この記事をまとめると
■新型ホンダN-BOXに藤島知子さんが公道試乗した
【試乗】見た目の「超コンサバ」は自信の表れ! 新型N-BOXの「中身の進化」が超絶だった
■メーターフードを廃して前方視界が大きく開けて運転がしやすくなった
■全方位でバランスを高めた新型N-BOXはさすがは王者といった仕上がり
自らを超える正常進化を果たした新型N-BOX
「N-BOXが新車販売台数 第1位」———幾度となく耳にしてきたフレーズだが、スライドドアをもつ軽スーパーハイトワゴン『N-BOX』の2代目はモデル末期まで売れ続けて大ヒットしていただけに、次期型の出来映えが気になるところだった。
今回、満を辞して登場した3代目N-BOXは、これまで好評を得てきた“運転に不安な人も安心して堂々と運転できる”こと、“みんなが伸び伸び過ごせる空間”、“子供も気軽に使える優しい配慮”といった守るべき価値を受け継ぎながら正常進化。先代のプラットフォームやメカニズムを熟成させる形で登場したこともあり、それほど変わり映えしないのかと思いきや、どうやら、王者自らを超えるクルマづくりに魂を込めて磨き上げてきた印象を受けるのだ。
スタイリングはベーシックなN-BOXとN-BOXカスタムの2種類で登場。N-BOXのフロントグリルはドット状に穴が開いたパネルを採用していて、お洒落家電を彷彿とさせるデザインが特徴。愛嬌のある表情だが、よく見るとプロジェクター式フルLEDヘッドライトを装備していたりと、もはや軽とは思えないレベルの作り込みように驚かされる。
一方で、N-BOXカスタムのエクステリアは品格とパフォーマンスを表現している。一文字に描かれたヘッドライトはワイド感を強調したことで、最上位モデルらしい堂々とした雰囲気を演出している。カスタムにはホンダ車初となるダイレクトプロジェクション式LEDを採用。緻密な光がスムースに流れるシーケンシャルターンシグナルが組み合わされていて、メカニカルで精悍なイメージだ。
さて、今回は初の公道試乗会ということで、神奈川県横浜市にある、みなとみらいの会場を拠点に一般道と高速道路を走る。まずはベーシックなN-BOXに乗り込んで車内をチェック。内装色はベージュで、日中は広々とした空間を明るい雰囲気に照らし出してくれる。ブラウンのシートベルトがさりげないアクセントになっていて、黒ベースのカスタムの内装色にはない、N-BOXならではのお洒落なポイントになっている。
栃木のテストコースで試乗した際のリポートでも紹介したが、3代目として最大の変化はフロントまわりの運転視界が開けたこと。かつてのN-BOXは着座位置に対してダッシュボードが高い設計で、パーソナルスペースが確保されている反面、運転時に自車の直近の状況を掴みにくいところがあった。
その点、今回のモデルではメーターフードを廃し、埋め込み式の液晶メーターに変更されたことで、ダッシュボード上部の張り出しが抑えられている。ガラスの形状は先代から変えていないと聞いて驚いたが、格段に視界は広く、明るく感じられるようになった点は、安全面にも貢献する進化といえるだろう。
ユーティリティにもアイディアが凝らされている。特徴的なのはクルマのパーツらしからぬ仕上げの樹脂製オープントレー。ベージュの内装色のN-BOXは土の色を思わせるアースカラーのものを、ブラックの内装色のカスタムにはグレーのトレーが組み合わされる。
インパネにはスマホの充電に欠かせないUSBのType AとType Cの端子がひとつずつ内蔵されている。充電ケーブルを繋いだ端末をグローブボックスに収納してもフタを閉めたときにケーブルが擦れてしまわないように右端に僅かな隙間が設けられている。
大容量のグローブボックスはティッシュの箱を入れても、その脇にウエスやウエットティッシュなどをしまっておけるスペースが設けられていた。ドリンクホルダーはインパネのほかにドアポケットにも用意されているので、ペットボトルや小物を置いておくのに重宝しそうだ。
また、後席は50:50でシートスライドを始めとするアレンジが可能。座面を跳ね上げて固定するチップアップ機構を駆使すると、ベビーカーや観葉植物のような天地に高さがある荷物をスライドドア側から積むことができる。
また、大きな荷物を載せるとき、シートを折り畳むと座面ごと深く沈んでくれるので、荷室の床から天井までのスペースを稼ぐことができる。塾まで自転車で出かけた子供を迎えにいくときなど、ママチャリごと積み込めてしまうあたりが素晴らしい。
バックドアの開口部の床は低い設計なので、ガイドに自転車の前輪を載せて転がせば、楽に積めるように配慮されている。
全方位で高いバランスを誇る新王者に隙なし
さて、肝心の走りについてはどうだろう。ベーシックなN-BOXには自然吸気エンジンのみが設定されていて、足もとには155/65R14サイズのタイヤが装着されている。ちなみに、エンジンは660ccの排気量ながら、他社と比較すると自然吸気、ターボともにパフォーマンスに秀でているところがホンダらしい。
とはいえ、大事なのはスペックよりも、走行シーンに応じた力の引き出しかただろう。N-BOXの自然吸気エンジンは低速から高速走行まで、じつにスムースな走りを見せてくれることに驚かされる。
限られた力を上手く引き出す立役者がCVTの変速制御。ホンダでは“Gデザインシフト”と呼んでいるが、アクセル開度に応じたGをドライバーの期待に応えるかたちで制御してくれる。アクセルペダルをそこまで深く踏み込まずして、自然に車速を上げて周囲の流れに乗ることができるし、低速域からの走り出しは回転数を抑え、そこから深く踏み込むと、まるで中速トルクが膨らんだかのようにしっかりと加速していけるように回転数を制御していく。
CVTといえば、エンジン音が高まるわりにスピードがついて来ない“ラバーバンドフィール”の違和感を与えやすい傾向があるが、N-BOXのCVTは人の感覚に近い制御を行ってくれるので、走らせていて気持ちがいい。
また、ルーフライニングやフロアカーペットの遮音性を高めたことで、従来と比べて走行時のロードノイズが格段に抑え込まれている。さすがに、工事区間を走るときなど、小石を跳ね上げる路面ではホールハウスに当たって響くものの、後席乗員を乗せて移動するクルマとしては、快適性は格段にレベルアップしていると感じられる。
さらに、カーブが続くシチュエーションでは、ハンドリングがスムースで揺り返しが少ない。電動パワステの舵角速度フィードバック制御が導入されたことで、背が高く、重量が重たいスライドドア車でありながら、揺れがあとから訪れて、ステアリングの修正操作を求められるような場面がほとんどなかった。
リヤサスペンションの締結を適正化したこともあり、足がしっかりと動くことで、しなやかに思いどおりのラインを辿って走る楽しみを与えてくれる。廉価な標準モデルでありながら、背高系の軽ワゴンで不利になりがちな走りや快適性の課題を妥協せず、丁寧に磨き上げてきたことがわかる。
さらに、エンジンルームから聞こえる軽自動車特有の唸りを意識させるシーンも限られていたように感じた。また、大人数人が乗車して急勾配の登り坂を駆け上がるとき、高速走行時の追い越し加速でエンジン回転が高まる場面ではさすがに騒がしくなる。そうしたケースの場合はターボを選択すると、エンジン回転が高まり過ぎず、静かに余裕をもって走らせることができるだろう。
路面の段差やマンホールを乗り越えるときの乗り心地もいい。一般的な軽自動車は突き上げるような入力を受けるとゴツンときたり、浮ついたりすることがあるのに、標準モデルのN-BOXでさえ、しなやかな足取りで走れる心地よさが感じられた。
カスタムには自然吸気とターボが設定されている。今回はターボエンジンに165/55R15サイズのタイヤを装着した仕様に試乗してみたが、アクセルペダルを踏み込むと、トルクをグイグイ引き出しながら前に突き進んでいってくれるインパクトを与えてくれる。
加速時は前後の沈み込みが少なく、車体を安定させた状態でタイヤが路面に接地しやすい環境を作り出してくれている感触。同乗者からすると身体が不用意に揺られにくく、ハンドルを握るドライバーにとっては安心感が高い。
15インチであっても跳ねたりバタついたりすることはなく、優しいタッチの乗り心地は残されているようだ。ファミリーユースでたまに遠出して使うことを想定すると、快適に過ごせることは譲れない要素といえるだろう。
内外装の質感の高さ、快適で便利に使いこなせる空間、自然吸気・ターボモデルともに期待に応える走行性能、スペース系のスライドドア車なのに乗り心地がいいこと。全方位のバランスを高めてきたことが今回のN-BOXにおいて、最大の魅力となりそうだ。ライバルたちがひしめき合う激戦区のカテゴリー。王者であるホンダN-BOXを前に、ライバル達がどんな勝負に出てくるのか楽しみになってきた。
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みんなのコメント
本当に身長の低い人には3代目のハンドル内メーターの方が良いのかな?
運転席からの前方視界ならトヨタヤリスの方がよほど悪いと思うのだが…