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2014年の悪夢……レギュレーションにより、F1マシンが歴史上最も醜かったシーズン。ノーズの先端に棒が!|F1メカ解説

掲載 更新 13
2014年の悪夢……レギュレーションにより、F1マシンが歴史上最も醜かったシーズン。ノーズの先端に棒が!|F1メカ解説

 2024年用F1マシンの発表に向けたカウントダウンが、着々と進んでいる。多くのチームは、マシンの最終仕上げを行なっているところであるはずだ。過去を振り返ると、様々なサプライズが起きたことがあり、人によってその最大のサプライズは違うはずだ。

 しかし10年前の発表会シーズンを覚えている方も多いのではないだろうか。同年は、現行のパワーユニット・レギュレーションが導入された1年目。市販ハイブリッド車にも使われている”運動エネルギー回生”だけでなく、革新的・近未来的とも言える”熱エネルギー回生”をも実現する新たなパワーユニットに、大きな注目が集まるはずだった。

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 だがいざマシンが発表されると、悪夢のような日々が待っていた。

 発表された多くのマシンのノーズ先端からは、なぜか棒が前方に向けて突き出していた。史上最も醜いマシンという声も少なくない。

レギュレーションが生み出した悪夢

 このノーズ先端の”棒”は、FIAが行なったレギュレーション変更に伴うモノだった。

 各チームのデザイナーは、ダウンフォースを稼ぐために、マシンの下面に多くの気流を送るべく、ノーズの先端をできるだけ持ち上げようとした。1990年のティレル019がその先駆けとも言えるマシンで、次第に程度の差はあれ、ほぼ全車がハイノーズとなった。

 ただノーズの先端が高いと、たとえばTボーンクラッシュなどが起きてしまった場合などに、ドライバーにノーズの先端が直撃してしまう可能性があり、ひとつ間違えば重大な結果に繋がってしまう……そんな懸念が高まりつつあった。

 FIAはこれを避けるべく、レギュレーションを度々変更した。2012年にはノーズの先端を低くすることを目指したが、各チームはノーズに段差をつけることで対処。当時はこのデザインも、醜いと揶揄された。

 FIAはこの過ちを繰り返さないようにするため、ノーズ先端をさらに低い位置に導くべく、レギュレーションを改定した……その結果誕生してしまったのが、2014年の実に醜いマシンたちだ。

 マクラーレン、フォースインディア、ザウバー、トロロッソ、ウイリアムズ、ケータハムは、長細い棒をノーズの先端に取り付け、レギュレーションを満たしたのだ。これには、パフォーマンス上のメリットがあったのだから仕方ない。F1チームの仕事は、格好いいマシンを作るのではなく、速いマシンを作ることなのだから。

 2013年と2014年のフェラーリF1マシンを比較すると、その差がよくわかる。右側の2014年マシンは、ノーズの先端が前年マシンに比べて著しく下がり、コクピット下に気流が流れにくくなっているのが容易に想像できるだろう。

 レギュレーションでは、ノーズ先端の下面の位置が、基準面から185mm以下になければならないと規定された。またその一方で、先端は基準面から250mm以上高い位置に存在してはならないとされた。さらに先端から50mm後方の位置は、体積に関する制約もあった。

 本来ならば、ノーズの先端全体を下げることを目指したレギュレーションだった。しかし7チームは、ノーズの先端に棒を取り付けることでレギュレーションを満たし、フロア下に取り込む気流への影響を軽減できることに気付いたのだった。

 ただひとつ問題だったのは、先端に棒が取り付けられたノーズで、クラッシュテストに合格できるかどうかということだ。

レギュレーションを満たすための苦肉の策

 マクラーレンのノーズのデザインは、全体が高く持ち上げられ、気流をフロア下に導く一方、レギュレーションを満たすために先端に棒が飛び出す形だった。ただシーズンが進むにつれて変更が加えられ、ノーズ本体の先端(棒の部分ではない)が直線的になり、より多くの気流を取り込めるようになった。

フォースインディアVJM07のノーズデザイン

 フォースインディアVJM07のデザインは、ノーズ先端にただ棒が突き出す形ではなく、ノーズ下の気流への影響を極力減らすために、後方に行くに連れて棒が上下および左右に小型化されていた。

 VJM07のノーズも、シーズン中に変更された。ノーズ本体の先端が後方に移され、フロントウイングステーの形状が変更。より前方に向け、弧を描くような格好となった。

トロロッソSTR9のノーズデザイン

 トロロッソSTR9のノーズも、特異なモノだった。ノーズ先端から棒が突き出す形状だったが、ノーズ本体の先端形状が上方にアーチ型に持ち上げられるようにシーズン中に変更された。

 STR9のノーズのデザインはさらに変更。先端は下方に膨らみが持たされ、前端には開口部が設けられた。これは姉妹チームであるレッドブルが採用したソリューションに近いモノだった。

ウイリアムズFW36のノーズデザイン

 ウイリアムズも先端こそ前方に伸ばしたが、ノーズ本体への接続が斜めになり、より自然な形状になった。他のチームとは異なり、ノーズ先端に棒が突き出すような格好には見えない。

 なお、ザウバーのノーズも、ウイリアムズに似た形状だった。しかし先端のレギュレーションを満たすためのセクションは、ノーズ下まで膨らみを持たされたまま伸びていた。

ケータハムCT05のノーズデザイン

 ケータハムは、ノーズ先端にまさに棒が取り付けられただけのような、独特の形状だった。ある意味、最も醜いクルマだとも言われた。

 シーズンが進むと、気流を改善するため、バニティパネルを使ってノーズの形状を修正。同時に、見た目もかなり良くなった。

レギュレーションの意図に最も近い? そしてさらに過激なデザインも!

 その他のチームは、レギュレーションは満たしつつも、前述の7チームとは異なる解決策を採ってきた。メルセデスとフェラーリが登場させたノーズは、レギュレーションが本来意図していたモノに最も近かったようだ。

 一方でロータスは、ライバルに差をつけるため、前述の7チーム以上にワイルドなソリューションを準備してきた。

 メルセデスが採用したノーズデザインは、レギュレーションが意図していたモノにもっとも近いように見える。しかし、フロントウイングステーの取り付け位置を工夫するなどして、できるだけ多くの気流をノーズ下に送り込もうとしていた。レギュレーションに規定された通りのモノを登場させ、手をこまねいていたわけではない。

 メルセデスは開幕直後から成功。そのためチームはシーズン中にデザインを若干修正し、ノーズ先端の高さを少し高めた。

 またオンボードカメラのケースを利用して、空力デバイスのように活用した。

フェラーリF14のノーズデザイン

 フェラーリのデザインはメルセデスのモノに似ていたが、先端の位置がはるかに低い位置にあった。その結果、ノーズはかなり幅広いモノになった。こちらもオンボードカメラのステーを、空力デバイスのように活用した。



ロータスE22のノーズデザイン

 ロータスE22は、独特のアプローチを採用した。ライバルチームのようにノーズの先端に1本の棒を突き出すように取り付けたわけではなく、左右1本ずつ、合計2本の棒をノーズ先端に備えてきたのだ。しかも1本がもう1本よりも長く設定されており、その長い方でレギュレーションを満たすような格好になっていた。

 まるでクワガタ虫だ。

 なおこのロータスE22は、マシン後部の冷却用開口部の左右の形状が異なっており、これも注目を集めた。

レッドブルRB10のノーズデザイン

 レッドブルは、ノーズの下に安定して気流を通すことを目指していたため、レギュレーション変更に対して、非常に興味深いアプローチを採用した。しかしライバルのように先端に棒状のデバイスを取り付けるわけではなく、レギュレーションによって規定された寸法の基準を満たすために中空のボックスセクションを選択した。

 このボックスセクションの先端にはU字型の吸気口があり、気流を捕まえやすくなっている。ボックスセクションの後方にも開口部があり、気流はここから出て、ノーズの下に向かっていく。

 レッドブルはまた、オンボードカメラをノーズ上面に配置し、レンズを覗かせるための開口部がノーズ上に開けられた。しかしこれは後に、メルセデスやフェラーリのようにノーズの両脇に移動され、空力デバイスとして使うことを選択した。

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