クルマに乗って気持ちいいと感じる要素はいろいろあるが、最もわかりやすいのがエンジンのフィーリング。特に高回転まで一気に回る、吹け上がる気持ちよさは一度味わったら病みつきになる中毒性がある。
日本のエンジンで高回転型といえばホンダのイメージが強いが、数多くのロードカー、チューニングカー、レーシングマシンなどに乗った経験を持つ松田秀士氏に、高回転が気持ちいいエンジンを選んでもらった。
【記録より記憶に残る名車】 復活を期待したい一代限りのホンダ車4選
文:松田秀士/写真:HONDA、TOYOTA、MAZDA、LEXUS、SUBARU
高回転まで回るだけじゃダメ
高回転型エンジンを得意とするホンダはN360、Zに360ccのN360E型ユニットを搭載。その気持ちよさには定評があり人気を誇った
2輪車メーカーのホンダ、スズキは古くから超のつく高回転型エンジンを登場させていた。
ホンダではZ、N360に搭載された360cc、空冷2気筒のN360E型エンジン、スズキでは2代目アルトに搭載されたタコメーターが1万回転まで刻まれたF5A型など、恐ろしく回るエンジンは大きな魅力を持っていた。
しかし日本の高回転型エンジンに大きな変革をもたらしたのは、ホンダが開発したVTECであることに疑う余地はない。VTEC登場以降、トップエンドまで一気に回るというのがトレンドとなっていき、バルブタイミングに加えバルブのリフト量まで制御。
三菱からはMIVEC、日産はVVL、トヨタはVVTL-iにより高回転型エンジンを市販し、1990年代中盤から2000年代前半にかけての日本は高回転エンジンが多数登場した。
高回転型エンジンの定義というものは存在しないが、7000回転以上回ることは必須だと思う。ピストンスピードが20km/hを超えると、バルブスプリング、カムの形状などシビアになってくる。
主要メーカーの中ではトヨタはバルブリフト量の制御に関してはかなり後発。2ZZ-GEエンジンをセリカが搭載したのが初のVVTL-iだった
昔は低中速がスカスカで高回転でようやくパワーが出る、というエンジンが多かった。さらに昔はエンジンがシャシーに勝っているクルマのほうが多かったので、エンジンの気持ちよさが強調され気持ちよさがわかりやすかった。
しかし現在はその逆でシャシーのほうが勝っているクルマが多く、エンジン自体も洗練されて使い勝手を考慮して中低速のトルク特性などを重視している。
最近のエンジンは高回転型が少ないよう思えるが、高回転での気持ちよさが体感しづらくなっていることとも無関係ではない。
ここで選んだ高回転型エンジンで重視したのは回転の質で、高回転での振動も重要な要素とした。振動が大きければ吹け上る気持ちよさも相殺されてしまう。
F20C
搭載車:ホンダS2000(1999~2009年)※2005年11月以降は2.2L
エンジン形式:直4DOHC、総排気量:1997cc、最高出力:250ps/8300rpm、最大トルク:22.2kgm/7500rpm、レッドゾーン:9000rpm
レブリミット9000rpmのF20Cを搭載してデビューしたS2000。最高級の超高回転型エンジンだったが、実用域のトルクを増大させるために排気量を上げて魅力ダウン
S2000に搭載されたF20Cの高回転まで一気に吹け上る回転フィールは絶品だった。特に中速域までのトルクがイマイチなかったため、その気持ちよさが際立っていた。
実用的ではないし、一般道で9000回転まで引っ張れるケースなんてあるの? と疑問視されたが、高回転エンジンを得意とするホンダはタイプRを含め、超高回転型エンジンを多くラインナップするホンダのVTEC系の集大成といえる力作だ。
マイチェンで登場したモデルにはストロークを伸ばし2.2Lに排気量アップされたF22Cが搭載された。指摘されていた低中速のトルクが増大し扱いやすいエンジンになったが、レブリミットも8000rpmに引き下げられていた。
レブリミット8000rpmだから充分に高回転型エンジンなのだが、F20Cのようなインパクトはなかった。無くなってからよさがわかる典型例だろう。
エンジンはもの凄い点数のパーツにより構成されるが、超高回転型のエンジンではバルブスプリング、カムの形状、パーツ制度は非常にシビアになる
13B-MSP
搭載車:マツダRX-8(2003~2012年)※2008年3月以降は235ps
エンジン形式:直列2ローター、総排気量:1308cc(654cc×2)、最高出力:250ps/8500rpm、最大トルク:22.0kgm/5500rpm、レッドゾーン:9000rpm
歴代のロータリーエンジンに共通するのがモーターのようにストレスなく高回転まで一気に回るフィーリングだ。現状ではRX-8がマツダ最後のロータリー搭載の市販車となっているが、ロータリーエンジンの復活を心から切望する!
ロータリーエンジンはマツダの独自開発により10A、12A、13B、20Bと進化。ボクが最初にロータリーの洗礼を受けたのは友人が所有していた初代カペラを運転した時。搭載されていたのは12Aだ。トヨタの2T-G、18R-Gといった高回転が気持ちいいエンジンがあったが、それらとはケタ違いの気持ちよさがあり衝撃を受けた。
ロータリーの回転フィールは『まるでモーターのよう』と表現されるが、レシプロエンジンにはないスムーズな回転が別次元といっていい。無造作にアクセルを踏むとあっという間にレッドゾーンに突入し、ピーという警告音が鳴る羽目に。
高回転型エンジンに必須の低振動という点でもロータリーは別格。
今のところマツダの市販ロータリーエンジンの最後となっているRX-8に搭載された13B-MSPはパワー感はなかったが、シュイーンと一気に回る回転フィールが最高。
マツダは10A以来、ペリフェラル排気ポート方式を採用していたが、RX-8に搭載されていた通称RENESISではサイド排気ポート方式に変更された
1LR-GUE
搭載車:レクサスLFA(2010~2012年)※500台限定
エンジン形式:V10 DOHC、総排気量:4805cc、最高出力:560ps/8700rpm、、最大トルク:48.9kgm/7000rpm、レッドゾーン:9000rpm
世界限定500台のクルマのエンジンをピックアップするのは一般向きではなく気が引けるが、そういう欲求を抑えられないくらいらしいエンジン
LFAに搭載された4.8L、V10の1LR-GUEはボクの考える歴代日本の最高エンジンのひとつ。
LFAのためにヤマハとトヨタが共同開発したこのV10は、回転フィール、サウンド、パワー感のどれをとっても極上で、高回転型NAの名機を多く出しているフェラーリエンジンでさえかすむほどのすばらしさ。
4.8Lという大排気量ながらフリクション、振動ともなくタコメーターで表示されたレッドゾーンの9000rpmまで一気に回る。ピークパワーを8700rpmでマークため、一般的なスポーツエンジンのレッドゾーン開始の7000rpmもまだまだ通過点。
ここからレッドゾーンまでの回転とともに盛り上がるパワー感もすばらしい。
世界で5000台限定のある意味幻の超高回転型エンジンだ。
LFAのタコメーターは9000rpmからレッドゾーンとなっていて1万rpmまで刻まれているが、この数字は伊達ではない。その間のパワー感も強烈
2UR-GSE
搭載車:レクサスRC F(2014年~)
エンジン形式:V8DOHC、総排気量:4968cc、最高出力:481ps/7100rpm、最大トルク:54.6kgm/4800rpm、レッドゾーン:7500rpm
2014年にRCシリーズのトップエンドとして登場したRC F。5L、V8のパワーユニットの気持ちよさは特筆。5Lの大排気量とは思えないほど軽く回るのは圧巻
LFAのパワーユニットがお金に糸目をつけずに開発されたスペシャルなものに対し、RC Fに搭載されている5L、V8の2UR-GSEはカタログモデルとしての最高峰と言えるユニットだ。
ボクは同じユニットを搭載したIS Fでニュルブルクリンク24時間に出場したこともあり、真剣にIS Fと対峙し、そのエンジンの気持ちよさを実感している。
RC Fに搭載されるエンジンは型式はIS Fと同じながらシリンダーヘッド、コンロッドの変更などにより58ps、3.1kgmのスペックアップ。最高出力も7100rpmでマークするなどさらに高回転型エンジンとなった。
2UR-GSEはIS F用としてデビューしたが、RC Fに搭載されるにあたり、シリンダーヘッドなどの改良を受け、IS F時代よりも高回転化されて魅力アップ
8気筒で5Lということは、1気筒あたり625ccと大きいにもかかわらず、その大きさを感じさせない軽やかな回転フィーリングが気持ちい。
高回転型の大排気量NAとしての仕上がりはすばらしい。さらに付け加えておくと高回転型ながら、低中速域ではアトキンソンサイクルとなるのも現代的だ。
これまでに高回転型NAエンジンを4機紹介してきたが、続いては高回転が気持ちいいターボエンジンを見ていくことにする。
EJ20
搭載車:スバルWRX STI(2014年~)
エンジン形式:フラット4DOHC、総排気量:1994cc、最高出力:308ps/6400rpm、最大トルク:43.0kgm/4400rpm、レッドゾーン:8000rpm
WRX STIはターボエンジンながら高回転まで気持ちよく回る、7000回転付近まではすばらしいフィーリングが楽しめ、その後もテンションは下がらない
4気筒エンジンの場合どうしても振動という面で厳しくなるが、水平対向エンジンは左右のピストン同士が互いに逆向きに動くとい構造上の特性から、振動を打ち消しあうためバランサーシャフトが不要となる。
インプレッサ時代からWRX STIに搭載されているEJ20は、改良を受けるごとに明確によくなっていて、現行モデルでフリクションが低減され回転フィールが気持ちよくなった。
ピークパワーをマークするのは6800rpmで、7000rpmくらいまではすごくいい。レッドゾーンの始まる8000rpmまで回す意味があるのかという疑問はあるが、テンションが下がらずに8000rpmまで回るのはすばらしい。
ライバルだったランエボXの4B11も全開時の回り方などがすばらしく、振動も小さいため洗練されたフィーリングを持っていたことも追記しておきたい。
WRX STIに搭載されているEJ20はインプレッサ時代から考えても長く使用されているが、改良を受けるたびによくなっている印象。次期モデルでは消滅の可能性大
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