■台湾・フォックスコンがステランティスと連携
ステランティスとフォックスコンがオンライン記者会見を開くとの情報で、自動車産業界が「アップルカーの発表か?」とざわつきました。
ステランティスとは、フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)と、プジョー・シトロエン(PSA)が2020年末に合併して誕生した自動車メーカーです。
販売台数ではトヨタグループ、フォルクスワーゲングループ、ルノー日産三菱に次ぐ世界第4位ですが、ジープやラム、アバルトなど個性が強いブランドが多いのが特徴です。
一方、フォックスコン(鴻海科技集団)は台湾のIT系企業で、欧米の有名ブランド製品のOEM(相手先ブランド製造)をおこなう企業です。
なかでも有名なのが、アップルの「iPhone(アイフォン)」の製造です。また、2016年に日本のシャープを買収したことで、フォックスコンの名前が記憶に残っている人もいるのではないでしょうか。
フォックスコンが大手自動車メーカーと新たな連携をおこなうと聞けば、アップルが市場導入を目指して研究開発中の自動運転EV「アップルカー」の陰がちらつくのは当然のことだと思います。
こうした憶測が飛び交うなか、2021年5月18日に発表された内容は、ステランティスとフォックスコンが「Mobile Drive(モバイルドライブ)」という合弁企業をオランダで設立し、ソフトウエアファーストなクルマの開発やクルマに関わるサービスの提供をおこなうというものでした。
公開された画像や動画では、車内に複数の大型ディスプレイがあり、いわゆるコネクテッドカーとしてさまざまな通信機能とサービスを実現するとの説明がありました。
正直なところ、インテリアデザインの観点では、これまでほかで見たことのないような斬新さはとくになく、両社幹部の説明や欧米の記者との質疑応答でも驚くような発言はありませんでした。
両社が一貫して主張したことは、「自動車のユーザーの生活実情に合わせた最適なサービスを第一に考える」という点です。ハードウエアやソフトウエアの研究開発は、そうした出口戦略に向けた手段に過ぎない、という考え方です。
この発想は、iPhoneに代表されるスマートフォンの世界的な大成功を実現したフォックスコンの実績と知見に直結すると思います。
■ついにアップルカーが実現するのか?
今回の発表で明かになったのは、「モバイルドライブ」が開発するシステムやサービスはステランティス向けのみならず、ほかの自動車メーカーや自動車部品メーカーに対しても販売するという点です。
つまり、技術力と商品力によって、事実上の標準化となるデファクトスタンダードを狙うというのです。
また、記者からApple CarPlayとのAndroid Autoとの関係について質問が出たところ、「コラボすることも視野に」という前向きな答えではなく、「既存市場に対して邪魔はしない」という意味合いの回答があったところが大いに気になりました。
スマートフォンと車載機の連携機能であるApple CarPlayとAndroid Autoは、それぞれアップルとグーグルが独自に開発したシステムを自動車メーカー側が受け入れる形で2010年代半ばに始まりました。
サービスが始まった当初は、いわゆるインフォテインメントの領域を皮切りに、アップルとグーグルがクルマの心臓部である動力系の制御分野にも参入し、最終的には自社ブランドの量産車を手掛けるのではないかという憶測が自動車産業界に広がりました。
実際にアップルとグーグルは、電気自動車(EV)や自動運転技術に関して、それぞれ自社内に研究チームや研究開発企業を立ち上げ、世界各地でさまざまな実証試験を始めました。
そうしたなか、2020年末から2021年頭にかけて、韓国のヒュンダイグループがアップルカーの委託生産を受注したという報道が世界を駆け巡ったのですが、一時は報道内容を認めていたヒュンダイが一転して報道内容についてノーコメントとなり、この話はご破算になったのではないかと囁かれるようになりました。
それ以来、アップルカー関連の噂はすっかり聞かなくなっています。
今回のステランティスとフォックスコンとの記者会見を視聴して感じたのは、アップルがいうアップルカーとは、単なるクルマというハードウエアではなく、クルマのユーザーの生活に直結するサービスからの収益を得る仕組みを構築するエコシステム全体を指すのかもしれないということです。
むろん、今回の発表ではアップルカーについては触れていません。
ただし、アップルの基軸事業であるiPhoneの製造を手掛けるフォックスコンが自動車産業に本格参入することに変わりはなく、ここでの実績は確実にフォックスコンとアップルとの関係に影響を及ぼすだろうということです。
今後も「モバイルドライブ」の動向を注視していきたいと思います。
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