ボディサイズへ不釣り合いな5.5L V8エンジン
メルセデス・ベンツSLK 55 AMGほど、ボディサイズへ不釣り合いなエンジンを積んだモデルは珍しいだろう。全長4145mmの小柄なロードスターだが、R172型の3代目には、歴代最大の5.5L V8エンジンを搭載した仕様が存在した。
【画像】小さなボディへ押し込んだ5.5L V8 メルセデス・ベンツSLK 55 AMG 最新SLとCLEも 全109枚
このSLK 55 AMGは、単にパワフルなだけではなかった。2011年の発表当時、V8エンジン・モデルとしては最も燃費効率に優れる量産車でもあった。
これは重すぎない車重に加えて、高圧のインジェクションシステムと、知的な気筒休止システム、アイドリングストップ機能などを搭載していた結果。そのため、CO2の排出量は195g/km、カタログ燃費は11.9km/Lがうたわれた。
ランニングコストに優れるとなれば、週末限定の大人のおもちゃとして温存する必要はないはず。そもそも3代目SLKは、先代以上に普段使いしやすい設計が与えられている。
もちろん、右足を思い切り倒せば、422psの最高出力と54.9kg-mの最大トルクを簡単に引き出せる。0-100km/h加速4.6秒と瞬発力も充分で、最新のメルセデスAMG A 35を上回るダッシュ力を披露する。
AMGのV8エンジンならではといえる、エグゾーストノートも魅力。7200rpmのレッドラインまで、積極的に回したくなる。最大の興奮を味わいたいなら、リトラクタブル・ハードトップは開いた方が良い。ちなみに、その時の燃費は気にしない方が良い。
グランドツアラーとしての能力も高い
ルーフを閉じれば、SLK 55 AMGの小粒なグランドツアラーとしての能力が光る。乗り心地は充分にしなやかで、長距離の運転も苦にならないだろう。
操縦性は、シャープとはいいにくい。車重が1610kgと軽量とはいえず、身のこなしへの影響は隠せない。活発な走りを楽しみたいなら、同時期のポルシェ・ボクスターを選んだ方が賢明かもしれない。とはいえ、力技を決める大パワーには抗し難い訴求力がある。
カーブの連続する道では、極めてスリリング。ライン調整を繊細に味わうのではなく、落ち着いて侵入し、豪快な加速力を楽しむのが向いている。トランスミッションは、トルクコンバーター式の7速オートマティックのみだ。
速度を受け止めるブレーキも強力。ただし、リミテッドスリップ・デフが実装されるのは、オプションのハンドリング・パッケージを追加した時のみ。422psを考えれば、欲しい装備といえる。
そんなSLK 55 AMGを、今の英国では3万ポンド(約555万円)以下で探せる。新車価格が高騰し、V8エンジンが希少になってきた今、一層魅力的に感じるのは筆者だけだろうか。小さなボディに大きなエンジン。悪くない投資に思えてしまう。
新車時代のAUTOCARの評価は
現実的な燃費は、9.0km/Lを超えることはない。それでも、オープンエアと圧倒的なパフォーマンスという組み合わせがお好きなら、思い切ってSLK 55 AMGを選んでも後悔はしないだろう。
メルセデス・ベンツのAMGは、その魅力へドライバーが気付くまで、少し時間がかかる場合が多い。このSLK 55 AMGも同じ。じっくり時間をかけて味わえば、満足度の極めて高い体験を得られるだろう。(2011年11月16日)
専門家の意見を聞いてみる
アダム・フランクス氏:プロジェクトAMG社
「小さなクルマに大きなエンジンが載っているなんて、最高にカッコいいと思いませんか。気筒休止システムは、当時の最先端技術でした。エンジンとトランスミッションの信頼性は、かなり高いようです。残念な話は殆ど耳にしません」
「最近の不具合で多いのが、リアアクスルとブレーキラインのサビですね。エンジンの振動が大きくないか、アイドリング時にボンネットを開けて観察してみてください。激しい運転が続くとエンジンマウントがヘタり、振動が大きくなりがちです」
「それでも、エンジン内部に問題が出ることは稀です。相当に駆り立てても、問題ないはずですよ」
購入時に気をつけたいポイント
ボディ
リトラクタブル・ハードトップの荷室を仕切るパネルは、開閉時にロックする必要がある。だが、ラッチが正常に噛み合わず固定が緩く、ルーフが途中で動かなくなる場合がある。予め、正常に開閉できるか確かめたい。修理費用は安くない。
ボディが低いため、飛び石傷は珍しくない。塗装面の状態を、丁寧に観察したい。アルミホイールのガリキズも同様。ホイールが歪んだり、サスペンションのダメージへ繋がる可能性もある。
高出力のFRモデルなだけに、リアタイヤにはかなりの負担がかかる。SLK 55 AMGのサイズでは、プレミアム・ブランドのタイヤは高価。残り溝と同時に、履いている銘柄も確かめたい。
電気系統
バッテリーあがりでジャンプスタートさせると、エアコンの電源が入らなくなるなど、電気的な不具合を生じることがある。原因はヒューズの場合が多いものの、念のためコンピューター診断を受け、エラー状態は確かめた方がベター。
インテリア
リトラクタブル・ハードトップの隙間から、雨水が荷室へ流れる場合がある。荷室が乾燥していて、不自然なシミがないことを確かめたい。
エアスカーフと呼ばれる、シートから首元へ温風を吹き出す機能は、稀に故障する。この動作も要確認。
サスペンションとブレーキ
ドライブシャフトやブレーキラインに腐食がないか、観察したい。経年劣化に合わせて、問題は大きくなっていく。酷くサビている場合は、購入を見送った方が良いだろう。といっても、交換部品はさほど高くない。
知っておくべきこと
メルセデス・ベンツSLK 55 AMGは、2016年の大フェイスリフトでメルセデスAMG SLC 43へバトンタッチした。エンジンは5.5L V8自然吸気から、3.0L V6ターボへ置き換わっている。
最高出力はダウンし、サウンドの迫力も薄まった。多くの人が、グレードダウンしたと感じたようだ。
英国ではいくら払うべき?
2万ポンド(約370万円)~2万4999ポンド(約462万円)
初期型のSLK 55 AMGが、英国では売られている価格帯。走行距離は8万km前後と、さほど長くない。
2万5000ポンド(約463万円)~2万9999ポンド(約554万円)
走行距離が5万km以下へ短くなる。後期型も含まれるようになる。
3万ポンド(約555万円)以上
ショールーム・コンディションの後期型SLK 55 AMGを、英国では狙える価格帯。走行距離は3万km前後と、非常に短い例も多い。
英国で掘り出し物を発見
メルセデス・ベンツSLK 55 AMG 登録:2013年 走行距離:4万1800km 価格:2万8480ポンド(約527万円)
走行距離が短く、望ましいコーディネートの1台。シルバーのボディに、レッドのレザー・インテリア、AMGの10スポークホイールが組み合わされている。正規ディーラーでの整備記録も残る。独立系の、メルセデス専門ショップからの出品という点も良い。
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