BMWのM社がサーキット走行を想定して開発したハイパフォーマンスSUVが「X4 Mコンペティション」だ。510psの3L直6ツインターボの強心臓を持つモンスターは、サーキットでまさにスポーツカーを追い回せる実力の持ち主である。(Motor Magazine 2019年12月号より)
強心臓の持ち主ながら、乗り味はいたって滑らか
ライバルに対する独自性を強調したいという理由からか、あえて「SAV(Sport Activity Vehicle)」もしくは「SAC(Sport Activity coupe)」なる独自の造語を用いて紹介される、BMWが手掛けたSUVカテゴリーのモデルたち。
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「X」の記号から始まる名称が与えられたそのラインナップの中にあって、最も新しくかつ最もホットな内容の持ち主が、19年の春に開催された上海モーターショーでワールドプレミアが行われた「X3 M」と「X4 M」という2つのモデルだ。
よりオーセンティックなSUVデザインで仕上げられたX3 M、片やよりスタイリッシュな4ドアクーペの風味を採り入れたX3 M。なるほどそのいで立ちは異なるものの、ボディ骨格やシャシ/パワートレーンなど、ハードウエアは共通の内容。今回ここに紹介するのは、いち早く日本への上陸が実現した、「トロントレッド」なる名称が与えられた目にも鮮やかな赤色のボディカラーをまとうX4 Mだ。
ちなみにそんなX3 M/X4 Mには、排気系の専用チューニングやターボブーストのアップ、各種ソフトウエアのチューニングなどによって最高出力が上乗せされたエンジンを搭載した上で、グロスブラック化されたグリルやドアミラーケース、ヘッドレストにイルミネーション付きのエンブレムを採用した「Mマルチファンクションシート」など、専用のメイクアップが施された『Competition(コンペティション)』のサブネームが加えられたバージョンも存在。
今回のテスト車はそんなハイパフォーマンス仕様に、通常250km/hで作動するスピードリミッターを解除可能な「Mドライバーズパッケージ」がオプション採用されたモデルだった。
そもそもの特徴であるスタイリッシュなプロポーションに、前述の派手なボディカラーとグロス仕上げの黒い「Mデザインエレメンツ」の組み合わせが放つ強烈なコントラスト。さらに、足元にはフロント255/リア265というファットな21インチのタイヤを履くとなれば、そうしたルックスの持ち主の乗り味が、それなりに硬派でチョッピーなものであろうことは誰もが予想をするはず。
ところが、そんな覚悟のもとにスタートを切ってみれば、まずはそのフットワークのテイストが、「望外」と表現できるほどに滑らかであることに思わず拍子抜けさせられる。さすがに路面によっては少々強い揺すられ感を抱かされることもあった反面、路面によっては「しなやか」という言葉を使いたくなるほどの滑らかさに感心させられる場面も存在したのだ。
そんな印象を生み出している一因には、ボディ振動を瞬時に減衰させてしまう、高い剛性感もあると思える。実際、このモデルのボディはエンジンルーム内のストラットタワーまわりを中心に、ブレースを用いての専用補強策が講じられている。走り始めてすぐに、「ベースのX4に比べると何だかボディがガッシリとしているな」と感じられたのは、決して錯覚ではなかったわけだ。
完全新設計となる3L直のツインターボは510ps
かくして、まずはそんなフットワークのテイストに感心させられたX4M。しかし、このモデルの走りの神髄は、実は目覚めの瞬間に思いのほか大きな雄叫びをあげることでひと際強くその存在感を主張する完全新開発のエンジンが生み出す動力性能にこそある。
ベースモデルで480psの最高出力と600Nmの最大トルク。そして前述のように30psが上乗せされるコンペティションでは、その最高出力が510psに達するエンジンは、そのブロックはもとより、シリンダーヘッドからオイルパンに至るまでがサーキット走行をこなすパフォーマンスを最優先に考えられた、完全新設計と謳われるユニットだ。
直列6気筒でツインターボ付き3Lと言われれば、当然「これまでM3やM4に搭載されて来たアイテムが移植されたのではないか」と連想したくなる。しかし、逆に次期M3やM4への搭載が予想される新世代のMの直6ユニットは、SBA型と名付けられたX3M/X4 Mへの搭載で陽の目を見たこのエンジンということになるわけだ。
そんな新しい心臓が生み出す動力性能は、その強力さでも「これぞ直6!」と快哉を叫びたくなる爽快フィーリングで、まさに文句の付けようがない仕上がりだ。
街乗りシーンで多用する低回転を中心とした領域でも、十分なトルク感とアクセルペダル操作に素直な応答性が得られる点がまずは好印象。1Lあたりの出力が170psに達するハイチューンエンジンでありながらも、神経質さは微塵も感じられない。
一方で、高回転域に向けての優れたパワーの伸び感は、「さすがはスポーツ心臓」とため息が出そうになる素晴らしさ。直6デザインならではの澄んだサウンドが
、そんな印象にさらに拍車を掛けてくれることになる。
いずれにしても、ターボ付きエンジンならではのパンチ力と、自然吸気エンジンの特徴であるリニアリティの高さの「良いとこ取り」をしたかのような特性を兼ね備えるのがこの新エンジン。もちろん、「サーキットでの連続走行にも配慮をした潤滑/冷却性能を備える」と謳われるのも、いかにもBMWのモータースポーツ部門たるM社の作品らしいポイントだ。
動力性能もフットワークも本格スポーツモデルに匹敵
ところで「従来型比でマイナス11kg」と、軽量であることもその特徴とされる新しい心臓はどうやら、スタイリッシュな装いにふさわしい鮮やかなハンドリング感覚に磨きを掛ける一因にもなっている。
なんとなれば、車両重量は2トン超と決して「軽い」とは言えない一方で、そうした重さはフロントアクスルに1020kg、リアアクスルに1010kgと、このブランドがかねてから理想と掲げて来た「50対50」の前後重量バランスに振り分けられているからだ。
実際、このモデルでのワインディング路での走りの感覚は、そうしたディメンジョンのお陰もあってか、すこぶる正確でニュートラル感覚の高いもの。さらに、後輪側にエンジントルク伝達のバイアスが掛けられた4WDシステムの採用ゆえか
、タイトなターンでは脱出に向けての積極的なアクセルオンによって、FRレイアウトの持ち主のようなテールアウト風の姿勢すらとろうとする。
さらにコーナーを攻め込んで行けば、実はターンイン時点からのドリフト状態を維持して行くこともさほど難しくないというのは、実は先にアメリカで開催された国際試乗会での、サーキット走行での体験から言えること。
そう、このモデルの走りの実力は、動力性能においてもフットワークのテイストにおいても、もはや「ピュアスポーツカー」と呼ぶに相応しい仕上がりにほかならない。
BMWが、精魂込めて開発した新エンジンを、あえてこうしたパッケージングの持ち主に与えたことは、いかにも「今」という時代を象徴すると思える出来事。パワーユニットの電動化はこの先もはや不可避と言える状況の中にあって、何とも貴重で珠玉の心臓を搭載する、キラリと光る存在であることは間違いなしだ。(文:河村康彦)
■BMW X4 Mコンペティション 主要諸元
●全長×全幅×全高=4760×1925×1620mm
●ホイールベース=2865mm
●車両重量=2030kg
●エンジン= 直6DOHCツインターボ
●排気量=2992cc
●最高出力=510ps/6250rpm
●最大トルク=600Nm/2600-5950rpm
●駆動方式=4WD
●トランスミッション=8速AT
●車両価格(税込)=1425万円
[ アルバム : BMW X4 Mコンペティション はオリジナルサイトでご覧ください ]
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