走っているときは快調そのものだけど……
名古屋の「チンクエチェント博物館」が所有するターコイズブルーのフィアット「500L」(1970年式)を、自動車ライターの嶋田智之氏が日々のアシとして長期レポートする「週刊チンクエチェント」。第38回は「えっ? オイルが増えてる!?」をお届けします。
オイルフィラーキャップもオイル吹きの原因だった! でも「やっぱり一度バラしてしっかり組み直さないと…」【週刊チンクエチェントVol.37】
晴れてゴブジ号をお披露目
さぁさぁ皆さん、見てちょーだい! 美しい緑色の風景の中にたたずむゴブジ号の姿を、どうか御覧あれ! やっぱさぁ、チンクエチェントって唯一無二の造形美を持ってるよね。そう思わない? ずっと見てても飽きないからね。いわゆるスーパーカーたちとは真逆だけど、意味のない装飾は最小限まで排除して、ほとんど機能だけを無理なく巧みにスタイリングへと落とし込んだデザインの妙。チンクエチェント博物館の伊藤精朗代表はこのスタイリングデザインを“動くモダンアート”と評してるけど、まったくそのとおりだな、と思う。
ちょっとばかりゴキゲンなのは、晴れてゴブジ号を皆さんの前で正式にお披露目することができたからだ。
2021年10月2日。毎年恒例になっていたチンクエチェント博物館主催のイタリア車メインのイベント、関西トリコローレ。会場は写真のとおり仰天するほどロケーションが素晴らしい、神戸市立森林植物園だ。足元も緑なら背景も緑。この美しい場所でその気なら綺麗にクルマの写真を撮れるということも手伝って、天候によって左右されたりもするけど、毎年150台から250台ほどのクルマが集まるピクニックイベントとなっていた。ゴブジ号を預かって最初に計画したのは九州トリコローレでのお披露目だったのだが、スタートしてすぐにオイルシールが破裂しちゃって未遂に終わり、同じトリコローレの関西版でリベンジを果たしたかたちだ──九州にもリベンジしなきゃ、だけど。
ゴブジ号はすでに僕のFacebookなどSNSではデビューを果たしていて、最初に新名神でオイルをぶちまけて停まっちゃったときも、次に新東名で電気系が思い切り断線して停まっちゃったときも、速攻で「いいね!」が600を越えた。人気者である。なので、イベントの参加者の方の中には、このクルマのことを知っててくれてる人も少なくなかった。
「写真で見てもいい色だけど、実物はもっといい色だねぇ」(そうでしょそうでしょ) 「すっごく綺麗!」(まぁほぼレストア、みたいに手が入ってるからね) 「ああ、これがあの……例の……」(あの、例の、の次は何なんだよ……) 「今度はちゃんと無事に目的地に着いたんだね」(そうそう、“ちゃんと無事に”かどうかはわからないけど) 「実は積車で運んできてたりして(笑)」(ちゃんと自走で来たんだってば……) 「来たはいいけど、ちゃんと東京に帰れるのかな?」(神のみぞ知る、だな……)
カッコ内は僕自身の心の声だけど、ゴブジ号に近づいてシゲシゲ観てくれる人たちの声を盗み聞きするようにしながら耳にすることができて、僕はもっとゴキゲンになった。それだけ注目してもらえてる、ということだから。しかも、だ。ゴブジ号はチンクエチェント博物館のデモカーでもある。よってこの日は座席を開放し、チンクエチェントには興味があるけど車内に収まったことがないという人に雰囲気だけでも味わってもらうことにしたら、結構な数の人がシートに座ってチンクエチェントのシンプル極まりない世界に触れてもらうことができた。記念写真を撮って楽しんでくれてる人もいっぱいいた。僕はますますゴキゲン。なので、同じくフィアットが生んだもうひとつの稀代の名車、パンダの初期モデルの1台が似たようなボディカラーだったので、ゴブジ号と記念写真を撮らせてもらったりもした。ああ、いい1日になったなぁ……。
オイルレベルゲージを見るとオイル量が増えている!?
という歓びの裏側で、もうひとつの声──不安の声が聞こえてくる。遠路はるばるやっとこさっとこ神戸まで走り抜き、おふくろ宅に付く直前にオイルのチェックをしたときの、あの“ウソだろ?”の声である。
なぜ“ウソだろ?”なんて言葉が出てきたのかといえば、エンジンルームにあんなにもオイルが付着してたというのに、レベルゲージで計ったオイルの量はまったく減ってなかったのだ。むしろじんわり増えてるんじゃねーの? なんて思えたほど。しかも神戸市立森林植物園は六甲の山の上の方に位置していて、18psで麓から登ってくるにはエンジンの回転をだいぶ上の方に保つ必要がある。つまり負荷の掛かり具合は平地の比じゃないから、オイルの噴出量だって増えてるはず。にも関わらず、イベントが終わった後に再度オイル量をチェックしてみたら、やっぱり微妙に増えてる印象なのだ。
オイルって、フツーは増えないよなぁ……増えるワカメじゃないんだから。
チンクエチェント博物館の深津館長と相談した結果、いずれエンジンはオーバーホールすることになるっていう前提だから、とりあえず帰路も自走で東京を目指す、ということになっていた。なにしろ何度もいうけど走りは絶好調。不具合があるようには感じられない。原因がわからないかぎり、不調に転じたらそのときに対処を考えるしかないだろう、と。いざとなれば途中にスティルベーシックもあるわけだし。
ただし結論から述べちゃうと、この帰り道、僕はスティルベーシックまでも到達できなかった。関西トリコローレが終わった翌々日、10月4日。午前中の早くに神戸のおふくろ宅を出発した僕は、途中途中でオイルの噴き出し具合よりもオイル量そのものに注意しながら走ることになった。当然ながらサービスエリア/パーキングエリアひとつおきぐらいにエンジンフードを開けてオイルレベルゲージを引っ張って、だ。
んー、間違いなくオイル、増えてる……。
その実感がどんどん強くなる。第2神明道路、名神高速、そして草津ジャンクション経由で新名神高速へ。そして甲南パーキングエリアで気分がだいぶ脂汗になって、土山サービスエリアで決断した。……んー、深津さんに電話だ!
なぜならフツーは絶対に増えるはずのないオイルが確実に増えてるし、しかもちょっと大袈裟ないい方をすれば加速度的に増えてるように感じられたからだ。さらにオイルそのものの触感も急激にシャバシャバしてきてるように思える。……ワケわからん。わからんのだけど、間違いなく異変であることだけはわかる。なるべくなら、もう“停まっちゃいました”は回避したいでしょ。
走ってるときのフィーリングとしてはまったく絶好調そのものだから、とりあえず名古屋のチンクエチェント博物館まで走っていって、ゴブジ号は後日、そこから積車でスティルベーシックに運んで診てもらう、ということになった。
振動がなくなって気持ちよく走れるようになったのはいいのだけどね。次なる目標は、こういうときに“出掛けたら帰ってこられるクルマになろう”っていうところか……。
■協力:チンクエチェント博物館 https://museo500.com
■協力:スティルベーシック https://style-basic.jp
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