 ターボの核心にあった。リアでそびえ立つウイングを、正当化してきた。
電動化が進む中、ポルシェは未来の911 ターボ像をどう描いているのだろうか。バッテリーEVにとって、息が詰まる勢いの加速は目新しいものではない。同時に内燃エンジンも進化を果たし、ターボラグはほぼ無視できるようになっている。
興奮を求めたとしても、ブースト圧を故意に高めた911 ターボが登場することはないだろう。より、個性を深めることが重要なのかもしれない。濃い味の歴代3台ヘ試乗し、そんな事を考えた。
ポルシェ911 ターボ 3台のスペック
ポルシェ911 ターボ(930型/1974~1989年/欧州仕様)
英国価格:1万4800ポンド(1975年)
全長:4300mm
全幅:1650mm
全高:1350mm
最高速度:249km/h以上
0-100km/h加速:5.5秒
燃費:−km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1140kg
パワートレイン:水平対向6気筒2994cc ターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:259ps/5500rpm
最大トルク:35.0kg-m/4000rpm
ギアボックス:4速マニュアル(後輪駆動)
ポルシェ911 ターボ(993型/1995~1998年/欧州仕様)
英国価格:9万1950ポンド(1995年)
全長:4245mm
全幅:1795mm
全高:1285mm
最高速度:289km/h
0-100km/h加速:4.5秒
燃費:−km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1500kg
パワートレイン:水平対向6気筒3600cc ツイン・ターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:413ps/5750rpm
最大トルク:54.9kg-m/4500rpm
ギアボックス:6速マニュアル(四輪駆動)
ポルシェ911 ターボS(996型/2000~2004年/欧州仕様)
英国価格:10万5000ポンド(2005年)
全長:4430mm
全幅:1795mm
全高:1305mm
最高速度:289km/h
0-100km/h加速:4.5秒
燃費:−km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1540kg
パワートレイン:水平対向6気筒3600cc ツイン・ターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:450ps/5700rpm
最大トルク:63.0kg-m/3500-4500rpm
ギアボックス:6速マニュアル(四輪駆動)
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