職人が手作業で仕上げたエンジン
text:John Evans(ジョン・エバンス)
translation:KENJI Nakajima(中嶋健治)
2002年から2006年にかけて製造された、メルセデス・ベンツCLK 55 AMG。CLKの形をしたスーパーカーが、今となってはバーゲンプライスで手に入る。初代よりさらにパワフルな、2代目CLK AMGのことだ。
AMGの伝統に則って、V8エンジンは職人の手によって組み立てられた。エンジンのロッカーカバーには、担当した職人の名前が刻印されたプレートがあしらわれる。売買される時も、その職人の名前が出てくることが多い。
筆者が触れたいのは、AMGエンジンビルダーの1人、ロサリオ・インドール。CLK 55 AMGを一度運転してみれば、なぜ彼が高く評価されているのか、理解できるだろう。
確かに電気系統やボディのサビなど、悩みも少なくはない。だが、55のエンジンに関するトラブルは、ほとんどない。
エンジンに組み合わされるのは5速ATで、後輪駆動。9速ATが当たり前の時代、少し物足りない段数だが、より強力なSクラスのV型12気筒エンジンにも耐えるタフさがある。
AMGらしく、とても滑らかなスピードシフト・システムも備える。シフトレバーを横に倒すか、F1のようにステアリングホイールに取り付けられたシフトパドルを弾けば、素早い変速を楽しめる。
無駄のない引き締まったボディには、クーペとコンバーチブルが用意された。シャシーは当時のCクラスのものだが、補強されている。凹凸を超えれば、コンバーチブルの場合は特に、剛性が増していることが実感できる。
サスペンションはスプリングが強化され、アンチロールバーは大径化。ブッシュ類も強化品だ。エンジンは重く、フロントのコントロールアームは消耗が激しい。フロントタイヤも、リアタイヤと同じペースで溝がなくなる。
控えめで高級感漂う雰囲気に惹かれる
スーパーカーに牙をむく高性能にも関わらず、CLK 55 AMGの見た目は控えめ。18インチホイールと、控えめなトランクリッドのスポイラー、2本出しのマフラカッターくらいが違いを主張する部分。
当時のライバル、M3の方が雄叫びも元気で、激しいドライビングを味わえる。だが今となっては、CLK 55 AMGの一歩引いた感じが中古車好きを惹き付ける。
オーナーの1人、マーク・アンソニーは、より高級感のあるイメージに惹かれ、M3ではなくCLKを選んだという。
プレミアム感漂う雰囲気は、インテリアも同じ。2トーンのレザー内装に、クロームメッキのリングが付いたメーターパネルが華やか。AMGと刻印されたサイドシルプレートが、ドライバーを迎えてくれる。
新車当時はポルシェ911より高価だった。理想のオプションが装備されていれば、いうこともないだろう。探す価値があるのは、カーボンとアルミの内装パッケージだと思う。
古い歴史を持つメルセデス・ベンツだけあって、古いAMGにも精通したスペシャルショップが英国には存在する。特に気をつけたいのは電気系統の不具合。これを調査・修理できるのは、まともなダイアグノーシスと、確かな経験だけ。
CLK 55 AMGは素晴らしいモデルだが、同時期のM3ほどの強い存在感は残せていない。おかげで、価格もそれを反映している。ただし、2004年に登場した582psの5.4LスーパーチャージドV8を積んだ55だけは、珍しく高い。
良好なクルマを見つけて、適切な値段で購入すること。そうすれば、ロサリオ・インドールが生んだマシンは、生涯の友となるだろう。
不具合を起こしやすいポイント
エンジン
幅広い回転数でエンジンを回し、振動度合いを目視する。エンジンマウントの状態がわかる。揺れが大きいと、ECUがパワーを絞ってしまう。同時にロッカーカバーからのオイル漏れと、フロントプーリーの状態を確認する。
過去の整備記録を確認して、点火プラグの交換時期を確かめたい。16本もあるから、安くはない。
トランスミッション
冷間時から変速を繰り返し、シフトショックがないかを確かめる。まれに1速で固定になることがあるが、安価に治せる。
バレオ社製のラジエターを搭載した初期のクルマの場合、クーラントがトランスミッション内に漏れていないかも確かめたい。
ブレーキ、サスペンション、ホイール
ディスクの摩耗状態を確かめる。交換費用は安くはない。フロントサスペンションのアームは、消耗品と考えよう。
サスペンション自体は丈夫で、多少のノイズは気にしなくていい。フロントタイヤはエンジンの重量によって、減りが速い。
電気系統
ECUが各所に埋め込まれている。トランク内にも。カーペットを持ち上げて、湿っていないかを確かめる。フロントガラス下のスカットル部分が詰まり、車内に水が入ることがある。
ボディ
ホイールアーチやサイドシル、ボディキットの裏面などにサビがないかを目視する。
インテリア
高いクルマほど、傷は少ないことが通例。すべての装備類が正しく機能し、警告灯は点灯し、エンジン始動後に消えることを確かめる。
オーナーの意見を聞いてみる
マーク・アンソニー
「2006年のCLK 55 AMGカブリオを所有しています。走行距離は7万8000kmほど。岩のように強固で、振動もありません。M3を超えるスーパーカーを探していたのですが、とても楽しめています」
「CLKにはきっと満足できるでしょう。燃費は聞かない方が良いです。楽しむために買うべきです。メカニズムは頑丈ですが、電気系統が弱いようですね。ECUとセンサーの不具合が起きました」
「トランスミッションとアダプティブサスペンションが正常かは、少なくとも確認するべきです。アームとブッシュの交換は必要です。電気系統の故障は、起きるまではわからないでしょう」
知っておくべきこと
良いCLK 55 AMGを選ぶには予算も必要。初期保証だけでなく、クルマの調子を保つためにも、定期的な点検を見てもらえるガレージを探すことも大切。英国では毎月60ポンド(8000円)の費用で、メルセデス・ベンツが面倒を見てくれるサービスがある。
いくら払うべき?
4500ポンド(60万円)~8499ポンド(114万円)
初期のクルマで走行距離は16万km以上。英国の場合、ほとんどが状態良好で、整備記録も残っているようだ。
8500ポンド(115万円)~1万999ポンド(149万円)
かなり手入れの良い2004年式カブリオレなどが英国では見つかる。9万9000kmのクルマで1万995ポンド(148万円)ほど。
1万1000ポンド(150万円)~1万4999ポンド(200万円)
低走行のクルマが増えてくる。状態も素晴らしい。8万kmの2006年式カブリオレで、メルセデス・ベンツでの整備記録が揃ったクルマが、1万1500ポンド(155万円)。
1万5000ポンド(201万円)以上
クルマの状態が目立って良いわけではなさそう。価格にはプレミアムが乗っている可能性がある。
英国で掘り出し物を発見
メルセデス・ベンツCLK 55 AMG 登録:2003年 走行:20万100km 価格:8995ポンド(121万円)
部分的にメルセデス・ベンツでの整備を受けていたクルマだが、残りも専門店で見てもらっている。新しいアルミホイールにブレーキ、フロントサスペンション・アームに交換済み。黒いレザーの内装がシック。この内容でこの価格は、魅力的だ。
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