2018年10月24日に販売開始されたレクサス「ES」は1989年、初代「LS」とともに誕生したレクサスのエントリー・モデルで、LSとともにブランドの創成期を支えた立役者である。象徴というべきLSに対し、ESはその後のラインナップ拡充によって立ち位置が変わったけれど、およそ30年後の現在も、数の上でレクサスの大黒柱であり続けている。レクサスの広報によると、最近もグローバルで月販1万台ペースを維持していて、月販1万2000台から1万5000台のRX、NXに次ぐ位置にある。レクサスの年間販売台数は60数万台だから、ESの存在の大きさがわかる。
とはいえ、筆者にはESのウリというか魅力というか、存在理由がよくわからない。2018年10月末に横浜・みなとみらい地区で開かれた試乗会で試乗したあとも、腑に落ちない。クルマそのものに取り立てて欠点があるというわけではない。すでに定評あるカムリと同じパワートレーン、すなわち2.5リッター直列4気筒エンジン+モーターのハイブリッドで、おなじTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)の新しいFFプラットフォームを使っている。でもって、現行カムリにはちょっと感心した記憶がある。
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だけど、筆者は生来、保守的で新しいコトに懐疑的でありまして……レクサスにはいまLSがあって、その下に「GS」、「IS」があるが、これでプレミアム・ブランドにとって重要な後輪駆動セダンの“大、中、小”という基幹をなしている。メルセデスだと「Sクラス」、「Eクラス」、「Cクラス」、BMWだと「7シリーズ」、「5シリーズ」、「3シリーズ」に該当するプレミアム・ブランドを貫通する背骨であり、基本の商品といえる。
ESというのは初代から新型7代目に至るまで、カムリとプラットフォームを共用するのが、いわば伝統になっている。ご存じのかたはご存じのように、1991年から2006年まで日本ではトヨタ「ウィンダム」名で販売されていた。
共用することがいけない、と申しあげているのではない。GMの基礎を築いたアルフレッド・スローン以来、自動車ビジネスの定石である。しかれども、前輪駆動のセダンが後輪駆動セダンからなる背骨のあいだに紛れ込んでいるのがレクサス・ブランドのピュアリティを薄めているのであるまいか、と危惧する。GSの登場が1993年、ISが1999年である。せっかくつくった3本柱なのに、横っちょにGSと同クラスのFFセダンがいる必要がどこにあるのだろう? 余計なお世話ですけど、気になってしようがない。
新型ESはデカすぎることも心配だ。日本では販売されていない先代より65mm長く、45mm広く、5mm低い。低いのはいいとして、全長×全幅×全高=4975×1865×1445mmは、レクサスNo.2のGSよりも10cm近く長くて、25mmほど幅広い。
価格はGSの578万1000~743万9000円に対し、ESは580万~698万円。“グランド・ツーリング・セダン”を標榜するGSのほうが高いのはV型6気筒(GS350)とV型6気筒+モーターのハイブリッド仕様(GS450h)があるからで、2.5リッター直列4気筒+モーターのハイブリッド仕様のみのESは、V型6気筒がないという意味ではGSより格下かもしれないけれど、ESとGS(GS300h)の4気筒ハイブリッド同士で比較すれば、レクサス内における番付はGSと並ぶ張出大関というようなことになる。
では、この張出大関の魅力はなにか? GSとどこがどう違うのか? 筆者は試乗会のおり、単刀直入に開発エンジニア氏にうかがった。このようなプリミティブな質問に対してエンジニア氏は困惑気味に「乗り心地と静粛性、室内の広さが世界的に評価されている」と、回答した。
そういえば、試乗会ではこんな説明もなされていた。
「新世紀レクサスとしてときめきを感じさせる。乗り心地がよくて、楽しいハンドリングをもっていて、室内が広い」など、本来は相反するところを両立させることを開発の目標とした、と。何気ないドライブで、あるいはワインディングでもワクワクする走り。操作に忠実な動きを得るため、LC、LSの開発者たちと張り込み、つくり込みを重ねたともいう。
前述したように、ESはレクサスのメシのタネである。レクサスESとしては日本とヨーロッパではこの7代目にして初導入となったが、アメリカと中国市場では人気モデルで、その理由は、何度目かの繰り返しになるけれど、「乗り心地と静粛性と室内の広さ」にあるとのこと。
「GA-K」と呼ぶ中型前輪駆動用プラットフォームは、低重心をウリにしている。全高が先代より5mm低いのはその恩恵とされる。2870mmのホイールベースは、現行カムリより45mm長い。どこがカムリと違うのか? というと、デザインと開発はそれぞれ別個に行っているから、違うものはいっぱいあって答えようがない。開発時の参考にしたのはメルセデス・ベンツ Eクラスなどで、カムリとは比較していないそうだ。
みんな違ってみんないい……しかし“謎”は深まる
乗り心地が快適志向であるのは疑いない。ES初登場のスポーツグレード「Fスポーツ」であっても、ガチガチではない。235/40R19という大径扁平のダンロップSPスポーツMAXXを履いていて、低速ではタイヤの存在を感じさせるけれど、高速にあがると19インチを忘れさせる。パワートレーンはハイブリッドで黒子に徹しており、痛痒なくパワーとトルクを供給する。
最初の国内試乗会が山口から北九州まで300kmのロング・ドライブだったのは、新型ESの長所を味わってもらうためだったという。「長距離乗ってください」と、エンジニア氏も広報の担当者氏もそうおっしゃる。アメリカ、中国のような広い大陸をゆったり長く走るのに向いているらしい。
ここに至って固陋な筆者もようやく気づいた。レクサスはメルセデス・ベンツ、BMWと違っているからいいのである、ということに。そもそもメルセデス・ベンツもBMWも、大、中、小の後輪駆動セダンだけではやっていけなくなっている。SUVだの4ドア・クーペだのSUVのクーペだの、枝葉のほうに力を入れている。100年に一度の大変革期である。21世紀のビジネス・モデルに、自動車はかくあらねばならない、というような「型」はもはや存在しない。
いや、レクサスはそもそもの始まり、1989年にアメリカでスタートしたときからドイツのプレミアム・ブランドとは違っていた。結局、駆動方式にこだわらなかった。メルセデス、BMW的考え方の盲目的信者(筆者のような)はそれを不純だと思っちゃうけれど、アメリカのひとびとはそれを多様性として受け入れた。ドイツ人の硬質な思想ではなくて、もうちょっと柔らかいモノでつくられている。それをいいと評価するひとにとってはものすごくいいのである。
であるにしても、同じプラットフォームのカムリが329万8320円から買える。レクサスESは580万円からで、2倍近い価格差がある。その価格差にレクサスの「価値」があることは承知するけれど。この日本に多数の富裕層が存在していることも筆者は承知している。それにしてもなぁ……。
この謎を解くベストの方法は自分で買って大陸的な使い方をしてみることである。だけど、580万円からだしなぁ……。ま、謎があるから人生はゆたかなのである。と強がってみたりして。
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