新型フェアレディZの国内仕様のお披露目がいよいよ年明けに迫ってきた。脱炭素化に向けて各メーカーが新たなモビリティ戦略を提示する中、果たして日産はこの50年を超える名門ブランドのスポーツカーをどう繋げていくのか? この点を日産の内田誠社長兼CEOに訊いた。かつて、Z32フェアレディZを愛車とし、2020年9月のZプロト公開でも自らZの魅力を語った内田氏が、発売前の新型Zに寄せて、今後の日産とZへの想いを語る。ひとりの経営者として、そしてCar Guyとして、すべてのZ&日産ファンヘのメッセージを全2回にわたってお届けしよう(インタビュアーはFANBOOK編集部 森田浩一郎/「フェアレディZ Story&History Volume.2」より)
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●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
インタビューは2021年6月17日、日産グローバル本社役員室にて行われた。新型Zの1/4スケールモデルを背景に、厚くZと日産への思いを語る。
「A to Z」、そしてZプロト披露の反響は?
──ちょっと経営者的な話を伺います。2020年5月末に発表された日産の中期計画「NISSAN NEXT」の中で、「A to Z」という公約がありましたが、アリアから始まるA、最後にZを持って来ました。そして2020年9月中旬にはZプロトの発表。その反響はいかがでしたか? スピーチの冒頭から、内田社長が自らの言葉で語ったというのは、ファンの間では評判になっていて・・・。
内田氏:ありがとうございます。社内でもみんな元気になりましたね。やっぱりみんな、クルマ好きなんですよ。本当にクルマが好きで、それをお客様にご理解いただき、良い物を提供したいという気持ちは非常に強いのです。私もそれを自ら発信したかったという気持ちもあります。そういう面では、社内の一体感がより高まってきたというのは、Zプロトの発表を起点に変わってきたかな・・・と感じています。手応えとしてはあるかな、と。
──約20年前、V字回復を遂げたNRP(日産リバイバルプラン)のときのひとつの象徴に、Z33によるZの復活があったと思いますが、例えば新型Zは、ここ数年の日産の流れを上げるためのひとつの切り札に・・・ということは念頭にあったのでしょうか?
内田氏:ありますね。やっぱり日産らしさを表現したいということです。それが電気自動車のアリアであったり、スポーツカーのZであったり。我々は、GT-Rに対しても思いを持ってやっています。確かに厳しい時期がありました。でもこの会社、すごいんですよ! 個人それぞれの能力が。もういつでもどこでも、しつこいぐらい言っているのですが。
──そうですね。
内田氏:その個人の能力をきちんと導いて、本来のポテンシャルの力を引き出していくのが我々経営者の責任だと思っています。「じゃあ、それをするにはどうするんだ? それを商品で見せるにはどうするんだ」というのが、今まで一生懸命やってきたことなのです。再び日産を輝かせたいのです。過去に日産は輝いていました。残念ながらいろんなことがありましたが、これから日産を再び輝かせる。そのためにアリアもZも世に出していく。これが僕の強い気持ちなのです。これが日産らしさです。日産のDNAです。
──前も何かの談話を読んだのですが、日産らしさとは「他にないものをやる」、「他にないものを提供する」っていうことですか?
内田氏:はい。我々は「やっぱり日産で良かったよね」ってお客様に言っていただきたいのです。「やっぱり」って。2020年の株主総会でそれを言いました。当然、従業員にも日産で働くことを誇りに思って欲しいのです。これが実現できれば、本当に社長をやっていて良かったな、と思えるし。それが今のモチベーションです。本当にそういった声が聞こえてくると、嬉しくてしょうがないです。なぜならば、本当にこの会社は素晴らしいから。
日産は日本市場をどう見ているのか?
──ちょっとZからズレますが、日産は日本市場をどう見ていますか? 市場規模を見ても日本市場はもうあまり重要視していないのではないのか? という声もありますが・・・。
内田氏:日産は日本で誕生しているし、ホームマーケットです。イノベーティブなことを進めるには、まず日本でできないと、海外にも展開することはできないと思っています。実際にプロパイロットやe-POWERなど、最新の技術は日本市場から投入していますし。また、セレナもデイズもルークスもキックス e-POWERもノートも日本専用モデルです。アリアも発売は日本からです。
もう少し言うと、我々は「ブランドというものを、日本のお客様にどう表現するのか。会社の企業価値をどうお客様にご提供できるのか?」ということをデザインするところだと思います。日本で企業価値を伸ばす、革新的な技術をどんどん進めて、海外にもそのノウハウを渡していくということだと思います。
──まさしくここが日産のGHQ、グローバルヘッドクォーターだと。
内田氏:そうです。そうです。
──Zは当然、栃木工場で作って海外に出していく? もちろん、Zだけではないですが「国内市場を疎かにするつもりは全然ない」ということですか?
内田氏:ありません。
──(このインタビューの6日ほど前)スカイラインの開発中止という報道が一部でありましたが?
内田氏:我々からは何も申し上げていません。たぶん事業を見たときに、マーケットサイズで見ると、どうしても日本はまだ厳しいところはある。ただ、それはあくまでも「台数」という視点でしか見られていないと思う。僕が言いたいのは、会社としての「価値」を提供することをどう踏まえるか、です。
これからの日本の現状を見たときに、「日本の工場ってどうなるんですか?」という質問が生産現場からも挙がってきています。従業員の方々も心配されている。
みんな「台数」のことを真剣に考えてくれますが、工場はクルマを作るだけじゃなくて、革新的な「技術」も含めて日産の「価値」を作るところなのです、と。お客様に対して「これが日産だ!」と言えるものを作る、これを極めて欲しい。ちょっと美しく言っているようにも聞こえますけど、そこと事業のバランスをどうとっていくか。
じゃあ、日本をホームマーケットとして今まで力を入れていたのかというと、過去を振り返れば弱かったのかな。これから力を入れます! ということです。事業規模でいうと、たしかに中国やアメリカとかの方が大きいですが。
──まぁ、それは桁が違いますよね。
内田氏:例えばバッテリーですが、電気自動車でもリチウムイオンバッテリーって、技術的に日本は強かったですよね? でも、事業という側面で見ると厳しい。中国は非常に事業を上手くやった。もちろんスケールメリットはあります。ただ、そこだけではなく、これからのカーボンニュートラルの時代を見据えると、どんどんその構造を変えていかないといけない。本当に日本は技術があるので、事業化していくことが課題だと思っています。
経済原則で見てしまうと、多分、過去ウチがそういう風に見えていたことはあったのかもしれない。でも、それじゃあダメだよね。じゃあジャパンって何? 日本の匠とか技術とか言うのであれば、それって何?と。それが我々の「価値」に会社として繋げるのであれば、日本でどうやっていくのかというのを、明確にしていかないとダメだと思うのです。日本で生まれた日産ですし。
電動化に脱炭素化・・・今後のZやGT-Rはどうなる?
──最後に今後のZについてです。先日(2021年1月27日)、2050年へ向けての指針ということで、内田さんは「2030年代にEV化を進めてカーボンニュートラルに向けて全社的に取り組む」というステートメントを出されました。そうした流れの中で、ZやGT-Rというクルマはどうあるべきなのか? ちゃんと残していく意志は日産としてあるのか? それをお伺いしたい。
内田氏:我々が言ったのは当然のことながら、この気候変動に対して、この社会に対して会社として果たす義務があると思うのです。そういう視点からも、2030年代の早期から電動化車両を提供できるようにすると。ただ、「全部を電動車両にする」とは言ってなくて、そこは当然のことながら、我々がそれを提供できるようにするのは企業としての義務であり、やっていかなきゃいけない。
ただ、そんな中でも日産が企業価値をどう提供するかというと、先ほどの話に戻る。併せて、こういったワクワクするクルマも、我々のDNAからすると持っていたい。ですから、その気持ちを持ちながら、やっぱりお客様が喜ぶものを出していけるかを今、一生懸命やっている。こういう言い方しかできないですね。
──それは例えば、この先、検討されているという軽自動車のEVや日常的に使えるコミューター的なクルマと、ZやGT-Rのような趣味性の高いスポーツカーとか、そういったものの二極でやっていくということですか?
内田氏:二極というか、例えば電動化というと、ウチはEVとe-POWERですよね。それに合わせて日産らしいクルマもやっぱりラインナップとしては持っていきたいと思います。その中でZやGT-Rというものもあればと。このポートフォリオを持ちながら、併せて気候変動に対してもきちんと企業として社会に対する貢献もバランスを持って図っていくということだと思います。
──この本(フェアレディZ Story&Histoiry Vol.2)の中で、Z33とZ34のCPS(商品企画のリーダー)をやられた湯川さんに寄稿していただいています。その中で、「Zは今後どうなっていくのでしょうか?」と聞いてみました。そうしたら「自動車メーカーとして残していくのは大変なんだろうけども、1000人のうち0.2%の人が買ってくれて成り立つような価値があるものを作っていけばいいんじゃないか」。だから「自分としてもコミューターとしてのEVが欲しいけれども、それだけじゃない」と。趣味の領域っていうのかな。そういう本当に欲しいお客様に対してメーカーが寄り添ったような、ある意味、言葉が悪いけど「媚びを売るようなクルマ作りっていうものが、今後、自動車メーカーが生き残る、ひとつの道なんじゃないか」みたいなことをおっしゃっていました。これはどう思われますか?
内田氏:そうですよね。このクルマだけで利益を出そうと事業を見ていくと、多分限界がくるでしょうね。ただ、そのクルマが会社の価値をどう生んでいるか計測できれば・・・。間違いなくZはブランドになっていますし、多くのファンの方がいらっしゃいます。こういう言い方をすると怒られちゃうのかもしれないけれど、Zは飾っていてもいい物になれるくらい美しいですよね。
──そうですね(笑)。
内田氏:だからそういう面では、カーボンニュートラルになる(笑)。「じゃあ、Zってイイんですか?」とか質問が出たりするかもしれないですけど、僕は「じゃあ、クルマってどういう価値になればいいのか?」というのは、今後もどんどん変わっていくと思うんですよ。クルマじゃなくても骨董品とか見ても、まさしくそうじゃないですか。
──腕時計もそうですね。いわゆる機能的なものが良かったはずで、正確な電波ソーラーが一番いいのに、なぜみんなブライトリングとこロレックスとか高級な時計を欲しがるのか。
内田氏:デイトナとかね。でもやっぱり、それを持ちたいとか、保有したいとか、自分の一部にしたいと思うのですよね。だから僕はそういうものもあっていいだろうなって。日産のZがそういうブランドになるかもしれないですし。なので、僕個人は本当にガレージに置いておきたい。だから見える窓を作った。それ見て、自己満足に浸る。
じゃあ、気候変動の視点からそれをガンガン乗っていいのかと、怒られちゃうかもしれないですが、それについては、僕は飾っていても嬉しいクルマにしたいのです。それはお客様にとってのバリューだし。何がバリューかって、人それぞれ違うし。そんな中で、Zにはこれだけのファンがいらっしゃる、これだけの歴史がある。それは絶やしたくないですね。
事業という側面では、チャレンジングなものになってくる。これは当然です。ただ、それがどういう価値に変われるか。価値を変えるということを、我々はこれからもチャレンジし続けなければいけないのかなと思いますね。Zというものに対してね。
──安心しました。
内田氏:でも、本当にそう思います。クルマの価値ってなんだろう。移動だけのためなのかと。いろんな価値が出てくると思うんですよ、これから。ましてやクルマ・・・例えば当社に入社される若い人の中にも、運転免許を持っていない人もいる。価値観は変わっていて。我々が昔、求めていたクルマへの価値も今は変わってきているし。これからのどんどん若い世代、Y世代とかZ世代の人は、環境に貢献していることが価値になるとかね。変化することは当然で、素晴らしいことだと思う。だからそうなると、クルマに求めるものがどんどん変わってくるのだろうなって。そして、いろんな求め方があっていいと思うにのです。その中にZっていうクルマに求められるものを、我々は継続していきたい・・・というのは思っています。(了)
After Note
2021年6月17日の本インタビューから約半年が経過した。その間、2021年度の上期決算や新長期計画の「Nissan Ambition 2030」が発表され、業績の回復(営業利益1391億円)と「今後5年間で約2兆円を投資し、電動化を加速/2030年度までに電気自動車15車種を含む23車種の新型電動車を投入、グローバルの電動車のモデルミックスを50%以上へ拡大/全固体電池を2028年度に市場投入」という意欲的な指針を発表した。
この半年の中で、脱炭素に向けた各社の取り組みの表明は、先のトヨタをはじめドラスティックに成されてきたが、会見の中で内田社長によって語られた「価値の創出と提供」という内容は、このインタビューの時、いや、それ以前からブレていない。ともすれば、「もはや内燃機関のクルマは害悪だ」という風潮が蔓延するのでは?という懸念もあるが、果たして日産は「新たな価値の創出と提供」を成し遂げることができるのか? まずは2022年春に登場する新型Zの反響を注視しつつ期待したい。(文:FANBOOK編集部 森田浩一郎/写真:井上雅行)
[ アルバム : 日産、内田社長兼CEOインタビュー【後編】 はオリジナルサイトでご覧ください ]
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