ポルシェといえば「911」その理由とは
ポルシェと言えば、世界屈指のスポーツカーメーカーとして知られているが、つねにその中核を担ってきたのが「911」シリーズだ。現在はSUVのカイエン、4ドア(正確には5ドア)のパナメーラ、ミッドシップスポーツのボクスター/ケイマンと多彩なラインアップを見せるポルシェだが、同社の屋台骨は終始一貫して911が担ってきた。ポルシェの代名詞的存在でもある911について、少し振り返ってみることにしよう。
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造り続けるものは「スポーツカー」
そもそもポルシェが自動車メーカーとして創業したのは、まだドイツが第二次世界大戦の復興途上にある1948年のことだった。オーストリアの小さな地方都市、グミュントに工場を構え「356」シリーズを企画、その生産を始めたのが第一歩だった。創設者はフェルディナント・ポルシェの長男フェルディナント・アントン・エルンスト・ポルシェ、通称「フェリー・ポルシェ」だった。
ヒトラー政権下でVWビートルを開発したことで知られる天才エンジニア、フェルディナント・ポルシェだが、息子フェリーが手掛けた356もVWビートルの設計思想が色濃く反映されるモデルだった。リヤエンジン・リヤドライブ、空冷水平対向エンジン、半球型を基調したボディフォルムなど、クルマをまったく知らぬ人が見ても兄弟車と思える仕上がりだった。
そのポルシェ社が、現在本拠地を構えるドイツ・シュツットガルトに移転したのは1952年のことだった。スポーツカーメーカーとして、356シリーズを生産することで企業規模は順調に拡大。しかし、1960年代に入ると、自動車工学の進歩とともに、時代に即した新たな設計のスポーツカーが求められるようになっていた。こうした社会ニーズに沿って生まれたモデルが、356シリーズの後継となる911シリーズだった。 911(初代901系)シリーズは、VWビートルの流れを汲む356シリーズから内容を一転。新開発の2L空冷水平対向6気筒エンジンを軸とするスポーツカーで、動力性能、運動性能の向上を図る新世代モデルとして企画されていた。
エンジン排気量は2L、車体を全長4163mm、全幅1610mm、車重はわずかに1tを超す規模で設定。現代の基準から考えるとコンパクトなサイズに強力なエンジンの組み合わせとなり、それだけに卓越した走行性能を発揮し、356シリーズを上まわる市場の支持を受けることに成功。とくに、スポーツカー(高性能車)に対する要望の高かった北米市場でヒットする。ポルシェ社の急速な発展を促す原動力となって働いた。 この新型ポルシェ911のデザイン設計に中心的人物として携わったのが、フェリー・ポルシェの息子であるフェルディナント・アレクサンダー・ポルシェ、通称「ブッツィー・ポルシェ」だった。のちにポルシェAGを離れ、ポルシェ・デザインを創業したことでも知られ、VW、アウディを率いたフェルディナント・ピエヒとは従兄弟の関係にあたる人物である。 ちなみに、356シリーズ、911シリーズが市場で高く評価された大きな要因として、フェリー・ポルシェが掲げた「スポーツカーはレースに参戦し、そこで優れた成績を残さなければならない」という姿勢が商品開発の根底にあったからだ。これは現在に至るまで、ポルシェ社に一貫した企業理念。スポーツカーレースの最高峰と目されるル・マン24時間を例に挙げれば、ポルシェは356で1951年の大会に初参戦して以来、ワークス/プライベート、純レーシングカー/GTカーの別を問わず、2021年の今年の大会まで連続して出場を重ねてきた実績を持つ。
また、トヨタ2000GTが発売直前に樹立した世界/国際速度記録を、翌年あっさり更新したのも911の車体に906のエンジンを搭載する911Rだった。名実とも世界一の信頼性、高性能が911の基本コンセプトとなってきた。
930はターボモデルが話題に
その911、発売から12年目を迎えた1975年に第2世代の930系へとモデルチェンジを受けた。正確には先にターボモデル(911ターボ=930)が登場し、自然吸気シリーズは3年後の1978年に全面変更となる進化の足取りだった。 ポルシェは、北米のレースシリーズ、CAN-AMシリーズに917で挑戦したターボテクノロジーを量産車技術としてフィードバックに成功。当時のターボチャージャーは、市販車としては類を見ないハイテクメカニズムで、930ターボは圧倒的な動力性能を備えることで、世界の高性能車概念を一新するエポックメイクな車両となっていた。
すでにスポーツカーとして揺るがぬ地位を築いていた911シリーズは、1989年に第3世代の964系へと進化する。興味深いのは、先に4WD方式のカレラ4がリリースされたことだった。当時のポルシェは、パリ~ダカールで先進4WDシステムを持つ959を試験的に投入。959のサーキット仕様となる961にもトライしていた。 このころのエンジンは3.6Lに拡大され、自然吸気エンジンは最終仕様で3.8L(M64型)、ターボエンジン(M64/50型)で3.6Lとなり、ターボの最高出力は360psのレベルに達していた。また、ハンドリング重視の2WD・RRモデルには、スパルタンなRSグレードが用意され、乗り手を選ぶモデルとしてファンの間で話題となっていた。
空冷の最終進化型993と水冷時代を切り拓いた996
そして1993年、長らく続いた空冷エンジン搭載の最終モデルとして第4世代の993系が登場する。よくいえばソフィスティケートされたモデル、辛辣な表現を借りれば扱いやすく誰にでも乗りやすくなったモデル(乗用車的な操縦感覚)と評されたが、絶対性能の引き上げられた完成度の高いモデルだった。 また、スポーツカーレースがGT規定となったことを受け、ホモロゲーションモデルとしてターボモデルにGT2を追加。ロードバージョンで450psを発生する怪物マシンとなっていた。ル・マンなどのスポーツカーレースでは、排気量で勝るダッヂ・バイパー(8L V10エンジン)などを相手に互角以上の戦いを見せていた。
1997年、911は第5世代の996系に進化する際、メカニズム上の大きな特徴となっていたエンジンの冷却方式を水冷にあらためた。M96系とネーミングされたエンジンで、911の弟分として前年新たにリリースされたボクスターシリーズで先行採用したエンジンだった。排出ガス対策に応えるため、燃焼室の温度管理を正確に行う必要があったため空冷から変更したものだった。 エンジンは993時代から排気量を縮小した3.4L仕様となったが、4バルブDOHC方式を採用するなど近代化対策を施した結果、出力/トルク値は逆に向上(285ps/34.7kg-m→300ps/35.7kg-m)。911シリーズは、この996あたりからモデルチェンジを経るごとに、高性能化とは裏腹に扱いやすさを備え、より幅広いユーザー層への対応を可能にする進化を遂げるようになっていた。
第6世代は2004年に登場した997系だ。基本骨格は996系をベースとしたが、996系で指摘された不備な個所に大きく手を入れる変更内容だった。外観上の特徴は丸形ヘッドライトの採用。996系の涙滴型がいまひとつ評判がよくなかったことから、オーソドックスな丸形にあらためられたものだ。また、全体のデザインも好評だった空冷最終モデルの993に回帰した仕上がりを見せていた。
大きな変化は2008年のマイナーチェンジ期に行われ、エンジンは直噴のDFI方式(9A1型)にあらため、トランスミッションにデュアルクラッチ方式のPDKが追加された。モデル前後期で大きく内容の異なる仕様となり、この時代の技術進化が日進月歩だったことを物語っていた。
「軽量・スタビリティ・高回転」世界最高峰の追求やまず
第7世代の991系は2011年に登場。基本的には正常進化にあたるモデルで、車重の軽量化にポイントが置かれた商品企画となっていた。
おもにアルミ合金素材の使用がその中核となり、997型に対して60kg程度の軽量化を可能にしていた。また、ホイールベースが100mm延長され、スタビリティの向上が意図されている。
エンジンは997後期型で投入したDFI方式の9A1型を改良して搭載。ストロークを短縮して3436ccとしたが機関効率の改善、高回転型とすることで出力/トルクは350ps/39.8kg-mに向上。トランスミッションは7速MTと7速PDKの2タイプに整理されていた。
そして現行モデルとなる第8世代の992系が2018年に登場。大きな特徴は、エンジンがレース用のGT3を除き、全車ターボチャージャー付きとなった点だ。当初エンジン排気量は3L(2981cc)のみで385psだったが、2020年にターボ/ターボSを追加。こちらは3.8L(3745cc)となり、ターボSは650psを発生する世界第一級のスーパースポーツとして設定されている。また、自然吸気仕様のGT3/GT3ツーリングも510psと4Lの自然吸気エンジンとしては破格の出力を叩き出すレベルにある。
いつの時代も、世界のトップレベルを目指すスポーツカーとして企画されてきたポルシェ911。時代によってスポーツカーが不遇な時期もあったが、つねに考え得る最新のメカニズムを投入し、世界のトップランナーたることを目指してきたポルシェの姿勢は、60年近い歳月を費やして、911というかたちで今も具現化され続けている。
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