■ホモロゲーションを取るために、まずはフィアットに搭載された「ディーノ・エンジン」
数多くの名作を残してきたフェラーリの歴史においても、おそらくは最高ランクの傑作車に名を連ねるであろう、「ディーノ206/246GT」。
【画像】こんな「ディーノ」もあった? ディーノの変遷をこの目で確かめてみる(28枚)
「フェラーリの名を与えられなかったフェラーリ」ながら、世界に冠たる歴史的名車となったこのモデルには、誕生に至るまでに波乱万丈のストーリーがあったといわれている。
●「インジェニェーレ」エンツォの思惑
のちに「名機」と呼ばれることになるディーノV6ユニットの基本コンセプトを発案したのは、エンツォ・フェラーリの長男で、1956年に24歳の若さでこの世を去ったアルフレッド(ディーノ)・フェラーリ。そして、1920年代から世界のモータースポーツ界最高の頭脳として知られてきたマエストロ的インジェニェーレ(技師)、ヴィットリオ・ヤーノが補完した、というのが大方の定説となっている。
すでに病床にあったディーノとふたりで練り上げたV6ユニットの構想をもとに、巨匠ヤーノ技師は、フランコ・ロッキ技師を筆頭とするランチア時代からの腹心たちにアドバイスを授け、ディーノが病室にて構想したV6ユニットを現実のものとするために尽力。
ディーノの死後には2.5リッターFR時代最強のF1エンジンにまで仕立て上げ、1958年には「フェラーリ246F1」のマイク・ホーソーンに英国人初のワールドタイトルをもたらすまでに至った。
ディーノV6ユニットは、その後もカルロ・キティ博士のもと初のフェラーリ製ミッドシップF1たる「156F1」に搭載。フィル・ヒルとともに再びの世界チャンピオンを獲得したほか、「196SP」や「286SP」などミッドシップ・フェラーリ黎明期のレーシングスポーツ、そして、マウロ・フォルギエーリ技師の時代に製作された「166P」や「206S/SP」などのスポーツプロトタイプなどにもさまざまな排気量で搭載。第一級のレーシングエンジンとして、歴史に名を刻んでゆく。
しかし1960年代後半を迎えた時期、ディーノV6エンジンには最大の転機が訪れることになった。1967年から施行の決まった「FIAフォーミュラ2」規格では、連続した12ヶ月の間に500台以上が生産された市販車用のエンジンであることが求められたのだ。
創業以来のF1だけでなく、F2でも覇権を狙おうとしていたフェラーリは、ディーノV6をホモロゲートさせるためにフィアットと提携。ディーノV6・2リッターユニットを、フィアットの工場にて量産するというプロジェクトを興す。
1965年3月1日には、フィアット社との間でディーノV6エンジンを搭載するニューモデル、のちのフィアット「ディーノ」の開発・生産を共同でおこなう旨の契約が合意に達した。
しかしフェラーリは、自社でもこのエンジンを搭載するストラダーレの製作を決定した。FIAが要求するエンジンの生産台数だけならば、フィアット・ディーノのクーぺ/スパイダーのみでも充分だったに違いない。
それでも、エンツォ・フェラーリが自社オリジナルのスポーツカーの生産を決意したのは、ディーノF2が「フィアット製パワーユニットを搭載してレースに参加している……」、との印象を払拭せんがための策、という見方で間違いないものと思われる。
■「ミウラ」に危機感をつのらせたピニンファリーナ
ディーノGTが正式に生を受けるには、もうひとりのキーパーソンが存在した。ピニンファリーナ社の若きトップ、セルジオ・ピニンファリーナである。
●若きセルジオ・ピニンファリーナの情熱
1966年3月のこと、フェラーリの信頼を一身に受けていたカロッツェリア、ピニンファリーナのセルジオ・ピニンファリーナ副会長は、この年春のジュネーブ・ショーにて発表されたランボルギーニ「ミウラP400」のボディに戦慄することになった。
ミウラのボディは、ピニンファリーナにとっては不倶戴天のライバルとなりつつあった、ベルトーネの作である。ミドシップ・レイアウトを生かした低くてシャープなミウラのボディは、当時開発作業が進められている真っただ中で、FRレイアウトを持つフェラーリ「365GTB/4デイトナ」の製作者たるピニンファリーナを意気消沈させてしまう。
デイトナと比べるとミウラは15cmも低くて、格段にコンパクトなボディを持っていたのだ。
この時セルジオは、周囲に漏らしていたという。「われわれは最大限の努力はしたけれど、ミウラと比べるとデイトナはまるで2階から運転している気がする……」と。
実はその前年、1965年10月のパリ・サロンにて、ピニンファリーナはディーノのGr.6レーシングプロトタイプ「206S」用シャシの使用を見越したコンセプトカー「ディーノ・ベルリネッタ・スペチアーレ」を出品していた。
しかしミウラ誕生のインパクトは、この直後に逝去することになる父バッティスタのあとを継ぎ、40歳にしてイタリア・カロッツェリア界の盟主ピニンファリーナ帝国の総帥になろうとしていたセルジオに焦燥感をもたらすには、充分以上のものであった。
そこでセルジオは、エンツォ・フェラーリに対して「ミドシップの市販スポーツカーに乗り出すべき」と説得を試みた。そして、その説得が決め手になったか否かは定かではないが、エンツォもミドシップ・エンジンを持つグランツーリズモの開発・市販について前向きな姿勢を見せることになるのだ。
とはいえ、そこは老獪な「イル・コンメンダトーレ」エンツォのことである。どちらかといえばコンサバ志向の多い跳ね馬のカスタマーたちに、いきなり新機軸であるミドシップのフェラーリ・ストラダーレを提示するような冒険は避けたいと考えた。
かくして、フェラーリV6エンジンを残してこの世を去ったエンツォの長子、「ディーノ」の名が、もうひとつのブランドとして誕生。そして、自動車史上屈指の名作ディーノGTのプロジェクトが、正式にスタートすることになったのである。
■フェラーリのサブブランド「ディーノ」誕生
ディーノ206GTに至るプロトティーポ(試作車)第1弾、1965年秋に製作された「ディーノ・ベルリネッタ・スペチアーレ」は、ピニンファリーナ所属のスタイリスト、アルド・ブロヴァローネがデザインワークを担当した。
●4つのプロトティーポを経て、ついに完成
車両の先端に透明プレクシグラス製のカバーで覆われた4灯ヘッドライトを持つ、驚くほどに低いノーズ。垂直に立てられ、逆「コ」の字型を成すリアウインドウなどを特徴とする。
またドア後半からリアフェンダーに至る、引っかき傷のごとき凸面型に成型されたエアインテークや、一見したところではその所在を確認できないヒドゥン・タイプのドアハンドルなど、デザイン的な新機軸も数多く試みられていた。
しかしこのスタディモデルのメカニズムは、純粋な「206Sコンペティツィオーネ」用を想定したもので、とてもそのまま量産・市販に移行できる状態でないことは、誰の目にも明らかであった。
それでも、そのアグレッシブな美しさは、ベルトーネがミウラで引き起こしたセンセーションに対抗するには充分なものだったのだが、実際の生産化には約3年もの歳月を要してしまう。
ストラダーレ版ディーノに至るふたつ目のプロポーザルが提案されたのは、翌1966年のことである。この第2次プロトティーポ「ディーノ・ベルリネッタGT」は、丸型2灯のヘッドライトをフェンダーに収め、センターにはフェラーリの定石である楕円型グリルを持つノーズを特徴としていた。
デザインワークと試作車の製作がトリノのピニンファリーナ主導でおこなわれていた傍ら、マラネッロではメカニカルパートの開発に集中していた。ディーノV6ユニットの搭載レイアウトが、初期の縦置きから横置きミドシップに改められたのは、上記の第2次試作車の完成を目指して作業が進められていた時期のことである。
翌1967年に、ピニンファリーナが製作した第3次試作車は、生産型と同じ横置きミドシップで、エンジンにも横置き搭載を見越した専用のチューニングが施されたという。また、横置きエンジンとした結果として有効なトランクスペースが生まれたことから、それまで一体式だったリアのエンジンフードとトランクフードは、分割式の新意匠となった。
さらにその直後には、フロントバンパー形状まで生産型にごく近いものとされた、第4のプレ生産型試作車が製作。この年11月のトリノ・ショーにおけるピニンファリーナ社ブースにて「ディーノ206GT」としてお披露目されるに至ったのである。
この時に出品されたプレ生産型試作車には、フェラーリとピニンファリーナとの合意にしたがって、正式に「Dino」のバッジが授けられていた。これは、ディーノがひとつのブランドとして立ち上げられたことを意味する。
また、トリノ・ショー会場において配布されたリーフレットには「Minuscola, Scattante, Sicura……,quasi una Ferrari(=コンパクトで敏捷、安全な……、ほとんどフェラーリ)」というコピーが銘打たれていた。
こんな、ある意味自虐的ともとれるキャッチフレーズとともにデビューしたディーノ206GTながら、進化型の「246GT/GTS」とともにフェラーリ史上屈指の名作となったことには、なんとも形容しがたい「歴史の綾」のようなものが感じられる。くわえて、この上ない痛快さも覚えてしまうのは、きっと筆者だけではあるまい。
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みんなのコメント
V12に拘らなかったのが正解だったね。