■ドライバーズカーとしても最上級な「ゴースト」
110年余に及ぶロールス・ロイス(R-R)の歴史のなかで、もっとも大きな成功を収めたモデルとして認知されている「ゴースト」は、2020年9月1日にオンラインでおこなわれたワールドプレミアにて、2代目へとフルモデルチェンジを果たしたことを世界にアピールした。
【画像】至高の贅沢をまとったロールス・ロイス「ゴースト」のディテールチェック!(26枚)
それからわずか3か月後、日本国内でメディア向け試乗会が開催されることになり、筆者は長年にわたってR-Rを敬愛してきたファン代表の心持ちとともに、いち早くテストドライブの機会を得た。
●スタイリングに負けない、美しい立ち振る舞い
あくまで筆者の私見ながら、同時代のBMW「7シリーズ」のプラットフォームやコンポーネンツを大幅に流用していた初代の段階から、ゴーストは「正真正銘のロールス・ロイス」を実現していたと断言したい。
加えて、デビューから10年の時を経ているにもかかわらず、これまであまり言及される機会のなかったことなのだが、初代ゴーストはドライバーズサルーンとしても最上級の資質を備えていたと考えている。
しかしその素晴らしい資質さえも、もはや過去のことといわねばなるまい。すべてが刷新された新型ゴーストでは、さらなる高みに到達しているのだ。
2代目となったゴーストでは、現行(8代目)「ファントム」を皮切りにSUV「カリナン」にも採用されたR-R専用の軽合金製スペースフレーム「アーキテクチャー・オブ・ラグジュアリー」の採用を前提条件として開発。シャシ持ち前のポテンシャルを最大限に活用して、極めて贅沢なクルマ創りがおこなわれることになった。
そしてもうひとつ特筆すべきは、現行ファントムで初採用された4輪操舵システムに加えて、R-Rのサルーン史上初となる4輪駆動システムの採用により、卓越したバランスと安定性を実現したと標榜していることである。
ただ筆者には、この4WD化についていささかの危惧があった。従来のゴーストや、それをベースとした「レイス」と「ドーン」は、ともに素晴らしいステアリングフィールの持ち主である。
操舵輪であるフロントアクスルに、トラクションが掛かること、あるいは、そのためのパーツがもたらすフリクションが生ずることにより、透明感のあるステアフィールに「濁り」が生じてしまうのが世の4WD車の常……、と筆者は認識していたのだ。
ところが、ワインディングに新型ゴーストを進めてみたら、そんな筆者の浅薄な不安など一瞬にして吹き飛ばされることになった。先代と同様に、路面の状況を過不足なく、しかもクリアに感じさせるとともに、ドライバー側の入力も極めてナチュラルに前車軸に伝える。
さらに、極めて自然に作用する4輪操舵システムも加わって、全長5.5m超/全幅2mの巨体がまるでふた回りも小さく感じられる、軽妙にして洒脱なハンドリングを披露する。
ここで効力を発揮していると思われるのは、世界初と謳うサスペンションテクノロジー「Planar(プラナー)」シャシシステム。特にR-R技術陣が「ダンパーforダンパー」と呼んでいる世界初のアッパーウィッシュボーン用ダンパーユニットである。
さらに「アーキテクチャー・オブ・ラグジュアリー」は前後重量配分50:50を実現するとともに、ドラスティックな低重心化も実現。ロールス・ロイスならではの「Magic Carpet Ride(魔法のじゅうたん)」と称される乗り心地と、プレステージサルーンの常識を超えるダイナミックなハンドリング性能の完全両立にも成功したということなのだろう。
そんな新型ゴーストの進化のほどは、動力性能についても明快に感じ取ることができた。
先代ゴーストでは6.6リッターだったV型12気筒ツインターボエンジンは、1959年以来、長らくロールス・ロイスの伝統だった排気量「6 3/4Litre」。つまり現行ファントムやカリナンと同じく、6.75リッターへと少しだけスケールアップ。571psの最高出力と850Nmの最大トルクを獲得したと標榜されている。
GPSと連動してシフトタイミングを自動調節する「サテライト・エイディッド」8速ATとの組み合わせにより、最高速こそリミッターで250km/hに制限されるものの、0ー100km/h加速4.8秒と、こちらもスーパーカー級の高性能を発揮することになっている。
とはいえ、このクルマに相応しい走り方をする限りは、あり余るパワーを実感する機会は少なかろう。アクセルを深めに踏み込んでみれば、スペックの数字に偽りがないことは一目瞭然ながら、トルクの立ち上がりが超絶技巧的にスムーズ。いかに蛮勇を奮おうとも、品の無い加速体制には持ち込めない。そして気づけば、驚くべきスピードに達している。
かつて数多くの伝説を残した静粛性も相まって、パワフルながらもR-Rに相応しいシルキーな感触を示してくれる。
この上質で凛としたタッチは、まさにグッドウッド製R-Rの真骨頂。ロングノーズとスモールキャビンを強調した美しいスタイルから受ける印象のとおり、パーソナルカーとしても至高の一台なのである。
■ロールスが考える「贅沢のその先」とは?
新型ゴーストのコンセプトは、「Post Opulence(ポスト・オピュレンス:豪華絢爛のその先→贅沢からの脱却)」。
世界でもっとも高級な自動車ブランドであるロールス・ロイスの新型車として開発され、先代以上に豪華な装備をふんだんに投入されているにもかかわらず、これまでのステレオタイプ的な贅沢の観念からの脱却を目指したという。
●ポスト・オピュレンス”はR-Rの原点回帰?
この、まるで禅問答のようなコンセプトは、旧来のラグジュアリーカー観から一歩進んだデザインワークに生かされることになった。
今回、自然光のもとで初めて目の当たりにした新型ゴーストのボディは、先代に比べるとはるかにシンプルなディテールで構成され、プロポーションの美しさがさらに際立つものとなっている。
緊張感のある「線」と緩やかな張りのある「面」で構成されたボディラインは、少々煩雑にも映るようなキャラクターラインが溢れかえる現代の高級車のなかにあって、まさしく孤高の美を感じさせてくれた。
そして「ポスト・オピュレンス」なテイストは、インテリアについても然りといえよう。
かつてのパートナーであり、今では最高の好敵手となったベントレーの「フライングスパー」が、その出自であるスポーツカー由来のダイアモンドキルトで仕上げたレザーハイドを好んで用いる傍らで、新型ゴーストはシンプルな構成のレザーハイドを採用。サラリとした触感も相まって、近年の超高級車としては稀なカジュアル感さえ醸し出している。
そこで筆者が思い出したのは、往年のロールス・ロイスの名作たちに共通する「贅沢さ」である。
ゴーストは1922年に登場した「20Hp」に端を発する、R-Rファンいうところの「ベイビー・ロールス」を起源とするモデル。
その後「20/25HP」「25/30Hp」そして「レイス」へと発展しつつも、名門コーチビルダーによって架装されたアルミ製ボディの大部分は、旧き良き英国的アンダーステートメントに裏打ちされた、控えめな美しさを身上としたものだったと認識している。
またインテリアについても、本革レザーやウッドキャッピングなどに最上級のマテリアルをこれでもかとばかりに投入しつつも、基本のデザインはシンプル。誤解を恐れずにいうならば「簡素」とも受け取れるような空間づくりがおこなわれてきた。
もちろん、現代のグッドウッドR-Rが主張する「ポスト・オピュレンス」は、あくまで現代、あるいは近未来のカスタマーたちが求めるミニマリズム的な発想からスタートしたものとのことである。
しかし、それが往年のロールス・ロイスを連想させてしまうようなテイストとして実現された。いわば、結果的な原点回帰が図られたかに見えてしまったのである。
ただし、現代のグッドウッドR-Rではデフォルトと化しつつある「ビスポーク・コレクティブ」をセレクトすれば、我々がおおよそ考えつきそうなあらゆる豪華装備も思う存分に盛り込むことができるという点においては、これまでのゴーストと同じかそれ以上であることも記しておかねばなるまい。
たとえば今回の試乗車両でも、光ファイバーが天井に星空を描く「スターライト・ヘッドライニング」や、助手席側ダッシュボードに「GHOST(ゴースト)」の文字に加えて、850もの光ファイバーによって構成された星座をきらめかせられる「イルミネーテッド・フェイシア(新型ゴーストで初設定)」まで装備。
ミニマリストの境地とはほど遠い、筆者のような「オピュレンス」好きを楽しませてくれたことも、ここに明示しておくことにしよう。
●ROLLS ROYCE GHOST
ロールス・ロイス・ゴースト
・車両価格(消費税込):3590万円
・全長:5545mm
・全幅:2000mm
・全高:1570mm
・ホイールベース:3295mm
・車両重量:2540~2590kg
・エンジン形式:V型12気筒DOHCツインターボエンジン
・排気量:6748cc
・エンジン配置:フロント縦置
・駆動方式:4輪駆動
・変速機:8速AT
・最高出力:571ps/5000rpm
・最大トルク:850Nm/1600rpm
・0-100km/h:4.8秒
・最高速度:250km/h(リミッター)
・燃料タンク容量:83L
・タイヤ:(前)255/50R19、(後)285/35R19
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みんなのコメント
また変な低所得層が湧いて出るから。