8月2~4日、2024年MotoGP第10戦イギリスGPが行われました。初日はアプリリアとKTMも上位に入っていましたが、スプリントと決勝はドゥカティ勢が速さを見せました。サマーブレイク明けということもあり、ヤマハはアップデートを実施しています。
そんな2024年のMotoGPについて、1970年代からグランプリマシンや8耐マシンの開発に従事し、MotoGPの創世紀には技術規則の策定にも関わるなど多彩な経歴を持つ、“元MotoGP関係者”が語り尽くすコラム、2年目に突入して第35回目となります。
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--さて実質的に2度目になるサマーブレイクが終わって、いよいよMotoGPが戻って来たわけですが、今回のイギリスGPはFIMグランプリ75周年記念とかで何かお祭りムードでしたよね。でもどうしてイギリスGPでセレモニーをやるんですかね?
FIMグランプリがスタートしたのが1949年で、その記念すべき第1回が有名なマン島で開かれたんだね。その年は全部で6戦開催されたらしいけれど、イタリアのモンツァを除いて殆どがマン島のような公道サーキットだったらしい。マン島でMotoGPを開催するわけにもいかないから同じイギリス領内のシルバーストンでお祝いってことになったんだと思うよ。
難しい話をすると、マン島はいわゆる『グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国』には属していなくて、イギリス王室直轄支配の領土なんだよ。つまり現在の領主はチャールズ国王だって、知ってた?
--いやいや知りませんて、そんな難しい話(笑) でも、各社のマシンがいつもと違ったカラーリングで走るのは新鮮でしたね。ヤマハは70年代の500ccマシン、ホンダが80年代の500ccマシンのオマージュとすぐに分かりましたけれど、ドゥカティとアプリリアのファクトリー以外はちょっとデザインの意図が分かりにくかったですね。
確かに、プライベートチームに関しては「いつもと違う」という印象しか持たれなかったかもしれないけどね。
それより、たった1レースのために外装部品を何セットか塗装して、チームウエアだけでなくライダースーツやヘルメットを新調しているわけだから、この準備にかかった関係者の労力と時間とお金のことを考えると、自分も経験したことがあるだけに頭がクラクラしちゃうよ(笑)
--そんなお祭りムードの一戦ではありましたけれど、今回のレースはやはり『ビースト覚醒』が一番のトピックですかね。昨年はシーズン初めに負った怪我のために精彩を欠いていましたが、やっとエネア・バスティアニーニ選手本来の姿に戻った感じがしました。
イタリアGPでフランセスコ・バニャイア選手と1-2を決めたあたりから完全に復調した感じはしていたんだけれど、今回の完全優勝には驚いたね。速さは勿論なんだけれど、なんか計算通りにレースをコントロールしているような感じだったね。
ポイントリーターのバニャイア選手が前半の好調を維持して行くのかなと、少なくとも公式予選まではそんな流れだったけれど、スプリントの序盤で転倒してから流れが変わって、ぐっとバスティアニーニ選手に有利になった。
--たしかにバニャイア選手は前半こそレースをリードしましたが、その後は守りに入ったというか、いつもより精彩を欠いている感じがありましたね。それにホルヘ・マルティン選手も、ドイツGPのようにもう少しのところで転倒で勝利を逃がすというトラウマなのか、今回は少し戦い方を変えてきたように見えました。その辺りがレース後半でバスティアニーニ選手の計算通りの展開になった要因かもしれませんね。
レース前半はトップグループに置いて行かれない程度にキープできれば、後半で自分の強みを発揮して勝負できるという計算が出来ていたようなコメントをしていたね。
おもしろいのは、夏休みの間にフィジカルトレーニングではなくて自己分析に時間を費やしていたようなんだ。予選で最悪な時は意外にもレースでは最高の走りをしていたという分析結果から、どの辺りを修正すべきかわかってしまったというんだよ。
--そうは言っても、改善すべき点が見えたとしてもそれを即実行して結果を出すというのは誰にでもできる事では無いですよね。
たしかにそんなに簡単にできるなら誰も苦労しないよね。それが出来てしまったところが、彼の強みということになるんじゃないかな。
--「バスティアニーニはレース後半に強い」という摺り込みは、どちらかと言えば先行逃げ切り型のバニャイア選手やマルティン選手にとっては今後も脅威になりそうですね。
先行逃げ切りが難しいとなると、レースペースを抑え気味にしてタイヤを温存して後半に備える形になるけれど、それはバスティアニーニ選手の思う壺でもあるし、レース前半を密な集団で走るとなると例のタイヤ空気圧や温度の問題も絡んでくるのでライダーは体力と知力の勝負になるね。それはそれで面白いレースになると思うよ。俄然後半戦のチャンピオン争いが楽しみになった来たね。
--ところで、今シーズン限りで引退して来年はホンダのテストライダーになると公表したアレイシ・エスパルガロ選手が初日から好調でポールポジションを獲得してスプリント3位入賞と健闘しました。アプリリアは今回エアロパッケージをアップデートしたようですが、その効果もあったということでしょうか?
外観的には目立った変化は見られないけれど、アップデートの狙いはダウンフォースを少し減らしてハンドリングの軽快さと空気抵抗の低減を狙ったとか、旋回時の横風の感度を低減したとか言ってたね。エスパルガロ選手もその効果は感じたようだけれど、そもそも得意なコースという要素の方が大きいかもね。去年もここで優勝しているし、その前のオランダGPでは片方のウイングを失った状態で3位に入った位だから(笑)
--それではシルバーストンがアプリリア向きのコースと言う訳でもないんですね。
ケニー・ロバーツとフレディ・スペンサーが鎬を削った1980年代のシルバーストンなら間違いなくアプリリア向きと言えるけど、その後の大規模改修でコーナー数が8から18と劇的に増えたから、サーキットの性格はかなり変わったね。
でも回り込むコーナーはそれほど多くないから高速で切り返す際の敏捷性の改善は大事なポイント。その点では今回のアップデートは正解だと思うけれど、トラックハウスも含めて全員に供給されたわりには他のライダーの結果が微妙だよね、前回のドイツGPの結果がかなり良かっただけに……。
--エスパルガロ選手の孤軍奮闘が際立っていたものの、結果的にレースではドゥカティの8選手が全員トップ10に入り、表彰台は2024年マシンが独占という結果になりましたよね。
率直に言って、強いライダーが速いマシンに乗っているという状況なので当然の結果と言えなくもないけれど、エスパルガロ選手が感じているようにドゥカティのマシンは全方位的な速さはもちろんとしてタイヤのマネジメントという点で他車を一歩リードしているってことかな。
今年のマシンはその点が更に進化しているのかもしれないね。シーズン序盤は今年のマシンだけチャタリングの問題が顕著に出ていたけれど、どうやらそれも解決してしまったようだし。
--とは言っても、来シーズンはその強いライダーの内3人が他メーカーのマシンに乗る事が決まっています。ドゥカティも6台体制になるわけですが、その辺りがチャンピオンシップに与える影響はどうなんでしょう?
現時点で確定しているのが、今回優勝したバスティアニーニ選手がKTM、ポイントリーダのマルティン選手がアプリリア、今シーズンはちょっと苦労しているベゼッチ選手も同じくアプリリアへの移籍が確定しているようだね。
マルケス選手のファクトリー加入に端を発して、激しい椅子取りゲームに発展したように見えるけれど、これはドゥカティ一強という現在の構図を変えてレースの面白みを増すという点では健全な流れだと思うんだ。この移籍劇に関しては水面下でドルナやリバティメディアの介入もあったんじゃないかな。
--結果的にトップライダーが複数のメーカーに分散される事になりますから、どういう結果になるのかワクワクしますね。でもライダーとマシンの相性ってあるじゃないですか。かつてはバレンティーノ・ロッシ選手がドゥカティに移籍した際は、双方にとって辛い結果になりましたよね。
まあそういう事もあったよね。その辛い時期を乗り越えたからこそ現在のドゥカティがあるわけでね(笑) どういう結果になるかは手離したふたりが新しいマシンにすぐに馴染んで力を発揮できるか、或いはアプリリアとKTMが彼らの能力を発揮できるようなマシンを提供できるかに掛かってるわけだけれど、マシンのポテンシャル自体は現時点でかなり拮抗してきているから大丈夫だと思うよ。日本メーカーへのスイッチだと話は少し変わるけれど……。
--結果的に欧州メーカーの戦闘力が拮抗するのは良いとしても、依然としてその日本メーカーの復活の兆しが見えて来ないという問題はどうなんでしょう? ヤマハについては今回かなりのアップデートを投入したようですが……
外観的にはエアロパッケージは大きく変わったようには見えなかったから、エンジン関係のアップデートなのかな? そういえばエキゾーストパイプが前戦まで使用していた長いのから再び短いのに戻っていたような。
--狙いは何でしょう、エンジン特性の変更とか……?
それもあるかもしれないけれど、軽量化狙いもあるかもしれないね。
あの長いエキゾーストパイプは、軽量に出来ていると言ってもそれなりの質量があるし、現在のヤマハ機はハンドリングの重さも大きな問題のようだしね。
--そこはアプリリアのようにエアロの見直しで改善する事も可能なポイントですよね。
そもそも欧州メーカーに空力開発で後れをとったので、とにかく何かを付加する方向での開発が進んだと思うんだよね。特にホンダは他社と同じV4エンジンを使っているからまずは他社の空力をコピーするところから始まってたように見えるし、一方のヤマハはエンジン形状からして独自の空力開発を進めているように見えるけれど、現状ではかなり空力依存度が高まっているように見えるね。
--後追いした結果として少し行き過ぎているという事ですか?
いや必ずしもそうとは言えないけれど、この辺りで空力開発で何を得て何を失ったのか検証してみるのも必要かなと思うんだよ。空力を付加している限りはシャシーのジオメトリや剛性などの適切な評価は難しいしね。
それはエンジン開発にも言えることで、電子制御ありきで開発しているとエンジンの素の特性がどうなのか見誤るリスクがあるんだよ。
--アプリリアのように足し算だけでなく引き算も考えるという事ですね。
そういうこと!!
一刻も早く前に進むことが要求されている時に、立ち止まって考えろと言うのも酷な要求だと思うけれど昔から「急がば回れ」とも言うしね。
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