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【ヒットの法則237】W221型メルセデス・ベンツSクラスはドライバーを楽しませてくれるクルマでもあった

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【ヒットの法則237】W221型メルセデス・ベンツSクラスはドライバーを楽しませてくれるクルマでもあった

2006年5月、W221型5代目メルセデス・ベンツSクラスに12気筒エンジン搭載のS600とS65AMGが追加されている。前年のデビュー当初から人気は高かったが、当初ラインアップされていたS500 S350とあわせて、Sクラスがいよいよ底力を発揮し始めていた。メルセデス・ベンツの在り方はSクラスに凝縮されているといっていい。Motor Magazine誌ではメルセデス・ベンツ特集の中で、S65AMG/S600/S500/S350の4台でロングディスタンステストを試みている。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2006年11月号より)

612psを完全に制御下に…これこそS65AMGの魅力だ
食欲の秋、という。それゆえクルマを、はしたなくも食べ物に喩えることを、平にご容赦いただきたい。

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メルセデス・ベンツSクラスは、乗用車界の生本マグロである。(そういえば、今ごろ下北・大間では、一本釣りのどでかい本マグロが揚がり始めていることだろう)数ある寿司ネタ(=乗用車)の中でも最高級品であるだけでなく、味わい深さ(=機能性)や見た目の美しさ(=存在感)、そして日本人好みであるという点で、他のネタ(=ライバルたち)の追随を許さない絶対的な存在というわけだ。

そのことは、東京都内の主要な目抜き通りで観察すれば、すぐに気づく。デビューからまだ1年だというのに、すれ違うSクラス、追い抜いてゆくSクラス、停まっているSクラス、ほとんどすべてと言っていいくらい、すでに現行モデルなのである。

相手はトヨタの人気ファミリーミニバン、エスティマ(卵焼きか?)じゃあないのだ。新車の乗り出し予算が最低1000万円という高級車であるにもかかわらず、都内の至るところで、それこそ老若男女の手になり、日常的に転がされているのだから驚くしかない。

本マグロと同様に、日本人は本当にSクラスが大好きなのだ。ちなみに、早々お役御免となった旧型およびそれ以上に古いSクラスは地方の中古車市場を大いに賑わわせる。こちらはさしずめ、冷凍物の本マグロ(解凍のやり方次第では素晴らしく旨い!)、といったところか。

現象面だけを捉えると、生粋のSクラスオーナーは躊躇せずに乗り換えを決断したのだろうし、Eクラスや他車からの「次こそSクラス」というステップアップ組もそれに新たに加わって、気がつけば最新モデルばかりが都心を走るという状況になったのであろう。

裏返せば、Sクラスが、都会で乗ろうが地方だろうが、乗用車としてほとんど完璧であるということであり、それゆえ行き着いた人は飽きもせずに乗り続け、いつかは乗るぞと目標にする人がその後に引きも切らせもせず続くため、新型となる度に大輪の華を咲かせることになるのだった。

もちろん、昔と違って今はライバルも豊富だし、それぞれに得がたい魅力があるから、中には余所へ流れるユーザーもいるにはいるだろう。それでも、Sクラスが、今も近い将来も、大型乗用車の本命であることに、異論の余地はなかろう。ちょうど、本マグロを嫌いになる日本人が、この先増える事態を容易には想像できないように。

このたび、待望の12気筒エンジン搭載グレード、S600およびS65AMGが新たに加わったことで、現行Sクラスのラインナップがひと通り出揃った。近いうちに4マティックモデルやS63AMGもラインナップされて完全に揃い踏みとなるだろうが、現ラインナップでもSクラスの世界観を検証するには十分な品揃えであろう。

というわけで、4台のSクラス、S350(これのみショートボディ)、S500、S600、S65AMGをまとめて連れ出すことに相成った。S500ショートだけがテスト車両の都合で含まれていないのであしからず。

注目は、何と言ってもS65AMGだ。車両本体価格2800万円弱という、スーパーカー顔負けにウルトラ高価なモデルでありながら、発表発売と同時にものすごい売れ行きだそうである。日本の景気が本格的に上向いてきた証拠か、はたまた富の二極化の象徴か。

いずれにせよ、クルマ好き、高性能車好きにとっては、羨ましくも素晴らしいことだ。何てったって、いつかは中古車になるのだから!

冗談はさておき、先にS65AMGに試乗したインプレッションを報告しておく。すでにスペインで開催された海外試乗会で一度体験済みだが、日本の公道で触れるのは初めて。あの時は63ユニットの発表もあって、何が何だかわからないうちに試乗時間が過ぎたのだが、今回はじっくりと触ることができた。

改めて間近で見ると、他のノーマルSクラスに比べて、独特の存在感、オーラを感ぜずにはいられない。現行Sクラスの特徴である膨らんだフェンダーが、AMGスタイリングと相まって、ちょっとしたプロダクションレースカーのような雰囲気である。

その昔AMGを一気に有名にしたモンスター、300SEL 6.3改6.8よりも、間違いなく、サーキットシーンに似合う出で立ちだ。

勇ましいだけでなく、アルミホイールをチタニウムグレーにペイントするなど、流行りの最新モードもしっかりと取り入れた。

何やら乗る前から気合負けしてしまいそうな勢いだ。ドアを開け、セミアニリンフルレザー仕立ての室内に身体を沈ませた途端、他のSクラスとはまったく違う匂いを嗅ぎ取った。本物志向のマテリアルが物理的に放つ香りではない。それは、速さへの本能を掻き立てる匂い……。

360km/hまで刻まれたスピードメーターを見つめていると、覚醒した本能が挑戦する意思に変わる。選び抜かれたウッドパネルやIWCウォッチなどが醸し出す高級な演出など、もはや空気のような存在。Sクラスという高級サルーンのステアリングホイールを握っているのではない。自分にとって最高のパフォーマンスを約束してくれるクルマに乗っているんだという感覚に包まれた。

キーを捻ると、盛大な爆裂音とともにV12SOHCツインターボが目覚める。事実上、旧型S65AMGからのキャリーオーバーエンジンだが、そのパフォーマンスは今なお世界一級である。しかも、旧型ではその性能を100%活かしきれていなかった。新型では、どうか。

扁平ワイドタイヤを4隅にしっかりと感じながら動き出す。アイドル走行から低く逞しいエキゾーストが地を這って棚引いている。あくまでもガッチリとしたステアリングホイールを握りしめ、アクセルペダルの先にある大パワーを想像すると、まるでピットレーンに並ぶレーシングドライバーのような気分になってきた。この豪奢な室内で、何と言う違和感であることか!

加速はあっけないほど瞬間的である。一瞬のうちに、違法ゾーンに突入してしまう。カタログデータではその間、わずかに4.4秒(0→100km/h加速)。

その先は、海外で乗った時のことを思い出すことにしよう。峻烈な加速はその後、リミッターの効く250km/hまで、極めて機械的、論理的に続く。姿勢はまったくのフラット。何かをコントロールする余地などまったくない。ドライバーはひたすらアクセルペダルを踏み続け(といってもアッという間だ)、がっちりとしたステアリングホイールに手を添えながら、後方不注意なクルマが急に飛び出してこないことを祈るだけだ。リミッターが効いた瞬間に思うことはただひとつ。欲求不満、である。

ワインディングでは、それこそC55AMGのように、硬くしなやかに走る。湧き出るトルクに後押しされ、どこからでも弾けるように加速してみせる。Sのロングボディであることを忘れるぐらいにクルマが小さく感じられるのは、進化したABC(アクティブ・ボディ・コントローール)のおかげであろう。これは見えないロールケージを装備しているかのようで、ロールを抑えた極めてダイレクトな走りを可能にする。

ひと言でニューS65AMGの魅力を言うならば、それは、612psエンジンを完全に自らの制御下に置いた、に尽きる。上代2800万円也は確かに高価だが、決して高い買い物ではないとだけ最後に言っておこう。

それぞれに個性ある走りにSクラスならではの奥深さを感じる
この興奮を身体が覚えたまま、他のSクラスに乗ることは危険だ。蜂蜜を舐めた後に果物を頬張るようなものである。少し長めのインターバルを取り、他の3台に試乗することにした。しかも、公正を期すため念には念を入れて、最初はS350から順に上へと乗り換えてゆき、S600の試乗後は逆に下へとクルマを換えてみた。以下は、それらをまとめて記したものである。

S350は、Sクラスの中でも、日常でフルに使う乗用車として、最高の存在ではあるまいか。その走りに重厚さはないが、決して軽々しいというわけではない。腰下の軽快な動きが、日々乗るには心地よく感じるはずだということ。

よくできたV6エンジンである。ショートボディとはいえ、1.9トンもの巨体をストレスなく押し切る。とはいえ、他の3台に比べて、フルスロットルでもタコメーターを注視できるぐらいの速さだ。これぐらいが、人間の生理にほどよい力(加速)なのかもしれない。

タイヤ(ミシュラン製パイロットプライマシー)およびそのサイズが、ショートボディにマッチしているのだろう。軽快であることはもちろん、路面の凸凹をいなす様子などは天下一品。遠くに雷鳴を聞くような実感あるいなし方が気持ちいい。

乗り始めこそ若干硬さを感じるものの、時間がたつにつれ身体と馴染んでいき、終いにはちゃんと一体感を得てしまうあたり、さすがに高級サルーンの素養はばっちり備わっている。

普通のクルマとして上質という評価が、このS350ショートには最もふさわしいが、四十にしてようやく惑わずの私には油が抜けすぎの感も強い。クルマ人生の最後にとっておきたい、そんなSである。

デジーノパッケージが奢られたS600はとにかく華麗だった
一方S500には、相変わらず「S中のS」といった存在の強さがあった。セミアリニンレザーにウッドステアリングホイールなど、見てくれの高級さ・上質さもさることながら、走り出した瞬間からドライバーに伝わる走りの質が、S350とはまるで違う。「これぞS!」な重厚さがある。

拍子抜けするほど素直な走り出しに続き、低速域ではあくまで滑るように、路面を舐めるように進む。お次は胸をすく加速フィールだ。7Gトロニックとの相性もよく、スムーズの権化とも言うべき加速を見せる。エンジンの回り方も、ドライバーに適度な振動と音を伝えるもので、頼もしい。速いが、愉しむ余裕もある。

高速走行の安定感に関して言えば、S350でもエアマティックサスが採用されているから、S500の専売特許というわけではない。ただし、安定感に重厚さが加わっているため、乗り手の安心度合いは相当に上だ。正体のわかった、言い換えれば対話も可能な、そんな走りが「S中のS」の魅力である。

S600にせよ、S65AMGにせよ、ある意味マトモな性能の持ち主ではない。理性的に物事を考えて、望みうる最上の乗用車が、このS500ということになりはしないか。自らドライブする乗り物としてのバランス感覚で言うと、最上位に位置するクルマだと思う。

デジーノパッケージが奢られたS600は、とにかく華麗であった。真の高級車とはこういうクルマのことだと言わんばかりのフルレザーインテリアが眩しい。ラグジュアリーを通り越して、ゴージャスという方が似つかわしいのだ。

S500あたりと比べると、走りにも同じような感想を抱く。実はS600にはABCが備わる代わりに、エアサスが付かない。進化したエアサスの、路面を舐めて一体となるような走行フィールは期待できないものと思っていたが、いい意味で裏切られた。

走り味はと言えば、タイヤより上で完全なフラットさを保つ、古式ゆかしきものである。エアサス車が全身で、S65AMGがアシの働きとABCの相乗効果でフラットさを演出するのに対し、S600はあくまでも上屋が、つまりはドライバーの周りだけがフラットに動く。一体感こそないが、まるで波をキレイにさばくクルーザーのようだ。

あくまで節々の強さをアピールするS65AMGに対して、まろやかさが先に立つのもS600の特徴だ。静かさも抜群で、すべてのテイストが明らかに上質、ゴージャスである。

もちろん、517psのツインターボユニットが生み出す加速は素晴らしいが、それを過激だと感じさせない点が逆に恐ろしい。一瞬のタメの後、躊躇うことなく、しかも極めて静かに2トンの巨体がはじけ飛ぶ中にいると、まるで周りの空気からさえも隔絶された、真空の中を走っているかのようだった。

その分、たとえば曲がりくねった道などで、速くしかも気分よく走り続けるのは苦手な方である。あくまでも高速道路のスーパースターでいた方が身のためだろう。

あらゆる楽しさを持ち合わす揺るぎない存在感こそSクラス
こうしてSクラスを乗り比べてみると、シンプルだが意外に聞こえるかも知れない、ある結論に行き着く。それは、パーソナルな乗用車として世界最高峰にあるSクラスではあるが、同時に、否、だからこそ、ドライバーを楽しませてくれるクルマでもある、ということだ。

これまで、どちらかといえば無機質で無愛想で高速性能至上主義なクルマだと思われがちだったものが、現行モデルとなって、スタイルといい内装の趣味といい走り味といい、官能さが少なからずブレンドされ始めた。そして、その濃淡を、絶対性能の上下とともにくっきりと色分けしたのが、Sクラスの現在のグレード展開とも言える。

もちろん、今でも、ドライバーを夢中にさせるハンドリング性能やエンジンフィールという点では、BMW7シリーズが上だろう。緻密で知的なデザイン性と悪天候をものともしない走破性でアウディA8の魅力も捨てがたい。また、何ら精神的肉体的負担を乗員に強いず、最も安楽かつ高速に移動できるレクサスLSにも、パーソナルな移動手段としての未来を感じる。

なれど、運転する楽しさから所有する歓び、ステータス性、そして日々の乗用車としての高い資質。それらを全て兼ね備えたクルマという点で、Sクラスがこれまで築いてきた牙城は一切、崩されそうにない。

オールマイティ。もしくは、全知全能。その存在に揺るぎがないからこそ、ライバルたちは、何かひとつのキャラクター=特性を際立たせねば活路を見出せない、という解釈もできる。

Sクラスは、やはり乗用車界の「日本近海、釣り、生本マグロ」であった。さしずめ、比較的安価だが味わい深く、これで十分、昔はこれしかなかった、という6気筒のS350は赤身だろうか。これぞ本マグロの真髄、一度は試して欲しい「S中のS」、S500は中トロだ。そして、これ以上ないゴージャスなS600こそ大トロであり、それを贅沢に炙って葱と大蒜を添えたのがS65AMGということになろう。

最後まで食い意地の張った話で申し訳ないが、一度病みつきになったが最後、忘れることのできない味わいがあるという点で、Sクラスは最高の乗用車である。(文:西川 淳/Motor Magazine 2006年11月号より)



メルセデス・ベンツ S65AMGロング 主要諸元
●全長×全幅×全高:5206×1871×1473mm
●ホイールベース:3165mm
●車両重量:2195kg
●エンジン:V12SOHCツインターボ
●排気量:5980cc
●最高出力:612ps/4750-5100pm
●最大トルク:1000Nm/2000-4000pm
●トランスミッション:5速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:2782万5000円(2006年)

メルセデス・ベンツ S350 主要諸元
●全長×全幅×全高:5075×1870×1485mm
●ホイールベース:3035mm
●車両重量:1900kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3497cc
●最高出力:272ps/6000pm
●最大トルク:350Nm/2400-5000pm
●トランスミッション:7速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:987万円(2006年)

メルセデス・ベンツ S500ロング 主要諸元
●全長×全幅×全高:5205×1870×1485mm
●ホイールベース:3165mm
●車両重量:2060kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:5461cc
●最高出力:387ps/6000pm
●最大トルク:530Nm/2800-4800pm
●トランスミッション:7速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:1396万5000円(2006年)

メルセデス・ベンツ S600ロング 主要諸元
●全長×全幅×全高:5205×1870×1485mm
●ホイールベース:3165mm
●車両重量:2190kg
●エンジン:V12SOHCツインターボ
●排気量:5513cc
●最高出力:517ps/5000pm
●最大トルク:830Nm/1900-3500pm
●トランスミッション:5速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:1900万5000円(2006年)

[ アルバム : W221型5代目メルセデス・ベンツSクラス はオリジナルサイトでご覧ください ]

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みんなのコメント

5件
  • 金正恩のクルマ。
  • メルセデスは一度は所有しないといけない車と言われてますね。
    F1はじめ多くのレーシングドライバーの愛車にメルセデスが多いのを見ても分かります。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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