24時間で13か国はどうでしょう?
1本の線。それがわれわれの成否を左右するすべてだ。ここはオランダのアイスデン。ベルギーとの国境にほど近い地で共に過ごしている旅の相棒は、静かなポルシェ・タイカンだ。
これから先、ゴールまでの道のりは1800kmほど。さらに11の国境を24時間以内に走り切らなければならない。少なくとも理論上は、最初の国境越えはシンプルなタスクだが、それは24時間で13か国を巡る、EVでのチャレンジのスタートでもある。一昼夜まるまるかかるが、ハイライトは国境を越える12の瞬間ということになる。
この旅の前提はシンプルだ。欧州本土の可能な限り多くの国を、タイカンに乗り1日でめぐることで、EVの開発がどこまで進んでいて、公共の急速充電インフラがどれくらい整備されているのかを知る機会にしよう、というもの。航続距離と充電の心配を、まるっとまとめて検証するわけだ。
少し前なら、この手の実験的試みができるのはテスラだけで、その一因は広く整備が進んでいる独自の充電ネットワーク、スーパーチャージャーにあった。しかし、ここ数年で、BMWとフォード、フォルクスワーゲンとヒョンデによる合弁会社のイオニティが、欧州で350kW充電ステーションの稼働をはじめている。その立地が、もっとも交通量の多い主要道路沿いに集中しているので、ルート沿いにあった6つのチャージ地点は驚くほど見つけやすかったし、大幅な回り道を必要とするところはひとつもなかった。
6度も充電していたら、さぞかしロスタイムが多かろうとお思いかもしれない。しかしタイカンは最大270kWチャージングに対応するので、10~80%の補充に要するのは20分程度。コーヒー休憩にちょうどいいくらいの時間しかかからない。
出発前、高速道路の速度域で509kmというタイカンの公称航続距離に、われわれは疑いの目を向けていた。ところが数時間走ると明らかになったのは、トリップコンピューターの予想航続距離が、ほぼ走った分ずつ減っていることだった。
オランダからベルギー、ルクセンブルク、フランスへ
うれしいことに、出発地点の駐車場から最初の国境越えまでは5分とかからなかった。時刻は午後4時3分。そこからはクルーズコントロールを法定速度の120kmに設定し、3つめの国となるルクセンブルクへ気楽なクルーズと洒落込んだ。一路、南へ。
ルクセンブルクの国土は、ベルギーの10分の1程度。しかし、この裕福な国で働く労働者たちの帰宅ラッシュに巻き込まれ、予期せぬ渋滞で20分ほど無駄に過ごしてしまった。致命的とは言わないが、理想的なスケジュールとも言えない。さらに悪いことに、フランスのオーコンクールで最初に立ち寄った充電スポットは、ひどく混み合っていた。
われわれはどうにか空いていた最後の充電器を押さえたが、われわれ以外にも同時に5台がチャージしていたため、充電量は最大70kWちょっとにとどまった。結果、75%まで補充するのに45分以上かかってしまった。
これ以上は時間のロスが大きいと判断し、充電を切り上げたわれわれは、もっと速く走れる道と、もっと早くチャージできる充電スタンドを求め、ドイツへと向かうことにした。
フランスからドイツ、そしてスイスへ
タイカンの正確な航続距離表示は、巡航速度を上げようという自信をもたらした。われわれにとって速度を増すというのは事実上、アフターバーナーを点火するというのと同じような意味だ。午後9時1分にライン川を渡ると、アウトバーンの速度無制限区間まで長くはかからない。速度計の表示は238km/h。タイカンの公称最高速度を8km/hほど上回っている。
おかげで、遅れを20分ほど取り返せた。さらに、マールベルクのイオニティは、充電がすばらしく速かった。オーコンクールとは違って、4基の充電器はすべて空いていたので、250kWほどの充電ピークが出た。
30分後には、充電量は90%まで回復。その間に人間さまのほうはコーヒーとジャンクフードを胃袋に詰め込んで準備万端。6つめの国、スイスへいざ向かおう。
スイス、リヒテンシュタイン、オーストリアからイタリアへ
リンダウで、タイカンを95%まで充電したのは、このあと320kmほどのセクションに、高い峠が待ち受けているからだ。オーストリア−イタリア国境のブレンナー峠である。そしてまもなく、この余分に充電したことのありがたみを知ることになる。
というのも、いったんリヒテンシュタイン公国に入ると、10分ほどで通過する小国とはいえ、タイトで曲がりくねり、路面がうねったアルプスの山道が電力を激しく消費させたからだ。午前3時25分にイタリア入りしたとき、バッテリー残量は10%を下回っていた。
それでも、ブレンナーでの充電では幸いにも、過去最高の262kWをマークしたので、長く足を止めずに済んだ。さらによかったのは、タイカン・クロスツーリスモを楽しめたことだ。アマルフィでの休暇から帰る友人が乗ってきたクルマで、彼はフィレンツェのグッチでショッピングし、夜遅くにハンブルクへ戻る途中だった。われわれとは違う暮らしぶりにため息は出たが。
イタリアから再びオーストリア、そしてスロヴェニアへ
北イタリアをかすめたわれわれは、南オーストリアへ。その道すがら、思い出していたのは2021年のロードテストのことだ。バッテリーEV初の満点を獲得したのがタイカンだった。並外れて精密で手応えのあるステアリング、驚くほどの安定感、さらに十分なフィールのあるブレーキを備え、アルプス山間の道を300km以上、それも音もなく駆け抜けるのはこの上なく楽しかった。
加えてこのスティントでは、スロヴェニアに向けての下りが含まれていたので、ほとんどの時間を出来のいいアダプティブ回生ブレーキシステムを用いたエネルギー回収に費やせたのもありがたかった。
ここでの利点はふたつ。ひとつは、巡航速度を最大化できたので、一晩で30分以上の時間を稼げたこと。もうひとつは、翌朝7時30分にスロヴェニアへ着いたとき、バッテリー残量が50%もあったこと。そのため、ラドヴリツァでの充電は30分とかからずに済んだ。疲れ果てた同乗者は、「この充電プロセスは、われわれのプランより容赦ない」と嘆いていたが。
ありがたいことに、次の充電ポイントもスロヴェニア国内で、130kmも走れば到着する。その目的地であるスメドニックに着いてみると、なかなかいいペースで走れたことに気がついた。スロベニアの国境警備隊は、われわれのパスポートをちらっと見ただけで通してくれて、ここまでの平均速度は予想のかなり上をいっていた。そこで、ひとつのアイデアが浮かんだ。
スロヴェニアからクロアチア、そしてハンガリー国境へ
計画ではスロヴェニアからまっすぐクロアチアとボスニアを目指し、ゴールのセルビアへ入るはずだった。これを、クロアチアで進路を北へ転じ、ハンガリーに立ち寄ってからUターンして最後の充電を行って、最後の2国へ向かうことに変更した。
これで、立ち寄る国の数は14となる。当初は13か国のはずだったが、これはGoogleマップでシンプルなルートを検索した結果だ。
ルート変更のリスクは低く思えた。可能性がある最悪のケースは、セルビア到着前に時間切れになることだが、それでも当初予定した13か国はクリアできる。そこで、ナビの経路設定を変更したのである。
クロアチアでは、国土の広さと高速道路の見通しのよさ、渋滞のなさを思い知った。おかげで、ハンガリー国境まではスイスイと、1時間半ほどで辿り着けた。いい感じだったが、それは国境までの話。英国人が差し出した非EUのパスポートを目にした国境警備隊は、クルマを路肩に寄せて停めるよう指示し、われわれは審査のために少々待たされることとなった。
トラブルなくハンガリーへ入国する車列を眺めながら待つ時間は、じつに苦痛だった。われわれのプランにとっては致命的とも思える45分ほどが経ったころ、ようやくスタンプを押されたパスポートが戻ってきて、入国が許可された。
まさにそのとき、われわれが目にしたのは、クロアチアへ入国するための長い行列だった。そこで、一か八か警備兵に声をかけてみた。道を間違えてハンガリーへ来てしまったので、Uターンしなければならないのだが、と。
幸運にも、怒りではなく同情を買うことに成功し、結局はそのまますぐにクロアチアへ引き返すことができた。
ハンガリー国境からクロアチア、ボスニア国境、そしてセルビアへ
ハンガリーの呪縛を逃れてしまうと、一番近いイオニティのチャージャーまでは1時間とかからなかった。ザグレブの南にあるそこへ着いたとき、もはやわれわれに猶予はなかった。だから、バッテリー残量が80%に達した23分で充電を切り上げた。見通しとしては、ボスニアとセルビアを訪れてから、クロアチアの充電スポットへ戻ってくるにはジャストといったところになるはずだ。
その後2時間ほどは、アドレナリン全開で走った。午後1時10分に走り出し、1時間半足らずでボスニア国境に到着。ありがたくも、パスポートの押印以上には時間を費やさずに通過できた。ルートはすぐにサヴァ川を渡り、クロアチアへ3度めの入国をしたが、ここでも質問を受けるようなことはなかった。
ここで足止めを食らっていたら、その後も走り続けたところでこの丸一日の努力が水の泡になっていただろう。しかし、ナビ画面へチラッと目をやると、セルビア国境までの所要時間は75分、24時間のタイムリミットまでは90分であることが確認できた。そこで、航続距離を稼ぐためにエアコンを切り、ゴールへとひた走った。
午後3時53分。オランダでスタートラインを切ってから23時間50分で、われわれはセルビアの土を踏んだ。その時点での平均速度は98km/h、走行距離は1930km。そこまでの充電回数は7回だった。
途中ではルクセンブルクでの渋滞やハンガリー入国時の足止めといった障害に出くわしたものの、どうにか24時間を10分切る結果となった。14か国を巡って、ゴールしたところでのバッテリー残量は21km走行分。現状ではこれがEVの実力の最高レベルだろうが、進化はまだまだ続くはずだ。
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