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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム番外編】安定したチームを築いたラグビーのスーパースターと交流。組織づくりのヒントに

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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム番外編】安定したチームを築いたラグビーのスーパースターと交流。組織づくりのヒントに

 2024年シーズンで9年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄代表。今年1月にチーム代表に就任して以降、小松代表の周囲では様々な変化があった。それはエンジニアリングディレクターからチーム代表に立場が変わったことに始まり、服装、メディアからの質問内容、チーム内に向けた発言など多岐にわたる。

 またハースF1を率いるマネージメントの立場として、小松代表はどうやってチームの全員がパフォーマンスを発揮できる環境を提供するかを考え、他のスポーツからヒントを得るために“異文化交流”を行った。環境も規模も異なるスポーツから学ぶことは多く、現在は首脳陣レベルの交流に留まっているが、今後はさらにその幅を広げていきたいという。

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 そこで今回は、シーズン中には触れられなかった小松代表の『変化』と、他のスポーツとの交流についてご紹介します。

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 今年1月にチーム代表に就任してから、半年以上が経ちました。シーズン前半戦の戦いについてはコラムの第9回で触れたとおり、他のチームが躓いたこともあって僕たちは現時点で当初の目標よりもひとつ上の選手権7位にいて、またシーズン中の開発という点でも停滞せずにうまくいっています。これまでハースは開発ができないと言われてきたので、これもいい意味での変化ですが、今年に入ってから変わったことというのがいくつかあるので、今回はそれを紹介していこうと思います。

 エンジニアリングディレクターからチーム代表に立場が変わり、チーム内に対してもチームの外に対してもいろいろなことが変わりました。たとえばチームの外に向けてのことで一番わかりやすいのが服装ですね。昨年までは他のスタッフと同じチームウエアを着ていましたが、今年は立場も変わってどうしようかとマーケティング担当のメンバーと話し合って、襟のついたシャツを着ることになりました。

 もちろんメディアから聞かれる質問の内容も変わりましたし、多くの人が興味を持っていることというのは、エンジニア出身の僕がこれまで担当してこなかった分野への対応についてだと感じています。取材やスポンサーへの対応についても聞かれますし、ドライバー交渉の件でもプレッシャーはあったのか、戸惑うことはあったかなどの質問をよく受けました。

 僕が常に考えているのは、エンジニアリングでもそうでないことでも、立場や役職が変わればこれまでやったことがないものに取り組むことになるということです。それは僕がF1の仕事に就きたいと思ってイギリスに行った時も、実際にチームに入った時も、レースエンジニアからチーフレースエンジニアになった時も、エンジニアリングディレクターになった時もそうでした。僕は新しいことを始めるのにまったく抵抗がなくて、未知のことに挑戦がするのが楽しくて生きているので、立場が変わっても“新しいチャレンジをする”というアプローチはこれまでと変わりません。

 経験がなかったことのひとつして、スポンサーのイベントについて例を挙げようと思います。今年のシーズンが始まる前に、チームのタイトルスポンサーである『マネーグラム』のイベントがありました。かなり大規模なイベントで、ロンドンにあるトッテナム・ホットスパーFCのスタジアムの一部とその地下にあるカート場を貸し切って開かれたものでした。マネーグラムのお客さんやソーシャルメディアのコンテンツを作るプロのスタッフなども大勢いたのですが、僕はこれまでそういったイベントには興味がなくて、最初は頭のなかで拒否反応が出てしまったんです。

 でももし僕がやりたくない、面倒だなと感じながらイベントに参加したら、僕は自分の時間を無駄にすることになるし、世界各地からこのイベントのために来ている人たちの時間も無駄になりますよね。そうすると完成したコンテンツはベストなものではないし、何もポジティブことはないわけです。だから僕は人の言うことをよく聞いて、自分の能力で一番いいものができるように「やるならベストを尽くそう」と頭を切り替えて臨むことにしました。全力を尽くせば自分に何か返ってくるかもしれないし、前向きだというのをマネーグラムの人も感じ取ってくれたら双方にとっていいことですから。そうやって考えを変えてイベントに参加してみたら、思いのほか楽しく過ごせましたし、フィードバックも上々でした。この体験を振り返って、やったことがないことに取り組むにはこれで正解なんだと思いました。何をやるにしても頭を切り替えて、前向きに臨んで自分のベストを尽くせばいいんだということです。

 反対にチーム内に向けては、常にみんなを沈ませず、落ち込まないよう引き上げることを意識しています。僕はレースが好きだし、結果が出なければ頭にくることがよくありますが、もし僕がレース後のディブリーフィングでそういう態度だとみんなが落ち込むことになります。たとえばベルギーGPでは、1ストップで走れた点はよかったですが、14位、18位という結果は順位だけを見てもまったく満足のいくものではありません。そういう時にどんなに腹が立っていても「今日はこれがうまくいかなかったけど、次はこうできるようにしよう」と言うようにしています。

 こういうことはチーム代表になる前から考えていましたけど、率先してそういう姿を見せていれば、シニアマネージメントの人も自分のグループに対して同じように接してくれると思うので、自分がリードしていければなと考えています。

 チーム代表になってから嬉しいことに、シニアマネージメントの人たちが僕の考え方・やり方を理解してついてきてくれていることを実感しています。基本的に2カ月に1回くらいのペースでシニアマネージメントを集めたミーティングを開いているのですが、僕が何をどうやろうとしているのかをみんながわかってくれているなと感じますし、彼らのなかには僕のことをよく知っている人もそうじゃなかった人もいますが、とにかくサポートしてくれて、いい関係を築けています。

■競技は違っても悩みは同じ。最大限のパフォーマンスを引き出すヒントを得た“異文化交流”

 チーム代表に就任する前から、どうすれば人間のパフォーマンスを最大限に発揮できる組織を作れるかということをずっと考えていました。F1はたくさんの道具を使うスポーツですが、最終的には人が判断を下すし、チームワークが重要になりますよね。それが悩んでいることであり、おもしろい部分でもあるのですが、そういう組織を作るにはどうすればいいのか、他のスポーツの話を聞いてみたかったので、ノーサンプトン・セインツというイギリスのラグビーチームにアプローチしました。

 セインツはシルバーストンから20分くらいのところにある街、ノーサンプトンを本拠地とするチームで、2023~24年シーズンのイギリスチャンピオンです。僕は以前にラグビーをやっていたこともあり、大学のチームの先輩がセインツでプレーしていたことからずっとセインツを応援していて、昔はよく試合を見に行っていました。

 アプローチのきっかけは、元セインツのスタッフだった人がうちの仕事に応募してきてくれて話す機会があったときに、その人がセインツの監督(Director of Rugby)であるフィル・ドーソンをよく知っているというので、紹介してもらったんです。フィルはセインツがちょうど10年前の2013~14年シーズンに初めて優勝した時の中心メンバーでした。彼は若くして監督に就いたのですが、セインツは優勝した後に安定しない時期があって、そこから今年は見るからに改善したんです。僕もF1のチーム代表のなかでは比較的若い方なので、フィルには監督になった時の話を聞きたいなと思って話をしました。

 フィルと話して感じたのは、彼がセインツのオーナーと話す時の課題や、それに対してオーナーから返ってくる質問というのは、僕とハースF1チームのオーナーであるジーン・ハースとのやり取りに似ているということです。それはオーナーを相手に話す場合だけでなく、自分より上の立場の人や同じくらいの立場の人と話す時でも共通点がありました。みんな抱えている悩みや問題点は同じのようです。セインツは今年優勝したので、成功したチームの人と話すのはおもしろいですし、自分のためにもなります。それにラグビーはリーダーシップが非常に重要なチームスポーツなので、リーダーシップをとる立場として勉強になりました。

 他にもセインツのマネージングディレクターやコーチ陣、元選手の人とも話す機会がありました。もちろん僕が試合を見に行っていた時代に選手として活躍していた人もいて、プレミアシッププレイオフの準決勝当日はセインツの人が、ホスピタリティで僕をその元選手たちと同じテーブルに案内してくれたんです。かつてイングランド代表のキャプテンだった人もいたりと、僕にとってのスーパースターの人たちですが、彼らもF1という違うスポーツでどういう組織作りをしているんだろうと興味津々でした。またトレーニングや試合前のミーティングも見学させてもらう機会もいただけました。学ぶことだらけでとても有意義でした。

 それから他のいろいろな人から話を聞いて改めて認識したのは、F1以外のスポーツに携わっている人から見ると、F1はスポーツのなかでも異次元で、ラグビーとは規模もファンベースも違うし、ワールドワイドでかかるお金も違うし、アンタッチャブルな部分があるように感じているようです。だからF1チームの代表からアプローチがあったことが嬉しかったと言ってくれました。僕はずっとF1をやってきたので特にそうは感じていなかったのですが、他のスポーツとの交流のドアを開くことができてよかったと思っています。

 今回セインツと縁ができたことで、実はセインツの選手、元選手たちや、他にもバース・ラグビーというチーム(今年のプレイオフ決勝の相手でした)の選手がイギリスGPに来てくれたんです。うちのチームにもラグビーが好きなメンバーがいて、みんな喜んでいました。だから今後は僕とフィルのような組織のトップレベルだけでなく、メカニックや他のメンバー同士での交流の機会を作れたらと考えています。たとえば、セインツの選手がハースのファクトリーに来てピットストップに挑戦するとか、反対にうちのメンバーをセインツのトレーニングに参加させてもらうとか、そういったことができればなと。トレーニングひとつをとっても、ポジティブに楽しみながらやるのが一番パフォーマンスを発揮できると思うし、みんなが喜んでくれて、やりたいと思うことをやってパフォーマンスを改善できるのが理想です。

 他のスポーツに対してドアを開くことができるというのも、チーム代表の立場になってよかったことのひとつだと思っているので、これからもドアを開いて誰かに会ったり、こういう機会を活かしていきたいですね。

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