この記事をまとめると
■ルーフやドアなどを省いたおしゃれな「ビーチカー」を紹介
ニッポンの若者が憧れたアメリカ文化の象徴! 「メイヤーズ・マンクス」ってナニモノだ?
■「ビーチ」というだけあって海辺などのレジャーユースの装備が用意された
■オークションで高値で取引されているモデルもある
ユニークすぎるビーチカーの世界
ビーチカーといっても、日本では活躍できるシーンが少ないためか滅多にお目にかかることはありません。のびのびとした開放感を得るためにドアを省きルーフを切り払い、さらには四隅のピラーまで根こそぎカットというスタイルは、クルマというよりサンダルなんかに近いかもしれません。プロ野球でリリーフピッチャーを乗せて走るカートみたいなやつ、アレをめたくそオシャレにしたようなもの。お金持ちが海辺のバカンスで使うだけあって、小ぢんまりとしながらもかなり贅沢なクルマばかりです。
フィアット500
チンクエチェントはビーチカーのベースとしてもっともポピュラーでしょう。こちらは、1975年にローマのフィアット・ディーラーがお客様の送迎用に作らせたもので、製作はカロッツェリア・ギア。スーパーレジェッラ製法とか編み出しちゃった彼らが作っただけに、スタイルやディテールは文句なしに一級品です。
ビーチカーのデフォルトに従って、ドア、ルーフ、リヤクォーターはカットオフ。ただし、前席部分のスカットルは「床に置いた荷物が落ちない」程度に高められ、リヤのエンジンルーム上は籐で編まれたトランクスペースへとカスタマイズされています。
大胆にカットされたピラーは先端に差し込みが設けられ、日よけ傘のようなルーフを使うことも可能。赤と白のコンビや、ヒラヒラしたフリンジがいかにもイタリアのセンスを感じさせてくれます。
また、水着で乗っても快適なように、たいていのビーチカーは籐で編んだシートを載せていますが、こちらはシートに加えグローブボックスや小物入れなども籐で作り変えてあるところが贅沢&オシャレ! お揃いで作られた籐のバッグも付属して、オークションでは4万4000ユーロ(約700万円)で落札。昔日のアバルトに迫るような高値ではありますね。
フィアット850スピアジェッタ
チンクエチェントをカロッツェリア・ギアが手がけたことで、一気にビーチカーの人気が高まり、世界中のお金持ちの間で流行し始めました。すると、デザイナーのミケロッティが、これまたヨットのデザイナーだったフィリップ・シェルと手を組み、カロッツェリア・ビニャーレの製作という、なんとも贅沢なモデルも登場することに。
フィアットのミドルクラス、850スポーツクーペをベースに、限定80台が作られたという「スピアジェッタ(小さな浜)」は、ビーチカーと呼ぶにはあまりにもエレガントな仕上がりです。ドアなし、屋根なしというお約束に加え、ヨットのデッキに通じるテイストがあふれるインテリアなど、まさに贅を極めた仕上がりです。
チンクエチェントよりもパワフルな47馬力エンジンを搭載し、ビーチカーとしては珍しくヒーターやステレオといった装備もなされています。
オーダーしたのは、ジャクリーン・ケネディ・オナシス、オランダ王室といった大金持ちが名を連ね、ヨットハーバーの往復や、海辺の別荘で乗りまわされたとのこと。
なお、オークションでの指し値は5万~6万ドル(750万~900万円程度)。シャレで乗るには高値ですが、贅沢というものの価値としては適価といえるのかもしれません。
お金があったらこんなのでドライブしてみたい!
フィアット500スピアジーナ・ボアノ
屋根とドアを切り払ったビーチカーのスタイルをしているものの、佇まいにはただならぬ雰囲気がほのかに漂う1台。それもそのはず、こちらは元フィアット総帥にして希代の洒落者として知られるジャンニ・アニエリがオーダーしたスペシャルモデルなのです。
1958年、ギアのスタイリストだったマリオ・ボアノが手がけたとされ、チンクエチェントをベースとしながら、ビーチカーのセオリーを踏襲。それでいて、何物にも似ていないスタイルを作り上げたのは、アニエリの慧眼、センスの賜物といえるでしょう。
たとえば、前後のバンパーとウエストラインにウッドを使い、加えてフロントシートの背部にも同じニュアンスのウッド張りというディテールは、ビーチカーの最高峰と呼んでも差支えないでしょう。
また、リヤはビロード張りのソファかのように仕立てているのも他車とは一線を画したもの。さらに、テールフィンを模したリヤエンドや、フードのルーバーなどクルマとしてのスタイリングにも手抜かりなし!
ボアノはアニエリ用の1台に加え、海運業で財を成したアリストテレス・オナシス向けの合計2台のみを作り、いずれも現存しているとのこと。ちなみに、アニエリは1973年に専属ドライバーだったベルナディーノ・アイアッサにプレゼントしたという太っ腹。
巡りめぐってオークションに出品されていますが、指し値は27万~29万ユーロ(約4300万~4600万円)と、にわかには信じがたいものとなっています。
BMC ビーチミニ
ビーチカーは1950~60年代のヨーロッパで流行したものですが、ドアなしのカジュアルな乗りものがウケたのはアメリカも同様でした。有名なのはメイヤー・マンクス、いわゆるサンドバギーと呼ばれるタイプですが、それより少し前の1962年に上陸したのが、こちらのビーチミニ。BMCがプロモーション用に15台のみを製作し、北米のディーラーに配ったとされています。
ドアを省き、籐のようなシート表皮、よりカジュアルな内装まではビーチカーのセオリーどおりですが、BMCは「屋根がないとミニに見えない」とルーフだけは残しています。
さすがに当時ものはオークション出ると2000万円という高値が記録されているのですが、こちらはドイツのメンガース社が作ったリプロダクション。オリジンの848ccに対し、ドイツ製は1リッターエンジンに換装され、34馬力から42馬力にパワーアップもされています。同社ではさまざまなオプションを用意しており、なかにはハイブリッド仕様を選ぶことも可能だとか。
日本では法規上なかなか難しそうですが、こんなミニで海辺を走ったら爽快このうえないはず。この際ですから、モークも似たり寄ったり、という意見は聞こえなかったふりをしておきましょう。
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