クルマには様々な場所にプレスラインが入れられている。特に最近のクルマはプレスラインを複数入れて複雑な面構成をアピールするデザイン処理することが当たり前になってきている。
しかし、普段あまり目にすることもなく意識しないルーフにプレスラインが入っているクルマとないクルマがあるのをご存じだろうか。
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このラインはデザインなのか、何か特別な機能が与えられているのかのか? 永田恵一氏が解説していく。
文:永田恵一/写真:TOYOTA、NISSAN、SUZUKI、DAIHATSU、ベストカーWeb編集部
ルーフのラインがあるクルマとないクルマの差は?
ルーフにプレスラインが入っているクルマは、ミニバン、SUV、ステーションワゴン、ハイトワゴン、コンパクトカー、軽自動車、商用車だ。とはいえ、全車ではなく上記カテゴリーでもコンパクトカーなどでは入っていないクルマ多数ある。
いっぽうクーペ、セダンでほぼゼロ。
商用車系バンはルーフの前面に数多くのプレスラインが入っているケースが多い。ルーフの面積が巨大で、強度確保のためには必須となる
この差はいったいどこにあるのか?
関係してくるのがルーフの面積だ。ミニバン、SUV、ステーションワゴンといったカテゴリーのクルマはルーフ面積が広い。ルーフはいざ転倒した場合でも乗員の安全を確保しなければいけない。
ルーフパネルはクルマのパネル類の中では最大級の面積を誇り、しかも1枚のパネルゆえ、面積が広いと強度や剛性の確保が難しい。
では、強度の高いパネルを使用する、という対処法が考えられるが、まずコストが上がる。そしてパネルが厚くなると重量が増し、ルーフというクルマで最も高い位置のパネルが重いと走行中に不安定になりやすく安全性を確保しづらくなるという問題が出てくる。
軽トラはルーフ面積は狭いが、コストダウンが必須のため外販パネルが薄く強度不足になりがち。それをプレスラインを入れることで解決している
スポーツカーや高額車の一部で軽量化のためにルーフにカーボン素材を使うことがあるが、量販車ではここまでコストや手間はかけられない。
広い面積で重量を増やさず強度を増す方法として採用されているのがルーフのプレスラインというわけなのだ。軽トラはルーフ面積はクーペやセダンよりも狭いが、コストダウンと軽量化のために薄いパネルを使っているため、プレスラインが必要なのだ。
逆に言えば、クーペやセダンはルーフのプレスラインがなくても充分な剛性を確保できているといえる。
かなりおしゃれなデザインのプレスライン。ルーフレールとプレスラインが見事にデザインされている。同じメーカーでも車種によってプレスラインの形状や数はまったく違う(写真はメルセデスベンツGLK)
音、振動の問題解消にもひと役買っている
ルーフのプレスラインにはもうひとつ重要な意味がある。
面積が広いことによる弊害は、音、振動という点でもシビアに影響する。前述のとおりルーフは基本的に1枚のパネルで広大な面積をカバーしている。
強度が不足するということはねじれやすかったり、ベコベコと波打ったりしやすい。実はこのねじれや波打ったりすることがクルマのルーフ部分からの振動や音の要因となる。
小さい面積のクーペやセダンでは問題ないレベルの入力でも広い面積のミニバンやSUVでは非常にシビアなものとなる。プレスラインを入れることによりねじりや振動に対する強度や剛性が格段に上がり振動や音を出しにくくなる。
プレスラインを入れることで表面積は増えるが、ラインでパネルが分割されることで強度の確保が可能になる。ルーフは軽さが命のためこれが最良の手法だ (写真は三菱デリカD:5)
形状や数はクルマによって違う
普段はあまり気にしないルーフだが、ルーフにプレスラインが入っているクルマに乗っている人は、洗車の時にフラットだったら楽なのになぁ、と不満に思っている人も多いかもしれない。しかし上記のような明確な理由があり、必須なわけだから、洗車時の洗い残しがないようにしたいものだ。
ミニバンはただでさえルーフが高く洗いづらいのにプレスラインがあるとその困難はさらに増す。汚れがたまりやすいのでマメにチェックしておきたい(写真は日産セレナ)
そのルーフのプレスラインだが、形状や数は千差万別、車種によって違う。
形状でいえば1枚のパネルをつまんでライン状にしたタイプ。このタイプは一般的にリブと呼ばれていて強度の補強には効果抜群。
これが1枚のパネルをつまんだような形でリブを作ったタイプ。このタイプを採用しているのは商用バンなどに多い。大面積を強化するには最適(写真はマツダボンゴ)
現代のクルマで最も多くメジャーなのがプレスにより凹部分を作っているタイプだ。ただし、凹部分の深さ、広さ、本数などはクルマによって違う。
ハイエースを筆頭とする商用バンの場合、フロントからリアにかけて全面に多くのラインを入れているケースが目立つ。いっぽうミニバンの場合2列目から後ろにプレスラインを配置するパターンが目立つ。
コンパクトカー、軽自動車では両サイドのみのものもあるし、中央のみ広めの凹部分を配置しているクルマもあり、普段は気づかないがいい意味で個性にもなっている。
プレスラインは単純な形状だけでなくデザインされたものも登場している。特にSUV系はいろいろなタイプが存在していて改めてみると楽しい(写真は三菱エクリプス)
ルーフラインをデザインとして活用
ルーフにプレスラインを入れなければいけないなら、それをトータルデザインとしてとらえてあえて大きめの凹凸を作っているクルマもある。
昔でいうクロカンなどはこのタイプで、武骨さがデザインの魅力にもなるため積極的に派手目のプレスラインが使われてきた。
今のクルマでルーフラインをデザインとしてうまく活用しているのはスズキだろう。ハスラー、ジムニーはルーフのプレスラインもSUVのデザインの一部として存在感をアピールすることに成功している。
ハスラーはルーフのプレスラインをデザインに見事に融合させている。平面であることよりもプレスラインが入っていることでキュートなキャラが強調される
それに対し、新型GRスープラやかつてのRX-8などルーフにコブのあるダブルバブルルーフを採用しているクルマもあるが、これは強度、振動、音に関係なくデザインだ。
このダブルバブルルーフは、カロッツェリアのザガートが自社のアイデンティティとして古くから採用していて、現代ではデザインと空力特性などから採用するクルマも出てきている。
新型のGRスープラはダブルバブルタイプのルーフを採用。これは強度を確保したいのではなく、デザインとエアロダイナミクスを追求した結果のものだ
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