WRC(世界ラリー選手権)は世界を転戦するラリー競技だ。ここ日本でもかつてはラリージャパンとして北海道でラウンドが開催されていたのだが、2010年以来9年ぶりの復活が期待されていた。
目指すは国内最大級の観客動員数を目指す新城ラリーにWRCを誘致すること。前情報では2019年の開催が確定的とも言われていた。
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しかし突如としての開催NG。なぜこうなったのか!? かつてはスバルや三菱、そしてスズキも参戦していたWRC。2018年はトヨタがコンストラクターズタイトルを獲るなど、いまでも日本車の活躍は著しい。
決勝日で8万人を集める鈴鹿のF1のようにはならないかもしれない。でも日本車と縁が深いWRCを日本でやってほしい!! そんなラリー大好きベストカーが迫ります。
文:ベストカー編集部/写真:トヨタ、STI、Hyundai、CITROEN
ベストカー2018年11月26日号
■「開催確定的」から大どんでん返しの裏側
2018年10月12日、2019年のWRC開催スケジュールがフランス・パリで開催されたFIA世界モータースポーツ評議会(WMSC)で承認され発表された。
そこに待ち焦がれたジャパンの文字はなく、代わりにチリでの開催が決定。「なぜだ?」関係者の多くが首をかしげ、ベストカーにも「ウソでしょう!?」「期待させて何だよ!」といった声が寄せられた。
ベストカーとしても予想していなかった事態で、まずは「確実」と書き続けてきたにもかかわらず、読者の皆さんの期待を裏切る結果となってしまったことを、謝罪したい。
ではなぜ、日本の名前がなかったのか? 今後はどうなるのか? 各方面に取材した。
「コーヒーブレーク直後までは日本が確実だった」。
ある関係者はそう話した。世界モータースポーツ評議会の前日、WRC委員会が開催され、そこでWRCカレンダーについての調整がなされ、そこにはFIA関係者、WRCプロモーター、チーム関係者などが参加したという。
WRCプロモーターからは日本がたいへんにやる気であり、開催条件もいいことが報告されていたはずだ。それでも枠にもれたのはなぜか? 気になるところだ。
ある関係者によれば、現在の13戦から来年は14戦になり、日本とチリで開催され、逆にフランスかオーストラリアがカレンダーから落ちると予想されていたという。
オーストラリアは思ったほど観客動員がなく、経済効果も低いため開催を危ぶむ声があるのは事実。ただしメーカー別シェアはトヨタが1番、ヒュンダイ2番で自国開催のないヒュンダイにとって重要なマーケットなのだ。
それではフランスはどうだろう? コルシカ島で行われるツール・ド・コルスは伝統のイベントだが、島ということもあり、近年観客動員が少ないという。
またチーム関係者からはWRCイタリアがすぐ南のサルディーニア島で行われていて、グラベル(未舗装路)とターマック(舗装路)の違いはあれど、島のイベントは2つ必要ないのでは? という声も上がっていた。
ヨーロッパラウンドから落ちるならここと予想されていた。しかし、パリで開催される世界モータースポーツ評議会においてお膝元のフランスの開催にNOを出すのは難しいという空気が漂ったことは想像できる。
ちなみにかつてプジョーの監督としてWRCを制したFIA会長のジャン・トッドはフランス人だ。
結局、チリと日本を加えて全15戦でいくという案もあったようだが、チーム関係者から明確な反対があったという。
現在トヨタ、ヒュンダイ、シトロエン、Mスポーツ・フォードの4チームが戦うWRCだが、年間予算は50億円とも60億円ともいわれていて、1戦増えると100万ユーロ(1億3000万円)以上余計にかかるという。
しかも、各チームは既に来年度の予算を決めてしまっているらしい。つまり、13戦から15戦になるというプラス2戦案は「聞いてないよ!」ということになったようだ。
そしてチリか日本か、最終判断が下されることになった。現在中南米ではメキシコとアルゼンチンで開催されているが、どちらも大成功だという。
イベント自体の収支もそうだが、クルマの販売が伸びることが成功をもたらしている。当然、チリは各社にとって魅力的な国と映るはず。
対する日本はどうか? アジアの一員であることに違いないが、トヨタ以外クルマは売れていない。それどころか、ヒュンダイ、フォードは販売されていないし、シトロエンも大きなマーケットにはなっていない。
さらに日本は遠いのだ。世界地図があるなら欧州から日本を見てほしい。南米のチリよりも遙かに日本は遠い。
欧州ラウンドから南米ラウンドに移動する際、船便を考えると中2週でOKだが、日本は中3週必要といわれる。
2019年のWRC開催カレンダーを見てほしいが、日本が目指していたのはちょうどオーストラリアのところだ。
15戦やるとすれば、オーストラリアは12月にずれ込むことにもなりかねない。12月はクリスマスだし、モンテまでのオフが短すぎる。
7月が空いているといわれるかもしれないが、ここはサマーブレーク、夏休み期間なのだ。カレンダーは欧州が中心になって作られる。
最後は日本の行き場がなくなり、すでにキャンディデートと呼ばれる視察イベント(安全性や環境への影響を確認する予行演習と思えばいい)を行っていて評価の高かったチリに軍配が上がったようだ。
そう考えるとキャンディデートがこれからだったことが痛かった。それを含めて準備に時間が足りなかったことや日本開催を訴えるロビー活動の不足といったことも原因のひとつになるだろう。
別な見方としては、参戦2年目にしてトップ争いを繰り広げる好成績を収めるトヨタ(=日本)へのやっかみもあるのではないか!? と勘ぐる向きもある。
■気持ちを切り替えて2020年開催へ向けて
WRCラリージャパン開催に向け努力してきたWRC日本ラウンド招致委員会は、2020年の開催を目指し、招致活動を継続するという。悲観はしていない。
WRCプロモーターでマネージングディレクターのオリバー・シースラは「欧州圏外のイベントを増やしていきたい」とかねてから語っており、2018年開催されたトルコには大満足のようだ。
その文脈でいうなら2020年に復活を目指して招致活動を行っているアフリカのケニア(サファリラリー)は日本の強力なライバルとなる。
仮にサファリがないとして日本開催はあるのか? 先のWRC関係者によれば、落ちるとすればやはりフランスだという。欧州からグローバルへの流れのなかでツールド・コルスは魅力に乏しいというのだ。
そして、次にオーストラリアの名前が挙がる。オーストラリアの代わりに日本が入るならば、各チームもスケジュール的には無理がない。
ただし、その時期は開催が予定される愛知県、岐阜県は紅葉のシーズンとなり渋滞も予想され、WRC開催ができるか? という疑問がある。
日本人関係者からは「オリンピックの脱力感もあるだろうし、やるなら3月」という声もあがっているようだ。
3月なら協力する地方自治体にしても「2019年度」というメリットはあるかもしれない。WRCに詳しい別の関係者に聞くと以下のような話もある。
1.プロモーターとイベント契約をすませる
2.カレンダー申請をする
3.キャンディデートイベントの開催
上記3つを行ったところで、過去30年WRCが開催されなかったところはないという。
また、キャンディデートイベントはWRC開催を前提に行われるもので、日本の場合すでに「1」と「2」を満たしているので、キャンディデートイベントが開催されることは、すなわち「開催確約」となるはずと語る。
キャンディデートイベント後にどんな動きがあるのか? 固唾を飲んで見守りたい。
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