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WRCが導入した狂気の“スーパーサンデー”。新たなジレンマと、6度のどんでん返し

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WRCが導入した狂気の“スーパーサンデー”。新たなジレンマと、6度のどんでん返し

 2024年WRC世界ラリー選手権は、日本を舞台にした最終戦ラリージャパンで劇的な結末を見た。

 選手権上はティエリー・ヌービル(ヒョンデi20 Nラリー1)の初タイトルや、TOYOTA GAZOO Racingワールドラリーチーム(TGR-WRT)の大逆転王座という結果に終わった2024年シーズンは、新たなポイントシステムが導入された年であり、これがラリーの戦い方を大きく変えた。

WRC、2027年より柔軟な新技術規則を導入へ。2025年からポイントシステムの一部調整も決定

 具体的には土曜日と日曜日で採点を分け、最大獲得ポイント(30点)の60パーセント(18点)を土曜時点、残りの40パーセント(12点)を日曜日のみの戦いで決するという方式だ。これまでよりも得点配分が日曜日寄りになり、“スーパーサンデー”との呼び名が与えられたラリー最終日の重要性が大きく増すことになった。

 結果として2024年シーズンは、日曜のポイントを狙ってさらにプッシュを続けるのか、それとも土曜日時点での暫定ポイントを守るのか、ラリーらしいジレンマに満ちた緊迫の日曜日が展開され、いくつもの逆転が起きた。そのどんでん返しの数々を順に振り返る。

■史上最僅差の逆転劇
●第4戦クロアチア・ラリー
 最初に波乱の日曜日を迎えたのは、第4戦クロアチア・ラリーだった。ラリーはターマック(舗装路)を得意とするヌービルが徐々にペースを上げて土曜日のリードを奪い、エルフィン・エバンス(トヨタGRヤリス・ラリー1)との一騎打ちを展開していた。

 ふたりはこの時点で暫定3ポイント差となっており、2番手のエバンスとしてはスーパーサンデーの成績次第で、ヌービルよりも多くポイントを獲得する可能性が残されていた。

 こうして最終日を迎えたふたりは、日曜のポイントを獲るべく互いにプレッシャーをかけあう展開に。そして迎えたパワーステージのループ1本目にてふたりは、同じ区間でクラッシュを喫した。

 双方はコース復帰こそできたものの、より痛手を負ったのは首位ヌービルとなり、対するエバンスはパワーステージでのボーナスもなんとか手にした結果、ふたりはともに19ポイントを得てラリーを終えた。ちなみに、最大ポイントを得たのは総合優勝を飾ったセバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリス・ラリー1)の21ポイントで、次に多いのは土曜/日曜でともに安定して上位につけたオット・タナク(ヒョンデi20 Nラリー1)の20ポイントだった。

第4戦レポート:まさかの決着。トップ2台がクラッシュでオジエが大逆転勝利を飾る

●第6戦ラリー・イタリア・サルディニア

 続いてはイタリアのリゾート地サルディニア島が舞台となった第6戦。このラリーは、グラベル(未舗装路)が想定以上にマシンへダメージを与え、リタイアせざるを得ない選手もいたほど荒れたコンディションが舞台となったが、2連勝中のオジエがタナクとの優勝争いで火花を散らした。

 17.1秒差で迎えた最終日、パンクのリスクも高いこの日のステージに対してトップのオジエは、百戦錬磨のギャップコントロールで安全にマシンを運んでいく。鼻息荒く追い上げるタナクとは対照的で、スーパーサンデーのポイントよりも確実な勝利を優先していたように見えた。

 オジエの安定したペース管理のもとでは、このまま安全に走り終えて総合優勝かと思われたが、最終SS(スペシャルステージ)を走るペースがほんの少し遅かった。もしかしてタナクに逆転されてしまうのではないかという雰囲気が漂うなかでチェッカーを受けると、シリーズ史上もっとも僅差の0.2秒差でタナクがトップに立っていたのだ。

 走行直後のインタビューで力なく「パンクだ」と言葉にしたオジエは、こうして3連勝を逃すことになり、ポイントでも“スーパーサンデー”を攻め抜いたタナクが3ポイント多い25ポイントを獲得した。ヒョンデ陣営は第3戦サファリ・ラリー・ケニアあたりから日曜日をターゲットにしてセットアップを進める戦法を用いており、第6戦はその新たな戦い方が勝利を手繰り寄せた一戦だったと言えるだろう。

第6戦レポート:タナクが0.2秒差で逆転。ヒョンデ復帰後初勝利

●第9戦ラリー・フィンランド

 世界最大のラリー大国フィンランドで行われた第9戦。注目はもちろん地元選手のカッレ・ロバンペラ(トヨタGRヤリス・ラリー1)だった。初の母国大会制覇を望まれた若き英雄は期待に応え、44.2秒という大きなリードで最終日を迎える。

 しかし、マニュファクチャラー選手権でヒョンデにリードされているトヨタにとって、ロバンペラにペースを下げさせる余裕はなかった。トヨタGRヤリス・ラリー1が得意とする高速グラベルにおいて、“スーパーサンデー”は確実に手にしなければならない。

 そして始まった日曜は、ロバンペラを筆頭にトヨタの4台がトップ5を占める好調を見せ、ループステージの2本目へ突入していった。各選手にとってはコース状況も1本目の時よりも把握できており、このままロバンペラが逃げ切るという想定が大方だった。

 しかし、ラスト2本のSS19でロバンペラは、1走目にはなかった岩石に高速で乗り上げ、路肩へと吹っ飛んでいった。さらに日曜3番手のエバンスも同ステージでミスを犯し、オジエが総合優勝。しかし一気に2台を失ったトヨタにとって、第9戦は苦いラリーとなってしまった。

第9戦レポート:ロバンペラ、母国フィンランドに散る。オジエが逆転優勝

■味方をしては、突き放す。ラリーの女神は気まぐれに
●第10戦アクロポリス・ラリー・ギリシャ

 ケニアに引けを取らない過酷さを誇るアクロポリス・ラリー。2024年も猛威は健在で、ほぼすべてのマシンを順番に襲っていった。

 マニュファクチャラー選手権に登録された全8台にはそれぞれトラブルが発生し、ラリー初日から過酷な戦いが繰り広げられたが、そのなかでもヒョンデ勢はもっともロスを抑えた走りを見せ、3台で表彰台を守り続けていた。

 マニュファクチャラー選手権を逆転すべくトヨタに招集されていたオジエは、そのヒョンデの牙城を崩すためにも“スーパーサンデー”をプッシュし、総合2番手/日曜1番手という位置まで追い上げて最終ステージを迎えた。

 トップのヌービルとは総合順位で1分以上の差があるため、オジエが狙うのは日曜最速だったが、パワーステージを走り始めた彼の位置情報は、序盤で突如ロスト。公式映像には映されていなかったが、ここでオジエは横転を喫しており、大ダメージを負ったマシンとともに5分44秒8遅れで最終ステージから生還した。オジエが手中に収めかけていた日曜の大量ポイントは、ギリシャの砂塵となって吹き飛んでしまった。

第10戦レポート:ギリシャの女神、ヌービルに微笑む。最終SSでオジエがクラッシュ

●第12戦セントラル・ヨーロピアン・ラリー

 シーズンもいよいよ佳境に差し迫まる第12戦。ドライバーズ選手権がほぼヌービルの獲得路線で進んでいくなか、トヨタとヒョンデのマニュファクチャラー争いは一層緊迫した局面を迎えていた。

 両陣営は、ラリー序盤から互いにエースの2台をプッシュさせて前線に送り、3台目を5~6番手に控えさせるという戦いが繰り広げると、土曜日ではオジエ、タナク、エバンス、ヌービルという順位となり、この時点ではトヨタが優勢となっていた。

 しかし、日曜の結果次第で簡単に得点状況がひっくり返るのが2024年のWRC。日曜日には、ここまで3台目の役割をこなしていた勝田貴元(トヨタGRヤリス・ラリー1)も加勢し、“スーパーサンデー”の獲り合いが勃発した。

 このなかで、若干ペースを掴めていない様子だったオジエの歯車が狂い、開幕ステージでコースアウトし10秒をロス。これでタナクに総合首位を易々と奪われた。それでも懸命にプッシュを続けたオジエだったが、ミスがあったステージのループ2走目にて、土で汚れた路面に足を取られてコントロールを失ってしまった。そのままオジエのGRヤリスは電柱に正面衝突して万事休すとなり、タナクが総合優勝。トヨタとヒョンデは15ポイント差がついたままに最終戦へ進むこととなる。

第12戦レポート:“魔の森”がオジエを襲う。タナクが逆転で今季2勝目

●第13戦ラリージャパン

 いよいよ迎えた最終戦は、日本が舞台となるラリージャパン。苔と枯れ葉に覆われたターマックでは、荒れやすい天候も相まって毎年波乱が起こってきたが、今年はこれまでで一番とも言える劇的な展開が待っていた。

 2024年のラリージャパンはトヨタの大逆転王座に注目が集まる一方で、第12戦でドライバーズチャンピオンを決めきれなかったヌービルと、逆転タイトルには優勝以外に道はないタナクの争いも熾烈を極めた。

 ヌービルが無得点、タナクがフルポイントといった状況でのみ逆転が起き得たふたりの戦いは、ヌービルがマシントラブルで失速(噂ではターボトラブル)したのに対して、タナクが土曜日にトップを奪う流れとなり、一縷の望みが繋がりつつあった。

 対してマニュファクチャラー争いでは、エバンス、オジエがツー・スリーに控え、勝田貴元も5番手に待つ状況とトヨタがうまくラリーを進めていた。そして迎えた最終日の1本目で、状況が大きく動く。

 自身2度目のドライバーズタイトルが欲しいタナクは、“スーパーサンデー”も勝ち切るべく日曜1本目からプッシュする。ステージ後半にかけては区間タイムで全体ベストを刻み始め、最終日も速さは健在かと皆が思った時だった。日陰に広がっていた泥に高速で乗り上げたタナク車はアンダーステア状態となり、曲がり切れず路肩へダイブ。勢いそのままに段差へ乗り上げ、空を舞った。

 これでドライバーズタイトルはヌービルの手に渡り、さらにマニュファクチャラー争いも大きく変化。残すはパワーステージのみという状況で、トヨタとヒョンデのポイントが同点に並んだ。そして、最終タイムアタックでオジエが驚異的な速さを披露し、トヨタが大逆転のマニュファクチャラー4連覇を飾った。

第13戦レポート:トヨタ、最終日に大逆転で4連覇。ヌービル初戴冠

“スーパーサンデー”の導入初年度となった2024年WRCは、日曜日の戦い方が選手権を大きく左右した。各チームは、戦略もそれに応じたものへと適応させていたため、2023年までのポイントシステムを今季の各順位に当てはめてみても、もはや大した参考にはならないのかもしれない。

 それほど大きな影響を及ぼした“スーパーサンデー”は、2025年には最大得点数が7ポイントから5ポイントへと縮小調整されることになっているが、それでもポイント配分は土曜までで約70パーセント、日曜日のみで約30パーセントとなるため、引き続きタイトル争いのカギとなることは間違いないだろう。

 2025年WRCの第1戦『ラリー・モンテカルロ』は、約1カ月後の1月23日に開幕する。

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みんなのコメント

3件
  • sfx********
    スーパーサンデーは土曜で実質終了してしまっていた状況を、日曜にもイベントとして盛り上がる様になったので良かった。
    ただ優勝者よりポイントを多くもらえるのはおかしい。ポイント配分を改善は必要だと思う。
  • wos********
    スーパーサンデーがオモロイって方々はダートラ観てればイイと思うのよネ、キッと。
    ラリーって走り切ってナンボなんじゃないの?デイリタイヤ?なんだろねぇ。
    そんなんでポイント積み上げて年間1位になったってさぁ・・・。
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