この記事をまとめると
■近年のWRCではハッチバック車両が活躍している
「アウト・イン・アウト」は過去のテクニック? レーシングドライバーが解説する本当の意味とイマドキの走り方とは
■第1期WRカー時代以前はクーペやセダンのラリーカーが活躍していた
■スケーリングが可能なRally1への規定変更でハッチバック以外の車両の参戦にも期待
現在のWRCで活躍しているクルマはハッチバックばかり
ここ数年、WRCではハッチバック車両ばかりが活躍している。2022年に導入されたRally1規定モデルは、トヨタGRヤリス、ヒュンダイi20 N、フォード・プーマといったようにいずれもハッチバック車両で、昨年まで主力となっていたWRカーについても、リストリクターの拡大、最低重量の低減、エアロダイナミックスの規制緩和が行われた2017年~2021年の第3期WRカー時代は、トヨタ・ヤリス、ヒュンダイ i20クーペ、シトロエンC3、フォード・フィエスタといったように、すべての参戦モデルがハッチバック車両をベースとしていた。
さらに、WRカーで初めて1600cc直噴ターボエンジンが搭載された2011年~2017年の第2期WRカー時代も全長が短縮されたことから、各チームはCセグメントからBセグメントにベース車両を変更。その結果として、フォルクスワーゲン・ポロ、ミニ・ジョンクーワークス、フォード・フィエスタなどが活躍したことは記憶に新しいことだろう。
振り返れば、WRCでセダンが活躍していたのは、1997年から2010年の第1期WRカー時代が最後で、当時はまだ2000ccのエンジンが搭載されたCセグメント車両が主力となっていたことから、スバル・インプレッサ、三菱ランサーなど、スポーツセダンが最前線で活躍していた。
その一方で、プジョー206/プジョー307やシトロエン・クサラ/C4、フォード・フォーカス、トヨタ・カローラ、スズキSX4などのハッチバックモデルが躍進。
さらに、1987年から2001年まで続いたグループA時代に遡れば、スバル・レガシィ/インプレッサ、三菱ギャラン/ランサーなどのセダンに加えて、ハッチバックのランチア・デルタ、クーペのトヨタ・セリカが活躍するなど多様化の時代を迎えていたのだが、なぜ、近年のWRCはハッチバックのみのシリーズとなったのか?
その理由のひとつがレギュレーションで、前述のとおり、2011年~2017年の第2期WRカー時代に全長が短縮されたことが大きく影響している。その結果、各チームはCセグメントから、Bセグメントにベース車両を変更せざるをえなくなり、小型のハッチバックモデルが主流となったのである。
もうひとつ、WRCでハッチバッグ車両が主流となっている理由が空力面だ。2004年から2012年にかけて、セバスチャン・ローブの9連覇をサポートしたシトロエンレーシングは、2014年にエリーゼでWTCCに参戦していたが、当時、テクニカルディレクターを務めていたクサビエ・メステラン・ピノンは「ラリーと違ってサーキットレースは空力面がリザルトを左右するからね。エリーゼは空力面に優れた小型のセダンで、とくにドラッグが少ないことが最大のアドバンテージになっている」と語っていた。
Rally1がハッチバックばかりのWRCを変えるかもしれない
さらに前述のとおり、2017年に幕を開けた第3期WRカー時代には空力デバイスが規制緩和されることになったのだが、その際にもピノンは、「WRカー規定モデルもR5規定モデルもR3規定モデルもすべてコンパクトハッチで、“お母さんの買い物のクルマ”に見えるからトップクラスは差別化があっていいと思うけど、個人的にラリーカーに大胆なエアロは必要ないと思う」と語っていただけに、ラリー競技においては、セダンであっても、ハッチバックであっても空力面において大きな違いはない……ということだろう。
その一方で「規定がある以上、空力デバイスは重要になってくることからきちんと開発したい」とピノンが語るように、第3期WRカー時代の2017年にシトロエンがWRCに復帰した際は、大胆なエアロを装着したC3を投入していた。
さらに、2017年にWRCへ復帰したトヨタGAZOOレーシングでテクニカルディレクターを務めるトム・ファウラーも「エアロデバイスの自由度が高くなったので、空力パッケージがより重要になった」と語っていたほか、2022年のRally1規定モデルに対して勝田貴元も「空力パーツが制限されたことで高速域での安定感もWRカーとRally1では違います。WRカーではナチュラルな挙動だったけれど、Rally1では不安定な感覚がある」と語っているだけに、空力パーツの有効性は明らかである。
それゆえに、ハッチバック車両がベースになっているとはいえ、エアロフォルムが追求されるようになってはいるが、ラリー競技ではセダンが有利……というレギュレーションにはなっていないだけに、今後も当面の間、WRCではハッチバック車両が主流になるだろう。
とはいえ、2022年のWRCで興味深いポイントが、Mスポーツ・フォードが主力モデルとしてフィエスタではなく、プーマを選んだことだ。Rally1規定モデルはサイズの拡大・縮小などのスケーリングが実施可能で、Mスポーツ・フォードはフォードのマーケティングの関係から小型SUVをベース車両として選択した。
つまり、スケーリングを認めたRally1規定ではベース車両の選択肢が増えていることから、メーカーのマーケティングによってはクーペなどのスポーツカーをラリー1規定モデルとして開発することも不可能ではない。
Rally1規定は、現在WRCに参戦中のトヨタ、ヒュンダイ、Mスポート・フォードのほか、他メーカーの新規参戦を促すきっかけとなりうるだけに、近い将来、他のメーカーからスポーツクーペやスポーツセダンが参戦してくる日を楽しみにしたい。
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