マツダ ボンゴも54年の歴史に幕。国産各社が相次いで商用車の自社開発から撤退する理由とは?
商用車は荷物を運ぶ機能を備えたバンやトラックで、物流に欠かせないツールだ。
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2020年1~8月に国内で登録された小型/普通車のうち、約14%を商用車が占めた。軽自動車については22%が商用車であった。
この商用車に関して、近年では変化が見られる。自社開発/生産を終了して、OEM車を導入するケースが増えたからだ。
なぜ各メーカーは商用車の自社開発をやめ、他社から供給を受けるケースが相次いでるのか? その背景には新車販売を取り巻く環境の変化がある。
文:渡辺陽一郎/写真:マツダ、三菱自動車、ダイハツ
【画像ギャラリー】相次ぐ商用車自社開発からの撤退! とうとうOEMとなるボンゴをはじめとする各社商用車たち
■なぜマツダはボンゴの自社開発を断念したのか
マツダがとうとうボンゴバン&トラックの自社開発・生産を終えた。今後はトヨタ タウンエースバン&トラックと基本的に同じクルマがボンゴバン&トラックとして販売される
直近では2020年7月に、マツダがボンゴバン&トラックの自社開発/生産を終えた。その代わりに、業務提携を結ぶトヨタの完全子会社になるダイハツから、OEM車を導入。トヨタ タウンエースバン&トラックと基本的に同じクルマが、ボンゴバン&トラックに切り替わった。
サイズの大きなボンゴブローニイバンは、2010年に生産を終えたが、2019年にトヨタハイエースのOEM車として復活した。このあたりの事情について、マツダの販売店に尋ねると以下のような返答であった。
「以前はボンゴの販売にも力を入れていた。しかし最近は、SKYACTIV技術と魂動デザインによる乗用車のイメージが強まり、商用車の売れ行きは下がっていた。そこでマツダによる開発と生産は終了して、OEM車に変更した。これは自然な成り行きだろう」
マツダの商用車の売れ行き(OEM車を含む)は、2000年には小型/普通車が5万1060台、軽自動車は1万165台で、1年間に合計6万1225台が販売されていた。このうち、ボンゴ+ボンゴブローニイは2万3586台を占めている。月平均で2000台近くが登録され、輸出もしていたから、手堅い商品であった。
ところが2019年におけるマツダの商用車販売台数は、小型/普通車と軽自動車を合計して2万1947台に留まる。2000年の36%程度に減った。
このうちの7661台が軽自動車だ。このようにマツダでは商用車の売れ行きが下がり、自社開発/生産が成り立たなくなってOEM車に切り替えた。
■スバルや三菱も「選択と集中」で商用車開発を縮小
各社が自社で手掛ける商用車は三菱の電気自動車であるミニキャブミーブなど、ごくわずかとなった
今は各メーカーともに、電気自動車などを含めた環境技術、安全装備や運転支援技術の開発を迫られ、いわゆる選択と集中に乗り出している。
その結果、スバルも今は商用車を自社では開発/生産していない。三菱が自社で手掛ける商用車は電気自動車のミニキャブミーブのみだ。
ホンダはアクティトラックの生産を2021年6月に終了するから、自社で開発と生産を行う商用車はN-VANのみになる。
もともと商用車は薄利多売の商品で、生産台数が下がると成り立たない。特に軽商用車は、1台当たりの粗利が極端に少ないため、独自の開発を難しくしている。そのためにマツダ/スバル/三菱は、かつて軽商用車を自社で開発/生産していたが、今は撤退した。
■自社開発をやめても商用車を完全にやめられない訳
マツダがOEMを導入せずにボンゴを絶版にするとボンゴユーザーは他社ディーラーへと流れ、営業車として使っているマツダ2などまでが他社の車種に乗り換えられかねない
ただし、小型/普通車を含めて、商用車の取り扱いをやめるわけにはいかない。クルマの販売では、車検/点検/保険など、アフターサービスで得られる利益も多いからだ。商用車の取り扱いを終えると、これらの利益まで逃してしまう。
また、商用車では、ひとつの法人が複数の車両を使うことも多いので、大口の取引先も失うことになる。
そして仮にマツダがボンゴを完全に終了すると、その顧客は、タウンエースやNV200バネットを購入する。必然的にトヨタや日産の販売店と新たな繋がりを持つ。トヨタや日産のセールス活動が活発なら、顧客が営業用に使っているマツダ2まで、ヤリスやノートに乗り替えられる不安が生じる。
従ってメーカーの都合で商用車の開発や生産から撤退するとしても、自社の顧客は、従来通り囲い込んでおきたい。なるべく他社の販売店とは接触してほしくない。そこでOEM車を導入する。
見方を変えると、商用車を廃止してOEM車で穴埋めしないのは、メーカーの販売会社に対する不親切ともいえるだろう。
■軽商用はスズキ/ダイハツが計5社に供給!
ダイハツ ハイゼットやスズキ エブリィなど、OEMとして供給される軽商用車は隠れたベストセラーだ
商用車のOEM関係が最も綿密に構築されているのは軽商用車だ。スズキ エブリイは、日産NV100クリッパー/マツダスクラムバン/三菱ミニキャブバンとして3社に供給されている。スズキも含めると、乗用車メーカー8社の内、4社が同じクルマを扱う。
ダイハツ ハイゼットは、スバル サンバーバン&トラック/トヨタ ピクシスバン&トラックとして供給され、ダイハツを含めて3社が扱う。
残りはホンダのみだ。今までのホンダは、1990年代のSUVを除くと、他社とほとんどOEM関係を結ばずに軽商用車も自社で開発/生産してきた。それでも最近は状況が厳しく、軽商用バンはN-BOXをベースにしたN-VANに切り替えた。
問題はアクティトラックで、バンに比べると使われ方が過酷だから、モノコックボディによる前輪駆動のN-BOXをベースに開発することはできない。そこで2021年に終了する。
販売店では「アクティトラックは設計も古く(発売は2009年)、安全装備もシンプルだからお客様も減った。軽商用車の売れ筋はN-BOXに移っている」という。確かにアクティトラックの2020年1~7月の届け出台数は、月平均で1355台だ。
N-VANの2732台に比べると約半数だが、乗り替え需要が確実に発生する軽商用車で、1か月当たり1000台売れれば手堅い商品だろう。単純に手放すのは惜しい。
OEMは、ほかのメーカーに商品を供給する方法だから、自社開発/生産の車両を他社のOEMに切り替えると、ユーザーの実質的な選択肢は減ってしまう。
自社開発/生産はなるべく守ってほしいが、やむを得ず終了する場合、OEM車を導入すればユーザーの乗り替えはスムーズだ。新たな車種と販売店を探す面倒を避けられる。
■集約進む商用車界ながら「新顔」も登場
ダイハツ グランマックスはタウンエースやボンゴの姉妹車だが、製造はインドネシアのアストラ・ダイハツ・モーター社が行う。つまりトヨタとマツダがダイハツから供給を受ける関係にある
以上のようにOEMが進む商用車の世界は消極的な印象も受けるが、ダイハツでは、2020年6月からグランマックスの取り扱いを開始した。タウンエースやボンゴの姉妹車だが、この2車種を含めて、製造はインドネシアのアストラ・ダイハツ・モーター社が行っている。
つまり「本家」はダイハツで、トヨタとマツダが供給を受ける関係にあるわけだ。ダイハツはトヨタにタウンエースを供給しながら、日本では自社ブランドの販売を行っていなかったが、6月から開始することになった。
グランマックスを国内に導入した理由をダイハツに尋ねると、以下のように返答された。
「ダイハツの商用車ではハイゼットが主力だが、サイズアップを希望するお客様もいる。そこで新たにグランマックスを導入した。ただしトヨタブランドのタウンエースも用意されているので、グランマックスの月販目標は100台に抑えた」
タウンエースの月販目標は1000台(バン:700台/トラック:300台)だから、グランマックスは10%と少ない。
タウンエース/ボンゴ/グランマックスがインドネシア製になるのも、前述の選択と集中に基づく。ただしトヨタの販売店では「タウンエースはインドネシア製だから、納期が安定しない」という声も聞かれた。
商用車の場合、顧客の経営状態が好転した時など、需要の急増によって短期間での納車を求められることも多い。納期が長引くと商品、販売店、メーカーの信頼性を下げてしまうので、今後3つのメーカーが扱うとすれば納期短縮も大切な課題になる。
今の商用車は、このようにOEMをベースにして成り立ち、その背景には乗用車とは異なる切実な事情があるわけだ。
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