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新世代ポルシェの嚆矢となったハイパースポーツ、918 スパイダーを振り返る 【Playback GENROQ 2019】

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新世代ポルシェの嚆矢となったハイパースポーツ、918 スパイダーを振り返る 【Playback GENROQ 2019】

Porsche 918 Spyder

ポルシェ 918 スパイダー

新世代ポルシェの嚆矢となったハイパースポーツ、918 スパイダーを振り返る 【Playback GENROQ 2019】

新たなテーゼ

カレラGT以来の沈黙を破って2010年のジュネーブ・ショーでポルシェがお披露目したのは、ミッドのV8ユニットに前後2基のモーターを組み合わせたプラグインハイブリッドのスーパーカーだった。それは彼らが目指す近未来スーパースポーツのテストベッドとしての使命を帯びたものでもあった。

渡辺敏史「これは究極のワンオフ・モデルではない。次世代ポルシェの布石なのだ」

ポルシェにとってはカレラGT以来のリミテッドモデルとなる918 スパイダーは、2010年3月のジュネーブ・ショーでコンセプトモデルを発表、2011年5月に市販化が決定し、2013年9月より生産が開始された。

この時期、ライバルにあたるスポーツカーブランドは相次いでハイブリッドのリミテッドモデルを発表しているが、時系列的には918 スパイダーがその先鞭をつけたといっても過言ではないだろう。いずれも充電ポートを持つものの、ライバルたちはF1由来の減速回生を主としたあくまでエンジン主体のパワートレイン構成となっているのに対して、918 スパイダーはプラグインハイブリッドと呼ぶに相応しい電池容量(6.8kWh)とEV走行距離(最大30km)をマークするなど、そのエンジニアリングも一線を画している。

「RSスパイダーのユニットをベースとする4.6リッターV8は最高出力608psを発揮」

搭載されるエンジンはLMP2レーシングカーであるRSスパイダーのユニットをベースとする4.6リッターV8で、最高出力は608psを発揮。そこに7速PDKを介して組み合わせられる後軸用モーターの出力は156ps。さらに前軸側にも129psのモーターを置き、合わせてのシステム出力は887psに達するという。このクルマの特殊性を際立てる上方排気のエキゾーストシステムはアンダーフロアのエアロダイナミクスを理想的な状態にすべく開発された。

カーボンモノコック構造のキャビンにアルミの前後セクションを組み合わせるシャシー構造はリミテッドモデルにポピュラーな手法だが、モーターやバッテリーを内包するパッケージにはポルシェのノウハウが詰められており、前側にはハードトップを収めることもできる110リットルのトランクスペースを捻り出している辺りに実用性を犠牲にしないというブランドのポリシーが透けて見える。ただしバッテリーと燃料タンクが縦置きされるシート背後にスペースは設けられない。

「918 スパイダーの美点は次世代商品群のための布石になっているところだ」

0-100km/h加速は2.6秒、最高速は345km/h、ニュルブルクリンク北コースのラップタイムは6分57秒──。公表されたパフォーマンスデータは当時としては十分に刺激的だった。が、一方で918 スパイダーはNEDC計測値で3.0L/100km、70g/kmという低燃費を記録してもいる。欧州にはプラグインハイブリッドを計測係数で過剰に優遇するところもあるが、918 スパイダーの開発目標が単なる速さだけではなく、効率の徹底的追求にあったことは想像に難くない。

918 スパイダーの美点として挙げられるのは、そこに搭載される技術や提示されたデザインが究極のためのワンオフではなく、次世代商品群のための布石になっているところだ。917との連続性を意識したというスタイリングにおいて、光源部を囲むように据えられた4ドットのランニングライトはその後のポルシェのシグネチャーとして用いられているのはご存知の通り。ステアリングに付けられたダイヤル式のドライブモードセレクターも市販モデルに転用されている。991世代で登場すると目されていたハイブリッドモデルは未だ日の目を見ていないが、992世代ではギヤボックスの拡張性も含め、より一歩電動化の方向へと近づいている。その暁にはこのクルマの開発での経験値が活かされることになるだろう。

「ノーリミットで走ることが出来たその第一印象は、想像以上にスパルタン」

世界918台という洒落めいた限定台数があっさり完売となった918 スパイダーに乗る機会があったのは、ポルシェのテクニカル・ワークショップでのひとコマだった。些細な距離ながらもテストコースゆえノーリミットで走ることが出来たその第一印象は、想像以上にスパルタンなものだった。150km/hまで可能という電動走行時は意外なほどに力強い。一方で、モーターやインバータの高音域のノイズに混じってタイヤが巻き上げる砂利や小石等がホイールハウスを叩くノイズが容赦なくキャビンに入ってくる。

エンジンとの協調状態になればやや粗い乗り心地も納得できるほどの圧倒的力感があらゆる場面で強く現れる。印象的なのは高回転型NAの伸び感溢れるパワーの一方で、低回転域ではモーターが見事にトルクサプライの役割を果たしていることだ。結果として918 スパイダーの出力特性はほぼ全域でフラットで、街中的速度域であればトントンと高いギヤを捕まえて効率を追求したマネジメントにも移行する。アクセルオフ時の回生ブレーキも制動が強く、タウンライドのストレスは皆無だろう。前後モーターの駆動制御にも違和感はなく、この技術はこの先に控えるタイカンなどにも活かされることは間違いない。アルティメイトでありながらその端々が市販車に紐付けられる、それがポルシェのリミテッドモデルの存在意義なのだろう。

大谷達也「コンベンショナルなスポーツカーという印象が強かった」

918 スパイダーはハイブリッド・システムの考え方に大きな特色がある。もしも通常のハイブリッド車にスポーツ・モードがついていたら、バッテリーに充電された電力をどんどん消費してモーターを駆動し、エンジンの手助けをさせるだろう。けれども918はその正反対で、ていねいに観察すると緩加速くらいでもエンジンパワーで充電器を回し、バッテリーを積極的にチャージしていることがわかる。その理由は、いざというときに電気パワーをふんだんに使うための下準備ではないか。もっとも、この状態でも燃費は決して悪くなく、一緒に走行していた718 ボクスターSをむしろ上回るくらい。この辺は918の基本的な効率の高さを物語るエピソードだ。

一方でエンジンがカーボンモノコックにダイレクト・マウントされているだけにバイブレーションは大きめで、その意味では電気自動車的というよりもコンベンショナルなスポーツカーという印象が強かった。乗り心地はタイヤ踏面の硬さが意識されるものの、ノーマル・モードを選べば意外にストローク感が強調され、快適性は十分。センターコンソールをフラットに仕上げた操作系からは未来感がほとばしっているようだった。

幻のレーシング・バージョン「ポルシェ 918 RSR」

偉大なるレーシング・マシン917に続くタイプナンバーを与えられた918 スパイダーであったが、カレラGTと同様、その姿をレース・フィールドで見ることは叶わなかった。しかし2011年のデトロイト・ショーでポルシェは、レース・バージョンというべきコンセプト、918 RSRを発表。その最大の特徴はハイブリッド・システムに911GT3R ハイブリッドと同じ、フロントのモーターから回生されたエネルギーを蓄えブースト的に使用できるフライホイール・ジェネレーターを備えていることだ。また直噴化によって563ps/10300rpmへとチューンしたV8ユニットとともに最大で767psを発揮するとアナウンスされた。レース参戦は幻に終わったが、その意志は919 ハイブリッドに引き継がれた。

【SPECIFICATIONS】

ポルシェ 918 スパイダー

ボディサイズ:全長4643 全幅1940 全高1167mm
ホイールベース:2730mm
車両重量:1674kg
エンジン:V型8気筒DOHCハイブリッド
総排気量:4593cc
最高出力:652kW(887ps)/8500rpm ※システム最高出力値
最大トルク:1280Nm(130.6kgm)/–rpm
トランスミッション:7速PDK
駆動方式:M・AWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク(カーボンセラミック)
タイヤサイズ(リム幅):前265/35ZR20 後325/30ZR21
最高速度:345km/h
0-100km/h加速:2.6秒

※GENROQ 2019年 6月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。

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