王者C-HRがまさかの首位陥落!!
ここ最近SUVの販売が全般的に好調だが、特に台数の多い車種がトヨタのC-HR。2016年末に登場し、2017年と2018年には、SUVの年間販売台数No.1になった。
ところが2019年上半期(1~6月)の登録台数を見ると、SUVの1位はホンダ ヴェゼルでC-HRは2位。ヴェゼルもC-HRと同じコンパクトなSUVだが、登場したのは2013年12月に遡る。C-HRに比べて基本設計が3年も古いのに、2019年に入って販売順位が逆転したのはなぜか。
背景にはC-HRとヴェゼル、それぞれのキャラクターの違いが大きく関わっているようだ。
文:渡辺陽一郎
写真:編集部
SUV首位交代劇はC-HRの落ち込みが原因?
C-HRとヴェゼル、2017年上半期から2019年上半期までの半年ごとの累計販売台数の推移。(日本自動車協会連合会データをもとに作成)
ヴェゼルが1位になった理由は、発売直後に好調だったC-HRの売れ行きが次第に下がったからだ。以下、C-HRとヴェゼルの販売推移を見ていく。
2017年には、C-HRは11万7299台を登録してSUVの販売1位になった。2位のヴェゼルは6万4332台だから、C-HRは5万台以上の差を付ける圧勝であった。
2018年もC-HRがSUVの1位を守ったが、登録台数は7万6756台で、2017年に比べると35%減った。2位のヴェゼルは5万9629台だから7%しか下がらず、C-HRとの販売格差が大幅に縮まった。
そして、2019年上半期はC-HRが3万2221台、ヴェゼルは3万3445台。僅差ではあるがヴェゼルがSUVの販売1位になった。2019年上半期の対前年比は、C-HRの21%減に対してヴェゼルは2%増えている。
つまり、ヴェゼルの売れ行きは時間を経過しても安定しているが、C-HRはデビュー直後の2017年に好調に売れながら、その後の落ち込みが大きい。その結果、2019年上半期はヴェゼルを下まわった。
そうなるとSUVの販売1位と2位が入れ替わった一番の原因は、「ヴェゼルが好調に売れたから」ではなく、「発売直後に絶好調だったC-HRが大きく下がったから」といえそうだ。
なぜC-HRの販売が急落しているのか?
2016年12月発売のC-HR。2017年に初めてSUV販売台数年間No.1に輝いた
C-HRのような「熱しやすく冷めやすい」販売推移は、1980~1990年代のスポーティクーペに多く見られた。
「格好良い新型車が登場したぞ」となれば、愛車の車検期間が残っているか否かに関係なく、多くのユーザーが飛び付いた。趣味で選ぶ車だから「欲しいと思った時に買いたい」わけだ。
そうなると欲しいユーザーは、発売から1年ほどの間に皆購入するから、売れ行きが一気に伸びて翌年には大幅に減ってしまう。
C-HRはカテゴリーではSUVに分類されるが、商品の特徴やユーザーの購入意識は以前のスポーティクーペに近い。外観は大胆なデザインで未来的な印象が強く、遠方から見ても識別できるほど個性があるからだ。
つまり、少し大げさにいえば、今まで見たこともない外観の車が登場したわけで、「見慣れる前に手に入れたい!」という意識も強く働いたのだろう。
外観の目立つ新型車を買うと、信号待ちをしている時に、横断歩道を歩く人達から注目されたりする。C-HRにはそういう魅力もあるわけだ。
また、C-HRのコンセプトカーは、2015年の東京モーターショーでも市販を前提にしたスタイルで披露され、発売を待っていたユーザーが多かった。
C-HR登場前のトヨタのSUVは、ハリアー、ヴァンガード、2世代前のRAV4など全幅が1800mmを超える車種ばかりだったから、C-HRは待望のコンパクトSUVでもあった。
これらの条件が重なり、C-HRは発売後1か月の受注台数が4万8000台に達するなど、売れ行きが一気に伸びた。それだけに翌年の反動による減少も大きかったわけだ。
RAV4の復活もC-HRの売れ行きに影響
2019年4月に日本再登場となった新型RAV4。全長4600mm、全幅1855mmとC-HRよりひと回り大きいサイズで人気を集めている
このほか現行RAV4が2019年4月に登場したことも影響した。C-HRの後席と荷室は少し狭いが、RAV4なら充分な広さがある。しかもRAV4はハリアーに比べると野性的な雰囲気があって価格は割安だ。
以前ならC-HRを買っていたユーザーが、RAV4に移ったこともあるだろう。販売店によると「C-HRを目当てに来店され、車内の広さに不満を持ったお客様がRAV4を買うこともある」という。
以上のように外観の個性的なC-HRは、もともと発売直後に売れ行きが急増して、その後に下がりやすい車だった。
しかもトヨタのSUVにはコンパクトな車種が少なかったため、C-HRを待っているユーザーも多く、2017年に売れ行きが急増して2018年には下がった。2019年に入るとRAV4まで登場したから、落ち込みが一層顕著になっている。
ジワジワ売れて首位浮上! ヴェゼルが人気の理由は?
2013年12月に発売されたヴェゼル。発売時から堅調な売れ行きをキープし、2018年2月にマイナーチェンジ。2019年上半期の販売台数はC-HR越えのSUV首位に躍り出た
一方、ヴェゼルは同じコンパクトSUVでも、C-HRとは性格が異なる。外観はC-HRに比べるとオーソドックスで、インパクトは弱いが、見飽きない形状だ。
さらに、フィットやN-BOXと同じく燃料タンクを前席の下に搭載したから、後席はミドルサイズSUV並みに広い。荷室の床も低く、後席をコンパクトに畳むと、フラットで大容量の空間に変更できる。
つまりSUVでありながら、運転しやすいコンパクトなボディに広い室内という、フィットやフリードに似た特徴も持たせた。そのために少しオシャレなファミリーカーが欲しいユーザーにも注目され、息の長い人気を得ている。
(編注:さらに、2019年1月には1.5Lターボエンジン車を追加するなど、ラインナップの強化も行い、販売増に繋げている)
このような実用重視のユーザーは、新型車が発売されても飛び付くように買うことはないが、車検期間の満了に合わせて確実に乗り替える。従って需要が長期間にわたり保たれるのだ。
1993年に発売された初代ワゴンRなどを含めて、実用的な人気車には「熱しにくく冷めにくい」タイプが多い。ヴェゼルはSUVでありながら、N-BOXやフィットのような実用車の性格を併せ持ち、売れ行きにも持続性がある。
さて、落ち込みの目立つC-HRが、今後も販売を保つにはどうすれば良いのか。まずハイブリッドの4WDが欲しい。1.2Lターボの4WDは動力性能が充分とはいえず、燃費値はハイブリッドの約半分にとどまる。
スキー場など積雪地域への長距離移動を頻繁に行うユーザーにとって、ハイブリッドと4WDの組み合わせがあると魅力的だ。
また、1.5Lターボエンジンを搭載するヴェゼル「ツーリング ホンダセンシング」のように、スポーティなエンジンを搭載したイメージリーダー的なグレードを用意する手もある。
C-HRは高重心のSUVながら走行安定性が優れているが、1.2Lターボと1.8Lハイブリッドの動力性能は物足りないからだ。
マイナーチェンジの時に、効果的なバリエーション追加を行うと、前期型のユーザーが後期型に乗り替えることも多い。C-HRの需要は今のところ熱しやすく冷めやすいが、今後の展開次第で息の長い人気車になり得る。
メーカーが手間を費やして育てるクルマは、ユーザーにとっても選ぶ価値が高く、売れ行きを維持できる。数年後に売却する時も有利になり、ユーザーに大きなメリットをもたらす。
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