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試作に消えたシューティングブレーク プジョー504 ブレークリビエラ カブリオレで再現 後編

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試作に消えたシューティングブレーク プジョー504 ブレークリビエラ カブリオレで再現 後編

充分な予算を用意しレプリカ製作を依頼

不明なことが多いプジョー504 ブレークリビエラだが、発表から半世紀後に改めて振り返ると、量産されなかった事実が惜しまれる。当時の写真は、その美しい仕上がりをしっかり写し出している。

【画像】ピニンファリーナの美ワゴン プジョー504 ブレークリビエラ 現行の308と508のSWも 全98枚

横に長いリアのサイドガラスは、2分割のスライド式。専用の4スポーク・アルミホイールと、シルバーに輝くサイドシルが、全体の容姿を引き締めている。同時期に販売されたボルボ1800ESと路上で並ぶことがあれば、見事なペアになっただろう。

1975年にはスポーツワゴンのランチア・ベータ HPEが登場し、小さくない支持を集めていた。スタイリッシュで実用性が高いモデルに対するニーズは、充分にあったのではないだろうか。

興味をかきたてられる裏話付きの美しいシューティングブレークに、魅了されてきたプジョー・ファンは少なくない。特にピニンファリーナ・ボディの504を愛するマニアの場合は。

BoSモデルズというミニカー・ブランドから、1:18スケールのブレークリビエラが販売されており、これを飾って自己満足に浸る人もいる。しかし、それでは飽き足らず実物大を欲するツワモノもいる。相当な資金と技術が求められるとしても。

実際、英国のHCクラシックス社を営むリチャード・カープ氏は、1972年式の504 カブリオレをベースに、精巧なブレークリビエラのレプリカを作って欲しいと頼まれた。充分な予算を用意した、匿名の人物から。

元のボディは前フェンダーとボンネットだけ

「当初は504 クーペでプロジェクトをスタートしましたが、酷く錆びていて実行できませんでした。別のカブリオレは状態が良く、こちらで進めることになったんです」。とカープが説明する。

HCクラシックス社は2017年創業とまだ新しいが、近年ではブリストルやACカーズ、ローバーなど、多彩なレストアを請け負うまでに成長した。ポーランドに金属加工を得意とする提携拠点があるという。今はローバーP6 グラバーの作業中らしい。

504 ブレークリビエラは、同社が3年の月日をかけて完成させた集大成。1990年代に英国のオグル・デザイン社でデザイン・マネージャーを担っていた、カープ自身の技術が活きたと振り返る。

「リアまわりの製作には、CAD(コンピューター設計)を用いました。詳細なデータを成形用のCNCマシンに入力し、ボディパネルの型となるハニカム構造を削り出しています。写真は数枚だけでしたが、可能な限りオリジナルに近づけたデザインだと思います」

筆者の目にも、忠実に再現されているように映る。カブリオレから引き継がれたボディパネルは、フロントフェンダーとボンネットだけだそうだ。

「ルーフラインがクーペではリアに向けて下がるのに対し、ブレークリビエラでは1度上昇します。そのため、ウインドウのラインも異なるんです」

本来備わる、折りたたみ式リアシートを囲うバルクヘッドは、ボディに強度を与えていた。だが、シューティングブレーク化に当たり省かれたため、フロアが補強されている。

オリジナルのワンオフより豪華な雰囲気

リアフェンダーのラインも異なり、ホイールアーチの形状も違う。給油口の位置も、タンクへつながるチューブが車内へ過度に露出するため変更された。カブリオレの上にワゴン風のルーフを被せただけではない、膨大な作業だったという。

「リアハッチやリアピラーの形状と構造、ヒンジの動きなどを設計するだけでも、相当な時間を要しています」。とカープが説明する。

ドライブトレインには大きな手が入っていないが、リビルドに当たり専用工具の製作が求められた。トルクチューブのセンターベアリングを外すため、不可欠だった。

現実的には、2台目の504 ブレークリビエラを製作することも不可能ではないが、カープは前向きに考えていない。余程大変だったのだろう。

インテリアには、クリーム色のレザーが広がる。ダッシュボードはブラックのレザーで仕立てられた。ピニンファリーナが出展したワンオフモデルより、豪華な雰囲気に仕上がっているのではないかと思う。

リアの荷室には、ボートの甲板のような、ウォールナットとメタルトリムで構成された見事なフロアが広がる。リア・ベンチシートの背もたれを固定する方法は、未解決だという。オリジナルでは、磁石が用いられていたようだ。

複雑な形状のアルミホイールも再現された。HCクラシックス社が加工した特注品だ。

クーペとカブリオレも同等の仕上がり

3年を経て仕上がった504 ブレークリビエラ・レプリカは、どこを切り取っても新車のように輝いている。過去に目にしたプジョー504で、このレベルまでレストアされた例はなかった。エンジンルーム内も、隅々まで傷1つない。

傾けて搭載された、鋳鉄ブロックのオーバーヘッド・バルブ直列4気筒エンジンが鈍く光る。ここだけでもしばらく眺めていられる。

今回は比較として、シルバーの1976年式504 クーペと、グリーンメタリックの1976年式カブリオレもHCクラシックス社に用意していただいた。どちらもレプリカをご所望した、熱狂的なプジョー・コレクターの所有車らしい。

細部に至るまで、ブレークリビエラと同じくらい2台も丁寧に仕上げてある。504 カブリオレには、初期モデルに合わせたヘッドライトが付いている。素晴らしいトリオだ。

504 クーペには2664ccのV6エンジンが乗り、ドライで個性的なエグゾーストノートを放つ。発進加速は、4気筒エンジンと比べて見違えるほど力強くはない。パワーステアリングとZF社製の3速ATが組まれ、穏やかに流せる。乗り心地は優しい。

カブリオレに載る機械式インジェクションの4気筒はトルクフルで、5速MTとの相性もイイ。気持ち良く運転できる504だ。

筆者もこれまでに504は3台所有したことがあり、パワーステアリングなしでもステアリングホイールが特に重いわけではない。だが、アシストが付くことで扱いやすくなり、普段使いしやすくなることは明らか。ロンドン・タクシー並みに小回りも効く。

地中海沿いの上質な暮らしの香り

504 カブリオレは残存数が少なく、これほど程度が良いと近年では5万ポンド(約825万円)はくだらない。メルセデス・ベンツSLのパゴダルーフの半額と考えれば、高すぎるとはいえないだろう。

ソフトトップは開閉しやすく、しなやかな乗り心地に現代生活で困らない装備が与えられ、504 カブリオレはより近づきやすいクラシックカーだと思う。美しいイタリアン・スタイリングも大きな魅力だ。

今回のトリオで思わず視線を向けてしまうのは、やはりブレークリビエラ。当時のマルティニの広告で切り取られていたような、地中海沿いの上質な暮らしの香りが漂っている。

スマートで適度にスポーティで、使い勝手も良い。ルイビトンのケースを何個か積んで、マリーナに停めたヨットまで走るような、そんなイメージが湧いてくる。太陽の日差しが良く似合う。

ピニンファリーナは最近になってシューティングブレークの新しいコンセプトカーを提案した。今回のブレークリビエラ・レプリカの製作にも、関心を示しているとか。

彼らも、往年のワンオフ・ショーモデルへ巨大な情熱が注がれたことを、光栄に感じているのではないだろうか。私財が投じられ、見事な完成度で再び日の目を見るこになったのだから。

協力:HCクラシックス社

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