■売れるのは軽自動車ばかり? ホンダ車の販売事情とは
最近のホンダ車は、フルモデルチェンジやマイナーチェンジなど色々と商品力に磨きをかけています。2019年10月に開催される「東京モーターショー2019」では新型「フィット」がお披露目されるほか、人気軽自動車の「N-BOX」の弟分「N-WGN」が同年7月に登場し、販売好調のようです。
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しかし、2018年に国内市場に復活した「CR-V」や「インサイト」などのホンダの3ナンバーモデルが軒並み販売低迷しています。いったい、なぜなのでしょうか。
2019年現在、ホンダのホームページを見ると、次期型となる10代目「アコード」の情報が掲載され、「2020年初め、待望の日本デビュー」とアナウンスされています。
しかし、次期型のアコードは、2017年に北米ですでに発売されており、その後は南米、中国、アジアなどの順に発売され、ようやく2020年に日本国内に投入されるのです。この点についてホンダの販売店は、次のように述べています。
「次期アコードの予約受注は、2020年11月から12月に開始すると思います。発売は2020年1月頃といわれています。アコードは歴代モデルを見ても海外で先行発売され、日本では少し遅れて売り始めることが多かったです。
今回もこのパターンですが、海外の発売から2年以上も遅れるのは珍しいです。ホンダでは、新型車を発売する戦略上、同時発売はできず、順番を決めて販売しています。日本では、軽自動車のN-BOXやN-WGNを扱う代わりに、アコードなどは遅れているようです」
前述のインサイトは2018年6月に北米で発売され、日本では12月に販売。CR-Vも同様で、4代目の販売を2016年に終えると、その後しばらくCR-Vを国内で販売しません。2018年8月になって、5代目CR-Vの販売を再開するなど、ホンダの3ナンバー車の多くは、発売時期や方法が海外優先であることが分かります。
CR-Vの復活について、ホンダの開発者は次のように説明します。
「2015年にヴェゼルを発売すると好調に売れたので、販売が伸び悩んでいた4代目CR-Vは終了しました。ところがその後、SUVの人気がさらに高まると、『オデッセイ』のようなラージサイズの車種から乗り替えやすい上級SUVが求められるようになりました。
そこでCR-Vを復活させたのです。1.5リッターターボとi-MMD(ハイブリッド)という新しいパワートレーンもあり、3列シート仕様を用意するなど、日本国内のニーズにも応えています」
※ ※ ※
一度消滅させたSUVを復活させるのは、トヨタの「RAV4」や「ハイラックス」にも当てはまる話ですが、歴代モデルを乗り継いできたユーザーの心境は複雑です。ホンダの販売店では、以下のような話が聞かれました。
「いままで販売されてきた車種が終了すると、後継車種を投入しない場合、お客さまは乗り替えるクルマを失います。CR-Vを終了したときは、ヴェゼルへの乗り替えを提案しましたが、コンパクトSUVなので下のカテゴリーに移行する形となります。
そのためにトヨタ『ハリアー』や輸入SUVに流れるお客さまもいました。そうなると数年後にCR-Vを復活させても、もはや戻ってくることはありません」
さらに「シビック」は、2010年に8代目で国内販売を一度終了しています。その後9代目は販売されず、2017年に10代目を復活。この10代目シビックも、北米の発売は2015年です。セダンを国内の寄居工場(埼玉県)で生産するようになった事情もあり、タイミングが遅れて発売されました。
シビックについて、ホンダの開発者は「国内の販売は(リーマンショックなどの影響により)一度終了しましたが、その後も復活の機会をうかがってきました。しかしさまざまな困難が生じて2017年になりました」と述べていますが、セダンを国内の寄居工場で生産する切っ掛けがなければ、国内販売を再開していたか分かりません。
■ホンダが国内市場で復活する方法とは
ラインナップしている車種の廃止は、ユーザーと販売会社の両方にとって不利益になります。
したがって車種を廃止するときは、販売会社の意見も聞いて、慎重に対処する必要があります。廃止して海外専用車にするなら、二度と日本には戻れない覚悟を持つべきです。CR-Vとシビックについては、ご都合主義の場当たり的な対応といわれても仕方ありません。
そして日本のフルモデルチェンジを遅らせたり、生産を終えた車種を数年後に再開する対応を繰り返すと、日本国内と海外の販売格差がさらに進行します。
いまのホンダの販売状況を見ると、世界生産台数の内、海外の販売比率が85%に達します。国内比率は15%です。
しかもN-BOXが国内の最多販売車種になっている事情もあり、国内で売られるホンダ車の50%を軽自動車が占めます。新型N-WGNが好調なことから、今後は軽自動車比率がさらに高まるかも知れません。
そうなると国内で売られるホンダ車は、軽自動車と少数の小型/普通車に任せておけば良いという話にもなるでしょう。
実際、2019年上半期(1月から6月)において、「軽自動車+フィット+フリード+ステップワゴン+ヴェゼル」の販売台数を合計すると、国内で売られるホンダ車の88%に達します。
復活したCR-V、伝統あるオデッセイなどは売れ行きが伸び悩み、5ナンバー車でも「グレイス」や「シャトル」は売れていません。
これは全店が全車を併売するようになった弊害でもありますが(全店が全車を扱うと、売れ筋車種が販売しやすい低価格の実用指向に著しく偏ります)、車種を大幅に削減する予兆とも受け取られ、「CR-Vもアコードも、結局は売れなかった」という話になり、国内で廃止すると、CR-Vなどは二度と復活は望めません。
「国内市場が縮小傾向なのだから仕方ない」ともいえますが、もう少し頑張ってみたらどうでしょうか。
たとえば、シビックは、現行N-BOXのフルモデルチェンジ、フィット/シャトル/ステップワゴンのマイナーチェンジが重なった時期に発売されました。この時期に販売現場が多忙になるのは当然で、シビックが埋もれることは十分に予想されました。
その割にシビックは堅調に売れたので良かったですが、時期をずらして復活をさらに盛り上げる手もあったと思います。
シビックは、クルマ好きの多い中高年齢層にとって思い出深い車種ですから、新型車の少ない時期に販売店やウェブサイトで趣向を凝らしたイベントをおこなえば、復活は一層歓迎されたでしょう。
そうなればシビックを目当てに販売店を訪れたユーザーが、後席の居住性に不満を感じて、アコードを買うこともあるのです。新型車を盛り上げると、ユーザー、販売会社、顧客と業界全体にとって優れた相乗効果が期待されます。
したがって、たとえ好調に売れる見込みの乏しい海外向けの高価格車でも、発売するなら時期を選び、販売現場を盛り上げる相乗効果を考えるべきです。アコードを北米デビューから2年半も経過して日本に導入したのでは、このような効果は見込めません。
また、クルマ好きにとって何よりも辛いのは、メーカーが自社商品とそのユーザーを粗末に扱っていると感じることです。自社商品とユーザーに愛情が注がれていれば、メーカーの都合で発売時期を遅らせたり、2車種も廃止と復活をさせることはないと思います。
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