アウディのBEV(バッテリー式電気自動車)の可能性はいかに? 北海道を舞台に行われた「アウディ・サステナブル・フューチャーツアー」に参加した小川フミオが、リポートする。
快適なe-tron
アウディといえば、“技術による先進”で知られてきたメーカーだ。最近の注目活動は、e-tron(イートロン)と呼ぶ電気自動車のラインナップを拡充し、温室効果ガス削減など環境対策に励んでいる。
アウディジャパンも同様だ。独自に活動を展開。特に、日本における再生可能エネルギー活用の現場を訪ねる「アウディ・サステナブル・フューチャーツアー」という独創性に富んだメディアイベントを行っている。
「2025年までにすべての工場でカーボンニュートラルを実現し、20種類の電動化モデルを導入することを決定」と、ホームページに記しているアウディ。2024年9月で5回目を数える今回のツアーの目的は、風力発電を中心に北海道北部の再生可能エネルギー活用の現場をみるというものだった。
「(ツアーを通して)持続可能な未来の実現について、より多くの方に考えていただくきっかけとなればと考えております」とは、アウディジャパン広報担当者の言。
わざわざ、アウディジャパンがサステナブル・フューチャーツアーを主催する趣旨は「(2033年までに内燃エンジン車を段階的に廃止する計画の)アウディの存在感を日本で確定したいから」という。アウディジャパンのブランドディレクターであり、フォルクスワーゲングループジャパン株式会社の代表取締役社長を務めるマティアス・シェーパーによる説明だ。
メディアツアーに参加した私たちが乗ったのは、すべて e-tron(イートロン)と呼ぶアウディのバッテリー駆動車だ。アウディ「Q4 e-tron」、「Q4スポーツバックe-tron」、「Q8 e-tron」、「Q8スポーツバックe-tron」、「SQ8スポーツバックe-tron」、それに「e-tron GT」だ。
トルクがあって静かで、スムーズな走りで上質感をもつのは、どのモデルにも共通した印象。加えて、SQ8スポーツバックe-tronやe-tron GTといった大容量バッテリー搭載のモデルでは、トルクたっぷりの痛快な加速感が味わえた。
北海道は道の舗装状態がいまひとつのところも少なくないが、Q8 e-tronとQ8スポーツバックe-tronには「S lineパッケージ」が組み込まれており、アダプティブエアサスペンショ ンが装着されていた。路面からのショックをうまく吸収してくれ、前後席ともに揺れも突き上げも少ない快適さだ。
アウディがBEVの可能性を拡げていく北海道を舞台にしたサステナブル・フューチャーツアーでは、最北端、稚内(わっかない)で北豊富変電所を訪れたあと、「サロベツ湿原センター」で北部の生物多様性の現状に触れ、そのあと、幌延町のオトンルイ風力発電所を訪れた。
年間平均風速7m、風速10m以上の日が90日を超すという稚内で、2023年から稼働を介した北豊富変電所は、風力発電を利用する変電・蓄電施設。「蓄電量はe-tron、8000台分に相当します」と、アウディジャパンではする。
その南には、道道106号線に沿い約3kmにわたって28基の陸上風車が並ぶオトンルイ(アイヌ語で浜にある道の意だそう)風力発電所がある。幌延町の風力発電プロジェクトにより2003年から本格稼動しているそうだ。約50mの直径をもつブレードがぐわんぐわんと音を響かせて回り続けている様子は圧倒的だ。
オトンルイ発電所を運営している幌延風力発電株式会社によると、年間予想発電量は約5000万kWhだそう。「1年間で、一般の家庭が1年間に消費する電力の約12,000世帯分に相当し、石油火力発電所で発電した場合と比べて、CO2の排出量で約35,000tの削減になります」と、ホームページにある。
2日目には、前出のシェーパー・ブランドディレクターが参加しての「未来共創ミーティング」が、旭川で開催された。札幌市厚別区の北里学園大学の学生らとともに、NPO法人「北海道グリーンファンド」の鈴木亨理事長と、北里学園大学経済学部経済学科の藤井康平講師が参加。
印象的だったのは「北海道の自然エネルギーで作った電力を本州に送れるシステムの構築があればいい」という発言だった。話題になっている長距離海底直流送電とか、蓄電池による輸送である。北海道で作れる電力は大きくても需要が足りない。余ってしまうのが現状なのだ。
「電気が余るのは、いってみれば、明るい情報。日本はBEVに向かない市場……と、判断されないようにするのが、自分の仕事でもあるので、この先(バッテリー駆動車の普及と並行して)電気を供給するインフラ(充電ステーションとか)が、整っていくといいですよね」
シェーパー・ブランドディレクターは、取材が終わったあと、そう結論づけて話してくれたのだった。
文・小川フミオ 編集・稲垣邦康(GQ)
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