■MotoEが奏でる“新しいモータースポーツの音”
FIM Enel MotoE World Cup(以下、MotoE:モト・イー)は、2019年から始まった電動バイクのチャンピオンシップです。供給される『Energica Motor Company』の電動レーサー『Ego Corsa(エゴ・コルサ)』と、ミシュランタイヤによって争われます。レースはMotoGPのヨーロッパで開催されるグランプリに併催され、3年目を迎える2021年シーズンは、6戦7レースが予定されています。
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MotoEの予選「Eポール」は、ライダー1人ずつ、1周のタイム計測によって争われ、決勝レース(2020年の場合)は5周から7周で行なわれました。この短い周回数は、すべてのライダーがバッテリー残量を気にすることなく、スタートからフィニッシュまで攻め続けることができるように設定されたものです。MotoEもMotoGPと同じように、ライダーが激しく競い合うレースなのです。
では“MotoEらしい”レースの魅力とはどのようなものがあるのでしょうか? その違いを見ていきましょう。
電動バイクによるレースですから、エキゾーストノートはありません。その静かさは、現地にいても建物の中に入ってしまえばセッションが始まっていることがわからないほど。MotoGPなどはエキゾーストノートがサーキット中に響き渡りますから、音の違いは顕著です。
しかし一方で“MotoEにしかない音”も存在するのです。MotoEマシンが奏でる“キィーン”という甲高いモーター音はもちろんのこと、セッション中は“キキキッ”というブレーキ音や、タイヤがゼブラを擦る音、ライダーがコーナーでひざを擦る音さえも聞こえます。これらは映像越しですら耳に届くほどです。
とくに1人ずつコースに出てタイム計測を行う予選のEポールでは、音がより鮮明に聞こえてきます。そうした音は、ライダーが電動レーサーを操作するイメージをよりリアルにしてくれます。
確かに、エキゾーストノートのようなビリビリと体を震わせる音ではありませんが、これらもまた“新しいモータースポーツの音”ではないでしょうか。
こうした静けさは、ライダーにもこれまでにない音を届けているようです。2020年MotoE第2戦アンダルシアGPでは、2位を獲得したジョルディ・トーレス選手が決勝レース後の会見で次のように述べました。
「マッテオ(・フェラーリ)が(ストレートからの)ロングブレーキをしていたとき、リアタイヤの“ウウウ~ッ”というノイズが聞こえてきた。それからマッテオが“あ~~~!”と言ったのを聞いたんだよ! そのあとマッテオはエリック(・グラナド)に接触した。まるで公道での交通事故みたいな音だった。それから“ウッ!”“アッ!”というライダーの声も聞いたんだ」
このレースでは4番手を走っていたフェラーリ選手が、6コーナーで止まり切れずに直進、その前を走っていたグラナド選手に接触して、2人とも転倒しました。その後方を走っていたトーレス選手には、通常とは違ったブレーキング音、2人のライダーの声、クラッシュの音が聞こえていた、というのです。
もちろん転倒した2人が無事だったからこそ、トーレス選手はこのアクシデントを電動バイクレースならではのエピソードとして紹介したということを付け加えておきます。ともあれ、MotoEが内燃機関のバイクレースとは違った状況で行なわれるレースということがわかります。
■バッテリー残量表示の試み
MotoEをプロモートするドルナスポーツは、2019年からMotoEならではの情報をレース中継に乗せています。2019年最終戦バレンシアGPでは、一部ライダーのタイヤの表面温度を表示、また2020年は一部のレースでバッテリー残量が表示されました。
MotoGPなどでもバンク角や速度、使用ギア、最近ではライダーや関係者の心拍数などの情報が表示されてレースを楽しむ要素になっていますが、MotoEでは一部ライダーのバッテリー残量が見えるようにしたのです。
確かに、現在のMotoEはすべてのライダーがバッテリー残量をマネジメントすることなく最後まで走りきる周回数となっています。しかし、もし全サーキットで、すべてのライダーのバッテリー残量を見ることができれば、その比較もまた、MotoEらしい楽しみ方になりそうです。
※ ※ ※
MotoEはMotoGP公式サイト「motogp.com」の有料ビデオパスを購入することで、予選Eポールと決勝レース、さらにインタビューや会見などの様子も視聴できます。一部無料で見られるコンテンツもありますので、まずはのぞいてみてはいかがでしょうか。
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