■富士24時間レースに向けたGR86とSUBARU BRZの課題とは
2022年3月末におこなわれたスーパー耐久シリーズ2022の開幕戦から約2か月。
ゴールデンウィーク明けの5月10日に富士スピードウェイで公式テストがおこなわれました。
どのチームも6月3日から5日の24時間耐久レースに向けての準備というわけです。
GR86/SUBARU BRZ共に開幕戦はどちらも完走したものの、両チームともにさまざまな課題があったのも事実です。
それを元にこの短期間でマシンがどのように進化・熟成したのでしょうか。
【画像】SUBARU BRZのボンネットが大幅軽量化! その中身はこうなっていた! さらに公式テストの様子を見る!(31枚)
開幕戦では隣同士だったピットですが、今回は同じピットビルBながらも若干離れており、適度な距離感……といった印象です(笑)。
ちなみに24時間は長丁場のため多くのチームが助っ人ドライバーが起用されることが多いですが、ルーキーレーシングは2021年のスーパーGT GT500チャンピオンの関口雄飛選手、スバルはラリードライバーの鎌田拓磨選手とレーシングドライバーでありプローバ・代表取締役社長の吉田寿博選手が加わっています。
まず走行前に両マシンのチェックです。変更箇所が少ないのはGR86で、ホイールと空力アイテムが変更されています。
ホイールは従来品も用意されているので、比較テストでしょうか。
空力アイテムはパッと見ると違いがよく解りませんが、下回りを覗いてみると、フロントスポイラーが床下を覆う形状になっています。
この辺りについて開発責任者の藤原裕也氏(今回は諸事情でリモートで参加)に聞きてみました。
「エアロパーツは床下をフラットにすることで整流効果を高め、ダウンフォースを得ることが目的です。ホイールは性能比較や脱着性確認も含めてテストを行ないます。
目に見えない部分ですが、サスペンション周りのアップデートやエンジン側の課題(燃料がオイルに希釈する問題)の対策もおこなっています。
前回は5時間走り切ることができましたが次は24時間、正直言うと信頼性はまだまだなのでその辺りを今回のテストで確認できれば……と思っています」
一方のSUBARU BRZは見える部分、見えない部分共に大きく手が入っています。
見た目の部分では唐草模様が入るボンネットにはルーバーが追加されているのが確認できます。
加えてステッカー未装着の左右ドアも気になります。この辺りを監督の本井雅人氏に聞いてみました。
「開幕戦までのマシンはST-4のレギュレーションに準じたスペックでしたが、さまざまな確認も取れましたので新たなステップとなります。
ボンネットは冷却はもちろん空力性能の引き上げを目的にルーバー付きを採用、ドアはカーボン製の採用により左右で30kg近く軽量化。
加えて、サスペンション周りは取り付け点やブッシュ周り、ロールセンターなどを変更するなど、量産から先行開発のフェイズに入ったというわけです」
※ ※ ※
どちらも順調に走行を重ね、24時に向けた伸び代を実感……といいたい所ですが、両チームともに想定通りにはいかず。
最速タイムをチェックしてみると、GR86は「1分55秒657」、SUBARU BRZは「1分57秒977」。
数値的にはGR86が勝っていますが、どちらも課題を抱えるなかでのタイムで本来のポテンシャルではないようです。
■両チームが抱える富士24時間に向けた課題とは?
GR86が抱える課題は「熱」でした。
フロント開口部はNAエンジンに合わせて設計されているため、熱量が大きいターボエンジンの搭載によりクーリング性能はギリギリ。
3月の開幕戦は気温がそれほど高くなかったため問題は起きなかったようですが、5月の気温では厳しかったようです。
それに加えて、今回空力改善で床下を覆う形状のスポイラーを装着したことで熱の逃げ道がなくなってしまったことも原因でした。
ドライバーの豊田大輔選手にクルマの印象を聞いてみると次のように語ってくれました。
「着実に進化はしているものの、このクルマが持つポテンシャルをすべて活かしきれていません。
タイムは良かったですが『安定して楽にタイムを出せたのか?』といわれるとまだまだ、正直言うと完走できるか解らない状況です。
もちろん勝ちたいですが、今やっていることが将来に繋がることが目的なので、24時間までに間に合わせること、そこから先にやることを見極め、さらなる玉込めをしていきます。
24時間は生き残ることも大事なので、壊れても直して走ります」
一方、SUBARU BRZが抱える課題は「ハンドリング」でした。
今回大きく手を加えてきた部分で理論上は良くなるはず……でしたが、実際に走行させてみるとドライバーからは厳しいコメントが。
スバルが目指す「誰でも乗りやすくて、速い」には程遠いようで、走行を中断させてセットアップの根本的な見直しをおこなうシーンも。
この辺りは量産車から一歩踏み出したことによる“洗礼”を受けているような感じでした。
ドライバーの山内英輝選手にクルマの印象を聞いてみると次のように話してくれました。
「開幕戦からクルマは大きくアップデートされました。
セットアップ幅も増え、これまで課題だったリアの挙動も改善されるなど進化は感じています。
ただ、僕らが求める所に対してはまだまだ足りていません。
山は着実に上り始めてはいるものの、GR86とのタイムも大きいのでさらにペースアップしていかないと、同じ土俵には立てないな……と。
ただ、24時間を戦ううえで重要となる耐久・信頼性に関しては、これまで一度もトラブルが起きていないのでまったく心配していません。
なので、いかにして『安心して速く』を目指すかです。レースをやっている以上はやはり負けたくないので」
製作段階から2台を追いかけている筆者(山本シンヤ)が今回のテストを取材して感じたことは、「目的(=安心して速く)は共通だが、開発のアプローチは異なる」です。
とくにマシンの進化のさせ方については、GRは「やってから、考える」に対して、スバルは「考えてから、やってみる」という違いがあります。
これはどちらが良い悪いではなく、各々の社風が表れているな……という感じです。
そして、「抱える課題は異なるが現状に決して満足していない」ということです。
同じ土俵で戦う2台ですが状況はタイムしかわからないため、隣の芝生は青く見えてしまうのでしょう。
24時間までの期間は短いですが、両チームともに己を信じて更なるカイゼンが進められていることでしょう。間違いなく、どちらも「負け嫌い」ですので……。
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