2025年冬に上陸してくるZEEKR(ジーカー)だが、日本でのビジネス展開をどう考えているのか?中国車が日本でもヒットすると考えているのか、副社長のマーズ・チェン・ユ氏に話を聞くことができた。
すると、驚くことにZEEKRはすでに30カ国に進出しており、欧州、アジア太平洋地域、ラテン、中央アジアだという。ベトナムにも現地工場を予定していて、タイの急激なEVシフトを見るように東南アジアにも食指を伸ばしている。
右が副社長のマーズ・チェン・ユ氏、左が欧州地域担当ディレクターのジェフ・チャオ・ユ氏そうした進出をするときには現地のメディアとコンタクトすることを心がけているという。つまりメディアを使ったブランディング戦略だ。高橋が中国に招かれたのもそうした戦略の一環というわけだ。
日本への進出するにあたり、狙いは何か?という質問に、まず市場規模が大きいことを挙げた。400万台の車両が販売され、しかも多様性があるという。つまりメルセデスやBMW、テスラやボルボなど国産車以外のマーケットが存在し、オープンな市場だという。
ZEEKRのアイコンは握手をイメージしたロゴデザインさらに競争の激しい市場だが、日本市場で認められれば、真のグローバルブランドになるというのだ。それは商品への評価が最も厳しい国が日本であり、日本で認められればお墨付きをもらったというブランドのひとつになるというのだ。リップサービスの気もするが評価が厳しいのは事実だ。
サーキット内にある急速充電設備。配送のトラックも充電中ロータスも吉利汽車なので、ロータス用充電設備日本で成功するために必要なものは4つあるという。まず、充電インフラで、次に政府からの補助金、そしてユーザーが情熱を持ち、興味を持つことだと。そして良い製品の提供だという。ハイエンドのスマートEVであるZEEKRだからこそ、プレミアムブランドとしては、そうした市場へ挑戦することは意味のあることだという。
中国車ではすでにBYDが進出しているが、その点について聞いてみると。まず客層の違いを指摘した。BYDは量販メーカーであり、台数がたくさん売れるブランドだと。一方でZEEKRはプレミアムブランドで高級車だけに量販はあまり見込んでいないような話ぶりだ。
ターゲットとしてはプレミアムブランドの所有経験があることを挙げていた。さらにEVに対する理解度も重要だと。ブランディングが成功すれば日本在住の中国人富裕層が飛びつくことは容易に想像でき、台数を求めなければ狙い通りのビジネス展開はできそうだ。
エピソードとしてこんな話もしていた。「インテリアデザインはレクサスから学びました」という。竹をつかった内装(ステアリング)のことだが、EVはそのレスポンスの良さや大トルクによるダイナミック性能に目が行きがちだが、ZEEKRではエクスペリエンスを大事にしているというのだ。
それは運転感覚だけではなく、くつろげるリラックスした空間の提供や、車酔い、輻射熱、などに対するイノベーションを盛り込み、ちょうどいい感じに仕上げることを目指しているという。内装のデザインやコンセプトはすべてスウェーデンで行なわれており、東を意識したデザインにしているという。つまり、正確に動く冷たい機械的なものではなく、温かみを感じるデザインを心がけているというわけだ。
001はハンドスケッチで始まったとプレゼンテーションする王(ワン)さんこうしたコンセプトでデザインが進められているが、2021年、最初に発売した「ZEEKR 001」はハンドスケッチから始まったという。前回もお伝えしたが、スウェーデンのイエテボリにデザインスタジオがあり、中国のデザインセンターとはVRゴーグルを使い、アバター同士の会話でデザインが進められているという。
そしてデザインの決定はかつてベントレーやアウディなどに所属していたシュテファン・ジーラフ氏が取りまとめている。日本の開発と異なるのは、デザイン承認を取るため各部署の承認を得るが、国内メーカーだと10部署程度の承認が必要になるらしい。それがZEEKRではデザイン部がOKなら、それが決定になるというスピードがあるのだ。そうした開発スピードの違いがプロダクトアウトのスピードの違いにも反映しているのだ。
こうしたZEEKR スピードで生産されたモデルは6モデルあり、前回お伝えしたZEEKR XとZEEKR 009が日本に導入される。一番最初に生産された001はシューティングブレーク・デザインで、FWDをメインモデルとし、性能を落とした廉価版がある一方、4モーターでAWD、カーボンブレーキを搭載したスーパースポーツまでラインアップしている。
杭州にあるZEEKRの本社ビルこの001はすでに22万台を販売し、主力モデルになっている。ZEEKR全体では2024年8月時点で34万台を販売。立ち上げ当初の2021年は6000台で、翌2022年が7万2000台。そして2023年からは海外へ進出し、11万9000台を販売。そして2024年1ー8月期は12万1000台で前年比181%という急成長ぶりなのだ。
これらの生産スピードも凄まじいが001は在庫を抱えない生産方式も斬新だ。注文はスマホから可能で、オプションの選択もスマホでできる。その組み合わせは151万通りになるそうで、1万台で5台平均が全く同じ仕様で生産されるという、ある意味ビスポーク的な要素も魅力の一つなのだろう。
ねじられたようにも見える本社ビルその生産工場も見学することができた。浙江省杭州の寧波にある工場で最新設備を備えていた。5Gに対応しておりAVGロボットが800台稼働し工場内を運搬している。バッテリー残量20%を切ると自分で充電スペースへ移動するが、運搬タスクの途中の場合は、タスクが終了するまでは充電に行かないそうだ。
また20万kWを自家発電しており、余剰電力は他の工場で使うグリッドを構築している。言うまでもなくロボットを多用し、自動化率は高く工場内にあまり人はいない。完成車周辺になると急に人員が増え目視確認などの作業が行なわれていた。
下から見上げると天空に伸びる矢印に見えるこれら823台に及ぶロボットもARゴーグルを使いAIによって点検が行なわれている。担当者はスクリーンを見つめているだけで修復もできていくという自動化があった。ちなみにこのロボットもドイツ製のABABやKUKA(中国企業傘下)が使われAVGは床に貼られたQRコードを自動読み取りしながらタスクをこなすという最先端の工場だった。
ZEEKRは3ヶ所の生産工場を持ち、年間300万台の生産能力を持ち、外板溶接は6000kWで行ない、レーザー溶接後のチェックは0.3mm以下の基準だという。そして驚くのは、混流生産方式なのだが、治具が自動で入れ替わるプログラムで稼働しているのだ。土台ごと入れ替わる仕組みを見るのは初めてで、またタイヤ装着は30秒で4本装着が無人で行なわれていた。もちろん、車両はライン上を移動しながらロボットによるタイヤ装着をみたのも初めてだ。
ユニークなのは「応力釈放」という過程だ。完成車はある規定トルクでボルトが締められているが、激しい振動を加えることで締め付けすぎを緩め、ブッシュ類をなじませるという工程があるのだ。これは完成車を検査員が運転し20km/h程度で凸凹を通過する。距離にして15m程度か。この工程も初めてみた。
またシャワーラインも1台につき 1.5トンの水を6分30秒かけて水漏れをチェックしていた。通常これほど長い時間水をかけ続けることはないということで、これもZEEKRならではの工程だ。
完成車は人によるチェックもあるが、5台のカメラでもチェックが行なわれ、20のチェックポイントがあるという。このカメラの導入によって不良率を減らすことができたという。
こうしてデザインや工場をみると、ほぼドイツの製品でつくられ、ロボットによる正確な製造が行なわれ、そして多国間で意見交換があり、中国にある工場で組み立てているという流れを感じた。これは中国車という括りで正しいのだろうかという疑問さえもつほど多国籍な産業に変わっていると感じた取材だった。
関連記事:【雑誌に載らない話】中国の高級EVブランド「ZEEKR」を知っておこう vol1(高橋アキラ)(2024.12.07)
関連記事:【雑誌に載らない話】中国の高級EVブランド「ZEEKR」を知っておこう vol2(高橋アキラ)(2024.12.12)
関連記事:【スタッフ通信】中国って思ってるのと違う_vol1(高橋アキラ)(2024.12.08)
番組予告:12/14(土)THE MOTOR WEEKLY 放送予告!(オンエア後ポッドキャストで聴取可)
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