11月13~14日、岡山国際サーキットで開催されているスーパー耐久シリーズ2021 Powered by Hankook第6戦『スーパー耐久レースin岡山』に突如登場した、バイオディーゼル燃料で走るMAZDA SPIRIT RACING Bio concept DEMIO。参戦までに至る経緯、そして開発に至るまでを取材した。
思いがけない社長間のコミュニケーションから始まった、バイオディーゼル燃料を使用したMAZDA SPIRIT RACINGのスーパー耐久プロジェクトだが、開発スタートからわずか1カ月弱で実戦に臨めたのは、これまでST-2クラスやST-5クラスでSKYACTIVディーゼルを走らせてきた、TEAM NOPROによるデミオXDの地道な開発成果があってのことだった。
S耐第6戦のST-Q車両はユーグレナ社のバイオディーゼル燃料を使用。MAZDA SPIRIT RACINGが参戦
「デミオXDを走らせはじめて今年で6年目です。最初にもてぎで走らせた時には静かで燃費はよくて3時間レースを無給油だけど、遅くてどうにもならなかった。そこからショップレベルですが制御をいろいろ試して、オーバーヒートなどのトラブルも経験しながら、ある程度速さが出せるようになって結果もついてきた。来年は新しいことに挑戦したいなと思っていたところに、今回のお話をいただきました」とTEAM NOPROの野上敏彦代表。「でも来シーズンではなく今年の最終戦ということで驚きました」。今回のバイオディーゼル燃料を使用したST-Qクラスの参戦に向けて、TEAM NOPROのデミオXDがエンジン以外はほぼそのまま使用された。
いっぽう、マツダの開発現場にバイオディーゼル燃料を使用したスーパー耐久参戦の話が降りてきたのは、10月後半だったという。
「バイオディーゼル燃料が通常の軽油と大きく違うのが、火の着きやすさを示すセタン価です。通常の軽油が45~50なのに対して、バイオディーゼル燃料は70ぐらいです」と語るのはマツダのパワートレーン開発本部走行・環境性能開発部第1走行・環境性能開発グループ上杉康範主幹。
「しかし同程度のセタン価燃料を使用した開発経験があったのと(ユーグレナ社の『サステオ』の)性状表をみると我々の想像の範囲にあって、そこの影響は少なく、分子構造の違いに配慮してアジャストすればよいのではないかと考えました。実際、台上でエンジンを回してみたら、狙い通り特に大きな問題は出ませんでした」。分子構造の違いで通常の軽油と熱量が違うため、燃料噴射を増量したのみで、噴射タイミングですら変更していないという。
台上でのセッティングは数時間で完了。TEAM NOPROのST-5車両のデミオXDのエンジンと同等出力を達成したが、それもTEAM NOPROのノウハウの積み重ねがあり、そのデータがあったからだと上杉氏は言う。「野上さんが積み上げて完成したトルクカーブがレースで使われてきたということがものすごく重要です。我々は、トルクカーブのここを上げるには何をすればいいかは分かっていますが、その基準となるラインがあってこそ実現できました。量産車のラインはかなり下にあるので、そこはすごく大きいと思います」。
「いざこういう場所で乗ると、これまで見えなかったいい部分、悪い部分がみえてきますし、もっと良くしたいという気持ちが湧いてきます」と語るのは、マツダの開発ドライバーのトップを務めながら、より高い限界を知るためにインタープロトシリーズやスーパー耐久に参戦、今回もCドライバーとしてエントリーする寺川和紘氏。テストコースでさんざん乗ったデミオXDも、限界状況、それもスリックタイヤ装着で違う面がみえたようだ。
■「速くて魅力的なクルマにしていくこと」でどこを目指す!?
1.5Lディーゼル・ターボエンジンはトルクカーブのピーク回転も低く、ベストのシフトポイントは4000rpmだが、各部保護のためにあえて引っ張ってトルクが落ちた4500rpmでシフトしているという。「ひとつは、ミッションの保護のため。特に5速へのアップの時ですが、最大のトルクが掛かるとミッションへの負荷が厳しい。もうひとつはDPFの温度を上げるためです」
DPFとは、ディーゼル微粒子を捕捉するフィルター。温度を上げることで燃焼を促進する。この装着によって煤だけでなく副次的に排気音も吸収して、DPF以降の排気管はストレートだが、ノーマルカーのような静かさで周回していた。
「DPFの分、フロントが10kgくらい重いのと、現状では保護のために出力を若干抑えています。まだまだ先はあるなとすごく感じています」(寺川氏)。
マツダ丸本明代表取締役社長は記者会見の席上で来季に向けた予算を確保したと述べ、その後、開発スタッフ、チームにそれが伝えられてMAZDA SPIRIT RACINGとTEAM NOPROのピット裏は大いに盛り上がっていた。改めてこれから来季に向けたプロジェクトの方針が策定されることになる。
「カーボンニュートラルを達成するためにモノ由来の燃料を使うということが、いちばんの大義としてあります。それと同時にレースですからお客さんも観にこられるので、速くて魅力的なクルマにしていくことで注目してもらえます。燃料のいいところを引き出すとか、エンジンで何をすべきか、しっかり議論していければと思います(上杉氏)」
ST-Qクラスは改造への制約が少ないのも特徴。ターボ容量のアップやそれに対応したエンジン本体の強化など、一気にパワーを引き上げる選択肢もなくはない。規定上の自由度があるだけに、どこをターゲットにするのかプランの策定内容でパフォーマンスも決まってくる。MAZDA SPIRIT RACING Bio concept DEMIOの来季に注目したい。
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