ヴィッツがヤリスへ、デミオもマツダ2に……。国産コンパクトカーが車名やコンセプトを変えるなか、地道に、ブレずに、進化を遂げてきたスズキ スイフトが、今年で20周年! 欧州流とも評される本格派コンパクトが体現する“クルマ”の本質とは?
文:御堀直嗣
写真:SUZUKI、編集部
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スズキのコンパクトカーである「スイフト」は、2000年に誕生した。
ただし、前身である「カルタス」というコンパクトカーが1980~1990年代にかけてあって、海外ではスイフトと呼ばれていた。
また、初代スイフトは、海外では「イグニス」と呼ばれており、2016年に発売された現行のイグニスとは別のクルマであったが、クロスオーバー的な位置づけは同じともいえる。
したがってスズキの資料によれば、現在のスイフトに至る歴史は、2004年の2代目からと記されている。
とはいえ、国内外の車名や車種の位置づけの違いは別として、国内でスイフトとして販売されたのは2000年からで、そこから数えると今年で20年の歴史を積み上げたことになる。
販売台数が示すスイフトの確かな商品力
2016年12月登場の現行型スイフト。通算4代目のモデルとして、歴代初のターボエンジン車やハイブリッド車も設定
現行のスイフトは、2000年の初代から数えると4代目であり、2016年12月にフルモデルチェンジをしてから3年半になろうとしている。
現在の販売動向はというと、自動車販売協会連合会の統計である乗用車ブランド通称名別順位によれば、新型コロナウィルス(COVID‐19)による非常事態宣言が出された4月においても、1406台の販売で26位に着けている。
台数的には少ないが、スズキのなかではコンパクトミニバンのソリオに次いで2番目で、昨今人気のコンパクトSUVであるクロスビーより多い台数となっている。
この販売傾向は、実は年間を通じても変わらず、2019年4月から2020年3月までの2019年度販売実績において、スイフトは3万2293台で24位という成績だ。
対前年比で86.5%であり、減ってはいるものの80%超えの台数は、フルモデルチェンジから3年を超える車種としては堅調な数字といえるのではないだろうか。そしてやはりソリオに次ぐ2番目の人気であり、クロスビーを上回る状況にある。
2019年度の販売台数トップ10に食い込んでいるトヨタ アクアやホンダ フィットとは比べものにならないとはいえ、日産 マーチの姿はベスト50になく、マツダ デミオ(現マツダ2)の約2.3倍も売れているスイフトは、確かな商品という消費者の信頼を得ているといえるのではないだろうか。
軽から派生したといわれるスイフトの「源流」
2000年に誕生した初代スイフト。海外では「イグニス」の車名でも販売された
初代スイフトは、2代目以降のハッチバック型のコンパクトカーではなく、クロスオーバー的な車種だった。
少し前の1998年に、Kei(ケイ)という名の軽自動車のクロスオーバー車が誕生しており、そのサイドパネルやドアを活用しているともいわれた。それまでのカルタスとは違う新しい価値観の車種として市場に打って出た記憶がある。
だが、前年にトヨタから発売されたファンカーゴと比べると、空間の活用の仕方や外観の造形などに目新しさがなく、実用車として不足はなくても、やや印象に残りにくかったといえなくもない。それでも6年間販売され続けた。
そして2代目で、スイフトはコンパクトハッチバック車へ転換をはかり、欧州市場で大衆車の位置づけにある重要な戦略車として生まれ変わった。
このため、スズキでは今日のスイフトの原点が2代目にあるとするのだろう。初代スイフト的な価値は、その後のSX-4へ受け継がれたといえるのではないか。
今に至る「スイフト」を確立した2代目
今に至るスイフトの原点ともいえる2代目。日本車としては珍しい欧州流コンパクトカーで、デザイン含めそのコンセプトは現在のモデルにまで引き継がれている
2代目スイフトは、ハンガリーでの生産台数が国内の生産工場の2倍という体制で、日本はもとより欧州とインド、オセアニア地域などで販売する車種として開発された。
試乗した印象は、まさに欧州のコンパクトハッチバック車の乗り味を直接的に伝えるクルマであった。走り味や性能に、多くの自動車ジャーナリストが感嘆の声を上げ、同年の日本カー・オブ・ザ・イヤーでモストファン(運転してもっとも楽しい)という特別賞を受賞している。
2代目スイフトスポーツ。基準車にない1.6Lエンジンを搭載、足回りも差別化するなど、こちらも入門スポーツモデルとして高い評価を得た
初代のマイナーチェンジから、より走行性能に徹したスイフトスポーツという車種が追加となったが、2代目でも継承され、これが現行の4代目まで根強い人気の支えの一つとなっている。
ほかに、モータースポーツの場面で初代から世界ラリー選手権のジュニアクラスなどへ出場を続け、スズキが走行性能にこだわりながら車両開発を続ける姿が印象付けられた。その点も、スイフト(海外ではイグニス)の位置づけを鮮明にしてきたといえるだろう。
軽さを武器に「正常進化」で時代に適応
2代目からキープコンセプトで刷新された3代目。当代では欧州仕様と同一のダンパーを組み込んだ「RS」を初設定するなど玄人好みの進化も
2代目からの人気急上昇を受け、3代目はまさに正常進化といえるモデルチェンジを行った。あえていえば、3代目が一台でそこにいると、新車だと気づきにくいほど2代目のよさを実直に進化させていた。
2代目では荷室の容量などに不満があったが、そうした日常的な実用性を改善したり、上質さが加味されたりして、消費者の支持を着実に広げたといえる。
その実績は、3代目の時代に世界累計販売台数200万台超えを皮切りに、最終的には500万台突破を果たしている。
正常進化した3代目スイフトがいかに消費者の支持を世界的に得たか、またそれに資する玉成されたコンパクトハッチバック車であったかを明らかにした。そのうえで、2016年の4代目へのモデルチェンジされたのである。
現行型スイフトのハイブリッドRS。このモデルはいわゆるマイルドHVだが、ストロングHVも加え、ラインナップを強化
4代目では、2~3代目と続いた外観の造形が大きく変更され、見るからに新しいと実感できるクルマになった。
また、スズキがHERTECT(ハーテクト)と呼ぶ新しいプラットフォームを採用したほか、軽自動車のワゴンRからはじまった電動化によるマイルドハイブリッドなど、スズキの登録車としての新たな取り組みを携えてのフルモデルチェンジとなった。
それらのなかで、運転をして感動をもたらす要因の一つに、車両重量の軽さがあると思う。もっとも軽量な車種で860kg、重い車種でもマイルドハイブリッドの4輪駆動車で970kgと、いずれも1トンを切っている。
過去20年ほどの間、衝突安全性能の高さを求め車体の大型化などから車両重量の増加が世界的に目立つ。最新のトヨタ ヤリスにおいても、ハイブリッド車は1トン超えであり、1.0Lのガソリンエンジン車でも940~970kgだ。
発売の年の違いによる衝突安全性能には差があるだろうが、それでも、軽くて剛性に優れるクルマの運転感覚は何にも代えがたい。
スイフトは「クルマの本質を見誤ることなく築き上げられたクルマ」
車名のとおり軽快な走りを身上とするスイフト。目下、トヨタのヤリスが登録車販売No.1に輝いているが、スイフトはその路線をブレずにひた走り続けている
現行スイフトが発売された3年半まえの試乗体験を振り返ったとき、比較的低価格帯の車種においても、充分な性能を実感でき、スポーティな位置づけの車種と比べ乗り心地がよく、それでいて操縦安定性に優れる、基本をしっかり築き上げたクルマと実感させたのを思い出す。
価格の上下を問わず、間違いのない選択であると消費者を安心させる商品性を備えていることに、改めて実直なものづくりの姿勢を覚えさせた。
また、標準といえるガソリンエンジン車に5速マニュアルシフト車を設けているのも、スズキらしいこだわりといえる。スポーティな車種にマニュアルシフトはあっても、誰もが買える標準車的な車種でマニュアルシフトを選べるクルマは少ない。
電気自動車(EV)ならともかく、ガソリンエンジン車を運転する基本は、今日なおマニュアルシフトであり、クラッチ操作を伴うことによりペダル踏み間違いなど誤発進を予防することにもつながるはずだ。
必ずしも世界の最先端ではない面があったとしても、時代に遅れることもなく、クルマの本質を見誤ることなく築き上げられたクルマがスイフトではないか。
そして、自動車メーカーの都合ではなく、消費者一人ひとりの思いや願いを心に留め世界の人々にとって身近な一台であることを志す良品であるともいえるだろう。
スズキはインド市場に軸足があるとはいえ、欧州やアセアン、そして日本と幅広く販売する体制が、そうした堅実なクルマづくりを支えてもいるはずだ。
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