今季のスーパーフォーミュラは、VANTELIN TEAM TOM’Sの坪井翔が富士で3勝をマークし、タイトル争いにおいて大きなリードを保った状態で最終鈴鹿ラウンドへと乗り込む。昨年の宮田莉朋に続いてトムスのドライバーズタイトル2連覇も視野に入っているが、一方で未だ大きな謎として関係者が一様に首をかしげるのが、笹原右京が乗るもう1台のマシンの不振だ。
これまでスーパーフォーミュラで数々のタイトルを獲得してきた名門であり、現在進行形でチャンピオンチームであるトムスだが、2022年以降の直近3シーズンは2台のパフォーマンスに大きな開きが出てしまっている。
■苦しんだ日々を経て、復活のシーズンを送るジュリアーノ・アレジ。躍進の要因を聞く「実はシンプルなことなんだ」
例えば2021年は、中嶋一貴とジュリアーノ・アレジが乗った36号車と、宮田が乗った37号車の得点に差はなかった。しかし2022年はアレジが3点しか獲得できなかった一方で宮田が64点でランキング4位と躍進。そして2023年は宮田が114.5点でチャンピオンとさらなる飛躍のシーズンとなった一方、アレジは前半戦で3点しか取れず後半戦から笹原右京に交代。その笹原も、加入後は1ポイントも獲得できず今に至る。
結果を出せなかったアレジはスピード不足が指摘されたこともあり、TEAM MUGEN時代に2勝を挙げた実績を持つ笹原が後任に指名された。しかし状況は好転せず……そうなるとシャシー側に何かしらの欠陥があったり、大きな個体差がある可能性も想像してしまうが、笹原号は2023年最終ラウンドでの大クラッシュで車体が全損し、そのタイミングでシャシーを新調している。そのため、不調が車体起因のものであるとも考えづらい。
笹原も今季第2戦のオートポリスで初の予選Q2進出を果たしてから、第4戦、第6戦でもQ2に進むなど、徐々にステップアップしているように見えるが、上位争いに絡むような走りは見せられていない。ドライバーが変わっても、シャシーが変わっても、苦戦に終わりが見えない……この状況を、シートを失った立場であるアレジはどう見ているのか?
アレジは、自らの意見を次のように述べた。
「ウキョウは2022年に2勝しているよね。それにポールポジションも獲得している。2021年にはダンディライアンで2戦を走って、表彰台にも乗っている。彼は速いし、その速さは証明済みだ」
「そんなドライバーが明くる日になって走り方を忘れるわけじゃない。個人的な意見になるけど、これは車両側の問題だと思う」
「僕の時もマシンのセットアップがとにかく良くなかった。スーパーフォーミュラは本当にセンシティブなカテゴリーで、ちょっとしたところで大きな差が生まれてしまう。そこでエンジニアがマシンを適切なウインドウに入れられないと、全くダメになってしまう。今のウキョウもそうだ」
「だから彼にとってはかなり厳しい状況だ。僕だって前はその立場にいたから分かるけど、何をやっても遅くて、本当にフラストレーションだった。ただ残念なことに、マシンが適切な領域から外れてしまっていては、あまりできることはないんだ」
「過去に36号車と37号車の間にこんなに大きなギャップがあったことはない。でも最近はエンジニアの体制が新しくなったことで、そうではなくなったように見える。個人的な意見としては、彼らが良いセットアップを掴めていないんだと思う」
スーパーフォーミュラでは、マシンセットアップを“スイートスポット”と呼ばれる最適な領域に持っていくことが特に難しいとされる。KONDO RACINGの山下健太も、自身のマシンのスイートスポットの狭さを表現するかのように、ポイントリーダーの坪井はキャパシティが「これだけある」と両手を肩幅に広げつつ、「僕はこのくらい……」と親指と人差し指の間にわずかな隙間を作って、目を細めていた。
また、速いチームメイトのセットアップをそのままコピーしたところで、車体固有のクセやドライバーの走らせ方が違えば、同じパフォーマンスを出せるとは限らない。トムスはスーパーGTにおいては、最近になってチャンピオンマシンである36号車のセットアップを37号車に落とし込むことができたというが、これにもかなりの試行錯誤があったと言われる。
アレジの言うように、スーパーフォーミュラやスーパーGTでは、コンペティションのレベルの高さからくる“センシティブ”さが悪さをして、それが笹原やアレジといったドライバーを長いトンネルの中に迷い込ませてしまったのだろう。スーパーGTでは今年になって再び2台が揃って高いパフォーマンスを発揮できるようになったトムスだが、これを足がかりにスーパーフォーミュラでも同じような状況を取り戻すことができるだろうか。
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