■プロも認めたクロスカントリー4WD車を振り返る
近年、日本だけでなく海外でも人気となっているクルマといえばSUVです。使い勝手が良く、見た目も立派で、コンパクトなモデルから大型なモデルまで、幅広く売れています。
トヨタ「ランドクルーザー 2021年モデル」がパワフルに! 黒が際立つブラックパック設定
そのSUVの源流を辿ると、行き着くモデルはクロスカントリー4WD車(以下、クロカン車)で、普通のクルマでは走れないような悪路を走破するために開発されました。
かつて、各国産メーカーからクロカン車が販売されていましたが、なかでも優れた走行性能を持つモデルも存在。
そこで、これまでに販売された国産クロカン車のなかから、とくに悪路走破性が高く評価されたモデルを5車種ピックアップして紹介します。
●トヨタ「メガクルーザー」
1994年から1995年にかけて陸上自衛隊に配備が始まった「高機動車」は、大規模災害時の人命救助などの任務を迅速に遂行することを目的に開発されたクルマです。
この高機動車を開発したトヨタは、1996年から民生用モデルの「メガクルーザー」を発売。
全長5090mm×全幅2170mm×全高2075mmと巨大なボディでありながら、後輪が最大12度の逆位相に操舵する4WS(4輪ステアリング)を採用したことで、最小回転半径5.6mを実現し、日本の道路環境でも高い機動性を発揮しました。
搭載されたエンジンは4.1リッター直列4気筒ディーゼルターボで、最高出力170馬力、最大トルク43.0kgmを発揮し、組み合わされるトランスミッションは4速ATのみです。
駆動方式はフルタイム4WDでデフロック機構を装備し、さらにスタックしそうな泥濘地や雪道などでも駆動力が確保できるように後輪の空気圧調節機能も装着でき、高い悪路走行性能を誇りました。
すでに民生用モデルは生産終了となっていますが、自衛隊向けの高機動車は政府からの要請によって都度生産となっていて、現在も納入が続いています。
ちなみに、メガクルーザーはボディサイズや形状、その成り立ちから「和製ハマー」の愛称で呼ばれました。
●三菱「ジープ」
第二次世界大戦終結後、自動車製造を再開した三菱は米国のウィリス・オーバーランド社と契約し、三菱製「ジープ」のノックダウン生産を開始。
米軍の軍用車として開発されたジープは、小型なサイズによる高い機動力を発揮し、自衛隊にも「73式小型トラック」として採用されました。
ノックダウン生産をおこないながら徐々に部品の内製化を進め、1956年からは完全国産化を果たし、民生用にも販売を開始。
ジープのボディタイプはショート、ミドル、ロングが設定され、幌タイプやバンタイプがあり、縦格子のフロントグリルに丸形2灯ヘッドライトの特徴的なフロントフェイスは共通です。
シャシは強固なラダーフレームを採用し、サスペンションは前後板バネのリジッドアクスルとすることで、堅牢かつ高い耐久性を誇りました。
搭載されたエンジンは直列4気筒のガソリンとディーゼルが設定され、歴代モデルではさまざまな排気量が用意されるなど、使用状況によって選択が可能でした。
また、軍用車がルーツだったことから装備は必要最低限のものだけで、快適装備というとヒーターとラジオくらいです。
パワーステアリングも設定されておらず、乗り心地も考慮されていないため、興味本位で買ってもすぐに売ってしまうユーザーが多かったといいます。
1990年代の終わりに、排出ガス規制や衝突安全基準の強化への対応が困難なことから生産終了が決定され、1998年に専用のボディカラー、専用幌生地、シャシの防錆強化が図られた「最終生産記念車」を発売。
そして、2001年に三菱ジープは長い歴史に幕を閉じました。
なお、現在自衛隊に採用されている73式小型トラックは、「パジェロ」をベースとしたモデルとなっています。
●スズキ「ジムニー」
1970年、軽自動車では初となる本格的なクロカン車として、スズキ初代「ジムニー」が誕生しました。
サイズは小さいながら、クロカン車の定石である強固なラダーフレームにボディを架装し、同社の軽トラック「キャリイ」のものを流用した空冷2サイクル360ccの2気筒エンジンを搭載。
最高出力はわずか25馬力でしたが、2サイクルエンジンならではの粘りのあるトルクと、車重600kgと軽量な車体が相まって、優れた悪路走破性を発揮。
積雪地帯の生活の足や、レジャー用途だけでなく、林業や建設・土木、郵政、山間部の商品運搬など、プロの現場でも活躍しました。
4WDシステムは手動でレバーを操作することで2WDと4WDを切り替える、信頼性を重視したパートタイム式を採用。
また、初代ジムニーはオプションでPTO(パワー・テイク・オフ)装置が装備でき、エンジンの出力を外部に供給することで、ウインチやポンプ、農業用機械などを動かすことが可能でした。
その後代を重ねても基本的なコンセプトは変わらず、強固なラダーフレームと前後リジッドアクスルのサスペンション、シンプルなパートタイム4WDを継承しています。
現行モデルのジムニーは2018年に登場した4代目で、本格的に海外展開もおこなうなど、ジムニーはグローバルで活躍中です。
■劣悪な環境でこそ性能を発揮するロングセラー車とは!?
●日産「サファリ」
国産クロスカントリー車の先駆けだったジープと並ぶ存在だったのが、1951年に誕生した日産「パトロール」です。その後、1980年に車名を「サファリ」に改め、悪路走破性はそのままに、普段使いも考慮された大幅な進化を果たしました。
ボディタイプは4ドアのロングボディと2ドアのショートボディを設定し、ハイルーフ仕様や、バックドアが観音開きと上下開きが選べるなど、幅広いニーズに対応したバリエーションを展開。
発売当初に搭載されたエンジンは3.3リッター直列6気筒ディーゼルのみでしたが、1983年にはターボディーゼル搭載車が追加されます。
頑丈なラダーフレームに4輪リーフリジッドアクスルサスペンションを採用し、悪路走破性の高さだけでなく耐久性も高いため、道路整備が遅れている国に輸出され、国内では山間部や積雪地帯でサファリをベースとした消防車も活躍。
1985年のマイナーチェンジではヘッドライトが角型となり、4ドアのロングホイールベース車に、オーバーフェンダーと大径ワイドタイヤ、電動ウインチと背面スペアタイヤキャリアを装着した「グランロード」をラインナップし、迫力ある外観から人気となりました。
その後、1990年代初頭に起こった「RVブーム」では2代目がヒットしましたが、ブームの終焉によって国内での販売が低迷したことで、2007年に3代目をもってサファリの歴史に幕が閉じられました。
現在、海外ではパトロールの名で販売が続けられており、ラグジュアリーな大型SUVとして人気です。
●トヨタ「ランドクルーザー70」
トヨタが世界に誇るクロカン車の「ランドクルーザー・シリーズ」は、耐久性や信頼性、そして悪路走破性が高く評価され、いまも世界中で人気を博しています。
現在、国内では「ランドクルーザー」と「ランドクルーザープラド」の2車種が販売されていますが、これまで数多くのバリエーションを展開してきました。
このランドクルーザー・シリーズは「ヘビーデューティ」「ライトデューティ」「ステーションワゴン」の3つのタイプに分けられますが、なかでもヘビーデューティの「ランドクルーザー70」は、あえてハイテクな装備を控え、クロカン車の原点を追求したモデルです。
日本でランドクルーザー70が発売されたのは1984年で、翌年にはランドクルーザープラドの前身である70系ライトデューティもラインナップ。
2004年にランドクルーザー70は国内販売を終了しましたが、海外では過酷な環境での走行性能や信頼性が高く評価されており、海外専用車種として販売が続けられ、フロントフェイスなどの意匠は変更していますが、大きなモデルチェンジはおこなわれていません。
そして、ランドクルーザー70の誕生30年という節目を迎えた2014年に、期間限定ながら国内市場で復活。
エンジンは4リッターV型6気筒ガソリンで、トランスミッションは5速MTのみ。駆動方式は昔ながらのレバーでトランスファーを操作するパートタイプ4WDです。
ボディは4ドアバンと、国内初のダブルキャブピックアップトラックがラインナップされ、発売直後は待ち望んでいたユーザーが買い求めたことから、多くのバックオーダーを抱えるほどでした。
※ ※ ※
今回、紹介した5車種のうちの1台であるランドクルーザー・シリーズは、2019年までのグローバル累計販売台数は1000万台を達成しています。
また、2018年の実績では約35万台が生産され、そのうち97%が日本製で、残りの3%はケニアとポルトガルで生産されていますが、どちらも主要なコンポーネンツは日本で組み立てるセミノックダウンです。
近年は国内メーカーでも海外生産が一般的になっていますが、ランドクルーザーはメイドインジャパンを守っており、それこそが信頼性につながっているといえます。
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