先代までの1.6ℓNAエンジンに代わり、歴代初めてターボエンジンを手に入れたスイフトスポーツ。大幅に力強さを増したパワーユニットに、先代比-70kgで1t切りを果たした軽量ボディを組み合わせたその走りは、かつて経験したことのない刺激に満ちたものだった。REPORT●石井昌道(ISHI Masamichi)PHOTO●平野 陽(HIRANO Akio)/神村 聖(KAMIMURA Satoshi)※本稿は2017年9月発売の「新型スイフトスポーツのすべて」に掲載されたものを転載したものです。車両の仕様や道路の状況など、現在とは異なっている場合がありますのでご了承ください。
ターボ化されるとともに3ナンバーボディを得る
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1980~1990年代は日本の自動車メーカーのほとんどがベーシックなハッチバックのスポーティモデル、いわゆるホットハッチをラインナップし、財布は軽いがクルマに熱い思いを抱いていた若者から大きな支持を得ていた。その熱が2000年代に入ると急激に冷めていったことは、若者のクルマ離れの象徴的な出来事だったように思う。
そんな中、03年にデビューしたスイフトスポーツは日本のホットハッチファンの希望の星となった。当初は軽自動車の延長線上のモデルだったためパフォーマンスに限界はあったが、ハイチューンなエンジンが官能的で刺激は濃厚。他の日本メーカーのホットハッチが元気をなくしていたのを尻目に、ファンの心を鷲づかみにしたのだ。
同モデルは欧州ではイグニスとして発売されていたが、04年に世界戦略車のコンパクトカーとしてスイフトが正式デビュー。05年にはそれを受けての「初代」スイフトスポーツが登場することになるが、ベースモデルが大幅にポテンシャルアップしたことに比例して一気にパフォーマンスを向上。走りへの要求度が高い欧州のマーケットで通用するよう開発されただけあって乗り味も欧州車的になり、VWのポロGTIなど実力派をライバルと見立てても遜色ない走りを披露した。
11年登場の二代目は正常進化。ますます冷え込む日本のホットハッチ市場で孤軍奮闘していたが、その熱さの要因はスズキのスポーティカーではフラッグシップであるという背景があったからだろう。
昨年デビューした三代目スイフトはハーテクトによって大幅な軽量化を果たしたプラットフォームを採用。走りの本質の部分でのしっかり感に磨きが掛かるとともに、乗り味に上質ささえ窺えるようになった。
今度のスイフトスポーツも、そういったベースのポテンシャルアップに比例して優等生のクルマになりそうだと想像していたのだが、それはいい意味で外れた。
新型スイフトスポーツはエンジンをターボ化してパフォーマンスを桁違いに上げてきたからだ。それも今のトレンドであるダウンサイジングターボという枠にはとどまらない。
従来の1.6ℓNAは最高出力136㎰/6900rpm、最大トルク16.3kgm/4400rpmだったのに対して、新型は1.4ℓ直噴ターボで140㎰/5500rpm、23.4kgm/2500-3500rpm。燃費性能は6速MTで11%、6速AT(従来はCVT)で4%向上しているが、0-100km/h加速は6速MTで20%、6速ATで25%向上。確かに燃費改善も果たしているが、動力性能の伸びはそれ以上。
時代の趨勢に合わせてダウンサイジングしたというよりもパフォーマンス志向と捉えてもおかしくはない。
全幅が1735mmに達し、初の3ナンバーとなったボディは、低全高化も合わせてワイド&ロー感が強調されている。コックピットへ滑り込んでみると、ホットハッチとしてはヒップポイントが低めでスポーティなドライビングポジションがとりやすい。
このテのモデルでは、バケットタイプのシートを採用したらスタンダードモデルよりもヒップポイントが上がってしまい、なんだかな……と思うこともあるが、スイフトスポーツはそんな愚は犯していない。ヘッドクリアランスにも適度な余裕があるとともに視界も良好で、街でもワインディングロードでも運転しやすそうだと直感する。
NA並みの好レスポンスと湧き上がるトルクに感嘆
まず注目すべきはエンジン。通常、初試乗の時はゆっくりとしたペースから始め、徐々にアクセルの踏み込みを大きくしていくのが常だが、この日ははやる心を抑えきれなくて、6速MTモデルでいきなり全開加速を試してしまった。
1速にエンゲージしてエンジン回転を4000rpm程度まで高めてクラッチミートすると、わずかなホイールスピンとともに弾けるように猛然とダッシュ。レブリミットは6300rpm。1速はあっという間に吹けきり2速へシフトアップすると4000rpm弱まで落ち込む。続く3速、4速へのシフトアップ時は4600rpmほどでつながっていく。
低回転域から大トルクを発揮する1.4ℓ直噴ターボの全開加速は常に全力を出し切っていて文字通りにフラットトルク。それでいて5000rpmを超えても頭打ちになるようなことはなく、レブリミットまでキッチリとパワーがついてくる。NAの、尻上がり的にパワーが盛り上がっていく感覚も楽しいが、シフトアップで回転が落ち込んでもモリモリとしたトルクでボディを押し出していく直噴ターボには、圧倒的なパフォーマンスと頼もしさがある。NAと直噴ターボでは楽しさの種類が少し違うようだ。
街中や郊外路、高速道路などを想定した走りも試したが、エンジンは1000rpm台でもトルクフルで走りやすい。シフトダウンの必要性に迫られることが少なく、高いギヤのままでもスイスイと走れてしまう。またターボラグの少なさも特筆モノ。
レスポンスがNAエンジンと変わらぬぐらいにいいのだ。低回転、低負荷時など通常時はウェイストゲートバルブを閉じてタービンの回転数を維持してレスポンスを向上させ、高負荷時にウェイストゲートバルブを開いて過給圧をコントロールする制御が功を奏しているようだ。
ギヤはクロスレシオとされているが、実は従来モデルと同様だという。クラッチはトルクフルなエンジン特性に合わせて少し重めになっているが、左足にズッシリときて疲れるほどではなく、適度な操作力。
シフト操作も、ストロークが適度に短めでエンゲージは確実でスムーズだった。従来モデルのシフトフィールは、キチンと入ればそれでいいといったような面も見受けられたが、新型はシフト操作そのものに歓びがある。
エンジンのトルクが絶大ではあるが、ゼロ発進で全力ダッシュを試みてもクラッチは扱いやすく、過大なホイールスピンを誘発しないのも見どころだろう。
さらに、ハイパワーFF車にありがちなトルクステアはほとんど見受けられなかった。これだけ動力性能が向上すると暴れ馬のようになっても不思議はないが、まったくもって余裕で受け止めてしまうほどにシャシーにもポテンシャルがあるということだろう。
CVTから切り替わった6速ATの走りも侮れない
2ペダルモデルは新型から6速ATとなった。以前のトルクコンバーター式ATはダイレクト感に欠け、効率的にも不利で燃費も悪かったが、最近では進化が著しくそんなイメージも完全に払拭された。シフトチェンジの素早さやダイレクト感も得ており、DCT(デュアルクラッチトランスミッション)が出る幕を失いつつあるほどだ。
そんな6速ATのスイフトスポーツに乗り換えてみると、またまたうれしい驚きを覚えることになった。従来モデルのCVTは効率がいいもののスポーツドライビング的には難もあったのに比べて、有段ギヤとなったことで楽しさがグッと高まった。
さらに、誤解を恐れずに言えば6速MT以上に快感な面もあるのだ。6速MTは限られたエンジンパワーを目一杯引き出すべく高回転を維持することに楽しさが詰まっている。それに向いているのは従来モデルのようなNAエンジンの特性だろう。
新型の直噴ターボは回転が高まるほどにパワーが漲るというよりも、低・中回転域のトルクを楽しむタイプ。シフトアップ直後にエンジン回転が落ち込んでもグイグイくる頼もしさに痺れるのだ。それには、頑張って人間がクラッチとシフトを操作するよりも今どきの6速ATのほうがシフトアップが素早く、間髪入れずに圧倒的なトルクに浸れるほうが快感度は高かったりするのだ。
3ペダルを巧みに使い自らのシフト操作を駆使してのドライビングの楽しさを否定するつもりは毛頭なく、いつまでもMTモデルが絶滅しないように応援しているが、新型スイフトスポーツはある意味でヤバい。6速ATが良すぎて、これまでは異例に高かった6速MTの比率を下げてしまいかねないと心配になるからだ。
1t切りを果たしながらも剛性感にあふれるボディ
試乗に入ってからしばらくはパワートレーンにばかり目を奪われていたが、レベルが1段も2段も上がったエンジンパフォーマンスを支えるシャシー性能も見事だ。
新プラットフォームの恩恵を受けて従来に比べて70kgの軽量化を果たし、970kgとなった軽量ボディは加速や減速、旋回で大いなるメリットをもたらすが、それ以上にボディの質感が高まっていることに注目したい。
今回はテストコースでの試乗なので、思い切ってダイナミックな走りも試せたが、ボディの剛性感がたっぷりとあり、荒れた路面をハイスピードで通過してもミシミシなどといった安っぽい感触が伝わってくることは皆無。ゴツゴツ感もなく、スポーティだが快適な乗り心地となっている。
従来モデルに比べるとロール剛性が高められており、コーナーを攻めても安定した姿勢を保っているが、サスペンションはむしろソフトに感じられるほどにしなやかだ。ボディの剛性が高まり、サスペンションのストロークがスムーズだから硬さを感じないのだ。
コーナーへ向けてステアリングを切り込んでいくと、フロントまわりがガッシリとしていて、フロントタイヤが路面を鷲づかみにしていることがクリアに伝わってくる。
どこかで力が逃げてしまうようなことがなく、ステアリングを切った分だけリニアに反応。思い通りにノーズをインへ引き込んでいける。
想像以上に俊敏な動きを見せるが、それでも安心していられるのはリヤの追従性が高く、スタビリティにも余裕があるからだ。
テストコースにはコーナーの途中に凹凸が連続して激しく荒れている路面もあるが、そこでもリヤサスペンションはしなやかでタイヤを押しつけ続けてくれる。あまり出来の良くないシャシーだと、ここでリヤがトントンと跳ね気味になって姿勢を崩してしまいかねないが、スイフトスポーツはリヤタイヤが粘っこく路面に張り付いている。多少は滑ったとしても、接地変化が少なく、挙動が穏やかなのでコントローラブルなのだ。
タイトコーナーの立ち上がりでアクセルを踏み込んでいっても、フロントタイヤが簡単に大トルクに負けるようなことはなかった。FFのレーシングカーのようにLSDを効かせて、フロントから引っ張って旋回力を増すというほどの強烈なトラクションは感じさせないが、コーナーの入り口から中間、そして立ち上がりまで動きに連続性があり、唐突感がない素直さが持ち味だ。過大にアクセルを踏み込めばフロントタイヤが限界を超えていきそうになるが、そういった時でも急にアンダーステアが強くなったり、トルクステアなどイヤな感触が伝わってきたりすることなく、安定した姿勢を維持したまま、ちょっとアクセルを踏みすぎだよというインフォメーションが優しく伝わってくる。
車両重量970kgのFFハッチバックに23.4kgmもの大トルクのエンジンを搭載しながら、じゃじゃ馬的なところがない点にシャシーの優秀性が表れている。ドラスティックに進化した新型スイフトスポーツは、ホットハッチとしての刺激が強くなっただけではなく、あらゆる面がハイレベルで走りの質をも楽しめるモデルとなったのだ。
主要諸元表
グレード:SWIFT Sport(6速MT)
全長(mm):3890
全幅(mm):1735
全高(mm):1500
室内長(mm):1910
室内幅(mm):1425
室内高(mm):1225
ホイールベース(mm):2450
トレッド(mm):前 1510 後 1515
車両重量(kg):970
定員(名):5
型式:K14C
種類:直列4気筒DOHCターボ
ボア×ストローク(mm):73.0×81.9
総排気量(cc):1371
圧縮比:9.9
最高出力(kW[㎰]/rpm):103[140]/5500
最大トルク(Nm[kgm]/rpm):230[23.4]/2500-3500
燃料供給装置:EPI(電子制御燃料噴射)
燃料タンク容量(ℓ):プレミアム/37
形式:6速MT
変速比:前進 (1)3.615 (2)2.047 (3)1.518 (4)1.156 (5)0.918 (6)0.794
後退:3.481
最終減速比:3.944
駆動方式:FF
パワーステアリング:電動式
サスペンション:前 ストラット 後 トーションビーム
ブレーキ:前 ベンチレーテッドディスク 後 ディスク
タイヤ・サイズ:195/45R17
最小回転半径(m):5.1
JC08モード燃費(km/ℓ):16.4
車両本体価格:183万6000円
主要諸元表
グレード:SWIFT Sport(6速AT)
全長(mm):3890
全幅(mm):1735
全高(mm):1500
室内長(mm):1910
室内幅(mm):1425
室内高(mm):1225
ホイールベース(mm):2450
トレッド(mm):前 1510 後 1515
車両重量(kg):990
定員(名):5
型式:K14C
種類:直列4気筒DOHCターボ
ボア×ストローク(mm):73.0×81.9
総排気量(cc):1371
圧縮比:9.9
最高出力(kW[㎰]/rpm):103[140]/5500
最大トルク(Nm[kgm]/rpm):230[23.4]/2500-3500
燃料供給装置:EPI(電子制御燃料噴射)
燃料タンク容量(ℓ):プレミアム/37
形式:6速AT
変速比:前進 (1)4.044 (2)2.370 (3)1.555 (4)1.159 (5)0.851 (6)0.672
後退:3.193
最終減速比:3.683
駆動方式:FF
パワーステアリング:電動式
サスペンション:前 ストラット 後 トーションビーム
ブレーキ:前 ベンチレーテッドディスク 後 ディスク
タイヤ・サイズ:195/45R17
最小回転半径(m):5.1
JC08モード燃費(km/ℓ):16.2
車両本体価格:190万6200円
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