「アウトランダーPHEV」の19年モデル・プロトタイプに試乗することができた。アウトランダーPHEVは三菱の技術のフラッグシップと位置付けられ、S-AWCで代表される車両運動統合制御と、モーター、EVの制御、エンジンの制御を組み合わせた独自の技術を集結させたモデルで、Y19はさらに進化、向上させて登場した。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>
ポイントは3つに分けられて説明があった。PHEVの進化、S-AWCの進化、そしてクオリティとユーティリティの向上というのがY19のポイントになる。
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■PHEVの進化
PHEVの進化は3つのポイントがあり、ひとつはEV走行領域の拡大だ。これまで16年、17年とバッテリー性能は向上させてきたが、Y19も新バッテリーを採用し、性能を向上させている。充電容量で15%アップ、バッテリー出力で10%アップしている。これに伴い、リヤモーターの出力も60kWから70kWへアップしている。そして、この結果EV航続距離が従来の60kmから65kmへと拡大し、EV走行時の最高速も125km/hから135km/hへとアップしている。バッテリー容量は12kWhから13.8kWhとなった。
もうひとつはエンジンの排気量を2.0Lから2.4Lへ拡大している。このことで、低回転から高トルクを引き出せるようになり、エンジン自体の静粛性が上がっている。こうしたことでエンジン稼働時でもEV感を多く感じられるようにしているわけだ。また、排気音でも触媒コンバーターのカバーを2層にしたり、メインマフラーのエンドプレートにマスを追加するなどしてそれぞれ、5db、7db程度の音圧低減をしている。
これら変更に伴い、エンジン自体の使い方も工夫している。例えば30%程度のアクセル開度の時、加速初期のエンジンの回転を下げて静かにし、60%程度のアクセル開度の時は、車速にマッチした回転上昇とするように変更している。従来のエンジン回転の先行感をなくしているわけだ。
こうした改良を加えることで、30-60km/hの定常走行は17年モデル比600rpm低回転になり、3db改善する効果があるという。またアイドリング時にも180rpm低回転化でき、そこでも3db低減でき、日常の常用域でさらなるEV感が増すような工夫を取り込んでいる。
一方、加速フィールでは、リヤモーターの出力アップもあり、50km/h付近での出力向上が確認でき、0-100km/h加速で5%アップ。発進加速Gで50km/h付近で0.02Gのアップ。さらに追い越し加速の80-100km/hでは14%のアップが見られる。
■車両運動統合制御の進化
S-AWC(スーパーオールホイールコントロール)では、従来のエコ、ノーマル、Lockに加え、新たにスポーツモードとスノーモードを追加している。スポーツモードではアクセル開度に対しての駆動力のゲインを変え、急峻なトルク特性となるようにし、かつ、エンジンが早期に稼働し発電出力向上を狙うモードとなっている。そのため、スポーツモードのときにはFR的な動きも体感するようになった。
スノーモードは従来のLockで対応していたところを、より安心、快適に走行できるように制御変更し、従来のLockモードは深雪や未舗装のような、より大きなトラクションを必要とする場合に使用できるモードとしてある。
このS-AWCについては考え方の基本は、4輪のタイヤにかかる垂直荷重と前後G、つまり加速Gと減速Gに加え、操舵したときの横Gを踏まえたタイヤの摩擦円の中で、つまり、タイヤのグリップ限界の中で、いかに効率よくGをコントロールしていくか?ということがベースにあり、従来のAWDのカップリングやデファレンシャル・ギヤでは制御しきれないところを、モーター駆動により緻密な制御が可能になったために、常にシームレスな車両運動制御が可能となっている。なので、より理解を深めるためにこのS-AWCに関しては別記事で取り上げてみたい。
■試乗インプレッション
プロトタイプの試乗は袖ヶ浦フォレストレースウェイというクローズドエリアだった。主な変更ポイントは上記のように、日常領域で感じられるものが多く、サーキットをハイスピードで走るテストではない。
特にEV領域の拡大というポイントでは試乗車の充電状況が良好であるため、130km/hまで出してもEV走行をする。まさに電気自動車であることが強く印象に残るのだ。そしてセーブモードを選択し、エンジンを稼働させて走行してみるが、エンジン音は聞こえるものの、やかましいとは全く感じない。
また、50km/h付近での加速Gが増したことや、出力向上に関しては残念ながらよくわからない、というのが正直な感想で、オーナーであれば分かる違いだと思う。スペックとしては上記のように明らかに向上しているわけだから。
しかしながら、スポーツモードを追加したことと、リヤモーターの出力をアップしたことで、コーナー立ち上がりではFRとしての動きが感じられるようになり、現行モデルとの違いが大きいと感じる部分でもある。出力向上の違いというより、リヤモーター出力向上の違いのほうが感じられる相違で、さらに、ステアリングギヤ比をクイック化したことも加わり、ドライバビリティでは出力向上、パワフルということより、ハンドリング、スポーティ度が増したという印象だった。
実は現行のY17モデルも比較試乗できたのだが、19Yと比較し、こちらは静粛性やボディ剛性の違いなど、全体に高級感が増したことの違いが印象強く、それもあり、加速Gの違いに気が取られなかったのかもしれない。
特にボディ剛性では構造用接着剤の使用範囲を拡大したことで、ボディ剛性があがり、さらに静粛性にもつながっているため、より高級な印象へと変わったということだ。
そしてS-AWCでは、前後のトルク配分、左右のトルクベクタリング、そして4輪ブレーキ制御により旋回性能の向上がある。デバイスのハードの変化はないが制御変更により、より新しいコーナリングの世界に入った印象だ。ただ、ドライバーとしてのフィーリングはアンダーステアが出る場面でも、アンダーとはならず回頭性があがり、旋回するという他のシステムでも体験しているものと似た印象だ。しかし、そこは奥が深い。
アウトランダーPHEVは、前後のトルク配分では前後別々の駆動モーターを持つため、トルクコントロールが個別に可能であり、左右のトルクベクタリングはブレーキを使ってヨーをコントロールするAYC(アクティブヨーコントロール)をする。そして4輪ブレーキ制御であるABSとASC(アクティブスタビリティコントロール)によって姿勢制御を行なっているのだ。
従ってこの制御の妙と言えるのは、目標ヨーレートに対し、近づくことができるということで、通常アンダーステアが出る場面では、トレースラインどおりに走行するには、ステア舵角が大きくなり、グリップ限界を超えると舵角を大きくしても曲がらなくなるポイントが出てくる。だが、S-AWCではアンダーステアからの大舵角になるポイントがより高い横Gの状況まで持っていくことができ、さらに、限界を超えるポイントまでを徐々にドライバーに知らせつつ旋回するという動きになる。
したがってタイヤのグリップ限界に挑戦することができ、ドライバーの技量というより、タイヤの摩擦限界で走行する理論コーナリングであることを体験していることになる。そして最終的にグリップ限界を超える時点では、ASCやABSなどの制御によりグリップを回復させるため、破たんすることがない走りが存在していると感じるのだ。これは大変大きな安心、安全につながる技術であることを確信した試乗でもあった。
公道試乗の機会ではSUVであることや、こうした技術のフラッグシップが日常使いにおいて、どのようなメリットを産み出しているのかもチェックしてみたい。そして今回レポートできなかったクオリティとユーティリティの向上も確認する必要があるだろう。
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