魅力的で神秘的なクラッシック
車体寸法と車重、エンジンや駆動系の構成、性能を示す数字などを理解すれば、どんなクルマなのか大まかには想像できる。実際には運転しなくても。
【画像】ブランド最高傑作 ラゴンダV12 V12ラピードとLG45 同年代のクラシックも 全128枚
しかし、すべてがそうとも限らない。技術的に未成熟だった時代のクルマには、強く興味を抱かずにはいられない。どんなクルマなのか、知りたいという衝動に駆られる。
結果として、期待通りの体験を得られないこともある。実際に運転したデューセンバーグは肩透かしだったし、スタンダード・フライングV8やクロスッリー・バーニー・ストリームライン といったクルマは、珍しい理由をよく理解できた。
一方で、フェラーリ250 GTOやフォードGT40といったレジェンドには、今でも強く興味をそそられる。メルセデス・ベンツ300 SLRのステアリングホイールも、いつか握りたいと筆者は思い続けている。
そんな1台に含まれるのが、ラゴンダV12。魅力的で神秘的なクラッシックを、忘れることは難しい。
多くの素晴らしいモデルと同様に、ラゴンダV12にも興味深い背景がある。実業家だったアラン・グッド氏は1935年にラゴンダ社を救い、ロールス・ロイスとの契約が満了した技術者のWO.ベントレー氏を招き入れた。
1935年のル・マンで、ラゴンダは優勝を掴んでいた。新しい経営者は、世界最高のクルマを作ろうと従業員を鼓舞した。WO.ベントレー氏も、期待へ応えるように新モデルへ取り組んだ。製造費用や販売価格を考慮せず、最高を追い求めた。
130km/h以上で高速道路を走れる性能
標準サルーンボディを載せたラゴンダV12の英国価格は、1200ポンド。その時代の平均年収は200ポンドを超えず、大衆車のオースチン・ルビーが125ポンドで売られていた。
ただし、型破りなほど高かったわけではない。7.2L V12エンジンのロールス・ロイス・ファントムIIIは、シャシーだけで2600ポンドしていた。倍以上の違いがあった。
ラゴンダV12の場合、当時の英国での自動車税を算出した課税馬力が42HPに該当し、年間42ポンドの税金が課せられた。平均年収が200ポンドにも満たない時代に。
この課税馬力は、ロング・ストロークで低回転型のエンジン設計に英国の技術者を縛っていた。高い税率を避ける必要があった。それでもWO.ベントレー氏は、ショート・ストロークで高回転型にこだわった。
フラッグシップとして、シフトチェンジを頻繁に必要としない粘り強さを備え、160km/h以上の最高速度が不可欠だと考えた。欧州で敷設が進む高速道路を、トップギアに入れ、130km/h以上で疾走できる能力を実現するために。
その一方で、究極的な洗練度や力強さを求めないドライバー向けといえる、手頃なライバルがラゴンダ自体に存在した。同じシャシーに、4.5Lのメドウズ社製LG6型6気筒エンジンを搭載することも可能だった。
WO.ベントレー氏が設計したV型12気筒
ロールス・ロイスの技術者だった、スチュワート・トレジリアン氏の協力を得ながら、WO.ベントレー氏は新しい4480ccのV型12気筒エンジンを設計。1936年のロンドン・オリンピア見本市会場で、ラゴンダV12がプロトタイプとして発表された。
だがその時点では、仮で作られたエンジンには木製の模造部品が一部に用いられていた。ツインのSUキャブレターも載っていなかったという。
ロールス・ロイス・ファントムIIIが積む、滑らかに回転する7.3L V12エンジンが強く意識されていた。クランクシャフトへ掛かる負荷を減らしつつ、エンジン長を抑えながら高出力を得る現実的な方法でもあった。
反面、技術的な野心は高くても、材料技術が追いついていなかった。ラゴンダに限らず、当時の英国のV型12気筒は信頼性が弱点ではあった。少なくとも、直列6気筒より182psを発揮するV12の方が、走りの訴求力が高かったことは間違いないが。
そのV型12気筒は、シリンダーヘッドとエンジンブロックがニッケル合金製。バンク角60度で、軽量なコネクティングロッドが用いられ、5500rpmの回転数まで耐えることができた。
バランス取りされ、オーバーヘッドのカムシャフトはギアとチェーンで駆動。オイルポンプを2基搭載し、1基はメイン・ベアリングとビックエンド・ベアリングを潤滑。もう1基は、ヘッド側を受け持った。
ほかにも、デルコ社製のディストリビューターは各バンクに1基つづ、オイルフィルターも2本。燃料タンクの給油口が2か所で、燃料ポンプも2基備わっている。
ラインオフ前に480kmの走行テスト
ラゴンダは製造品質にもこだわった。新しいエンジンは英国南部、ステーンズに構えた工場で組み上がると、5時間のテスト稼働に掛けられた。さらに最高出力が計測され、新しいバルブでリビルド。約480kmのテスト走行も実施された。
シャシーはボックスセクションで、低重心化に焦点が向けられていた。軽量化のためにスチール材を薄くしつつ、各部に補強ブレースが組まれた。エンジンとトランスミッションは別体で搭載され、その間にも補強材が加えられている。
油圧ジャッキが内蔵され、シャシー潤滑は自動化。当時は、可動部分への定期的なグリスアップが必要だった。サーモスタットで可動するラジエターシャッターなども備わり、現代水準の容易さで乗れることが目指されていた。
シャシー剛性が高められたことで、サスペンションは柔軟にできた。フロントは、ボールジョイントのウイッシュボーンに、152cmも長さがあるトーションバーが組まれた独立懸架式。リアには半楕円リーフスプリングと、堅牢なデフを採用している。
ラゴンダV12のシャシーは、3種類の長さから選択が可能だった。約3.15mのホイールベースのものは、主にフランク・フィーリー氏がデザインしたドロップヘッド・クーペ用。約3.35mと3.5mは、サルーンとリムジン用だ。
サルーンには視覚的な統一感を持たせるため、背の高いラジエターグリルが組まれた。ルーカス社製のP100ヘッドライトは、ラゴンダV12共通の光源。そんなクラッシックの現存数は、合計で100台程度だと考えられている。
この続きは後編にて。
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