■ホンダのメーカーコンプリートカー「ヴェゼル・モデューロX」
モデューロXは、ホンダ車を知りつくしたホンダアクセスの熟練エンジニアが、ベースとなる車両に更なるこだわりと、時間と、情熱をかけて磨き上げたメーカーコンプリートカーです。
超カッコイイ! Modulo Xシリーズにホンダ「ヴェゼル」が追加へ
そんなコンプリートカーですが、作るためには方向性となるベンチマークのクルマが必要になることがあります。
例えばタレントの手越クンが所有するランボルギーニ「ウルス」のようなケバイ系のシルエット。例えばベントレー「ベンテイガ」のような重厚感満点のSUVそのものの安定派。
上で挙げたクルマのように、開発初期にどの方向性を持たせるのかが決まらないと、コンプリートカーとしてのカスタマーへの訴求力に欠けてしまいます。
そして先日、とある試乗会でモデューロの担当者と雑談をしているとき、「ヴェゼル・モデューロXはベンチマークにカイエンを置いて開発したんです」と聞きました。
「なるほどそれは面白そうだ」とさっそくカイエンを引っ張り出して、ヴェゼル・モデューロXと比較して検証してみることにしました。ヴェゼル・モデューロXはカイエンの何を目指して開発したのでしょうか?
それでは、さっそくカイエンに乗り込み走り出します。搭載されるエンジンは3リッターV型6気筒の自然吸気エンジンで、340馬力/450Nmのパワーを誇ります。アクセルを全開にすれば、2060キロの車重にも関わらず0-100km/h加速6.2秒の俊足を発揮します。
その加速はターンパイクの登りでもまったくストレスなし。エアサス装備車なのでドライブモードの切り替えによってサスペンションの特性や車高の変更、そしてステアリングの操舵感覚も変更できます。
筆者(松田秀士)はとくにカイエンのスポーツモード時のフィーリングに注目しました。スポーツモードにすればコーナリング中の接地感が増し、ロール時の腰がしっかりしたダンピングを発生させ、ロールそのものも控えめに感じるようになります。
旋回初期のステアリング操作が速くてもフロントサスがロール方向に吸収し、その後しっかりしたグリップ感をドライバーに伝えながらコーナリングしてくれます。
決して応答性が鈍いわけではなく、ステアリングの微小舵域ですぐにロールが発生していることからも、ボディやステアリング周りの剛性が高いことを感じ取れます。
さらにブレーキング。初期のノーズダイブは速いものの、すぐにしっかりとした制御を発生させ、リヤに荷重を残しながら安定した減速をおこなってくれます。そのなかでも、一連の動きがとてもスムーズなのが印象的です。
カイエンの前軸重は1160キロ/後軸重は900キロで、車重は2060キロ。一方のヴェゼル・モデューロXの前軸重は880キロ/後軸重は480キロで、車重は1360キロ。後軸重を1として前後重量配分を見ると、カイエンは前1.29:後1で、ヴェゼルは前1.83:後1となり、ヴェゼルの方が圧倒的にフロントヘヴィーであることがわかります。
エンジン横置きでFFレイアウトのヴェゼルに対して、エンジン縦置きのカイエンの方が前後重量配分では有利なことは自明の理。さて、そんなハンデを負うヴェゼル・モデューロXに試乗してカイエンの味を見つけ出すことができるのでしょうか?
■ヴェゼル・モデューロXとカイエンの共通点はどこにある?
実は、こういう比較は筆者の得意分野です。まさにレースで磨いたセッティング能力が役に立つというもの。とはいえ、「もしわからなかったらどうしよう!?」という、格付けチェックに出演する収録中の芸能人のような少しの不安を覚えながらも、ヴェゼル・モデューロXに乗り込みます。
カイエンの高級感やメカニカルなダッシュパネルなど、見た目の印象だけでは車格の違いもあり、共通点を見出すのは難しい印象です。当たり前です、カイエンはヴェゼル・モデューロXが4.5台買える値段ですから。
それでもヴェゼル・モデューロXのシートはフィット感のあるフィーリングでドラポジも良いし、インテリアは機能的に配置されていて安っぽさは感じません。
後書きになりましたが、今回試乗したヴェゼル・モデューロXはハイブリッドではなく1.5リッター直列4気筒ターボのTOURINGモデル。172馬力/220Nmの出力で、トランスミッションはCVTです。
1360kgと軽量な車体ゆえに加速はスムーズで、CVT特有のエンジン回転と加速のズレもそれほど感じないし、必要とあればパドル操作でマニュアルシフトモードに変更することも可能です。
CVTの場合、加速力は無段階可変ギヤ比の一般的なCVTモードの方が速いですが、コーナリングを楽しむのならパドルシフトを使用した固定ギヤ比の方がオススメです。思いのままのエンジンレスポンスとターンイン時のダイレクトなエンジンブレーキによって、アクティブなドライブが体験できます。
緩急をつけながらのターンパイクドライブは、さすがにモデューロX仕様らしいしなやかな乗り味で、とくに良いと感じたのはサスペンションの動きです。
道路というものは平坦に見えていても実は微妙に波打っているものです。よくアンジュレーションなどと表現されますが、クルマは大小の凸凹や波打ち路面を、前後左右のタイヤが別々に拾いながら走行することになります。
そんな路面から受ける4輪のショックをそのままボディに伝えていたのでは、前後左右の上下動がそのまま個別に入力されて、乗員はさまざまな方向へゆすられてしまいます。
とくに左右方向の大きなゆすられはサスペンションが固められたチューニング車両ではよくあることです。しかしヴェゼル・モデューロXは各輪のホイールトラベルが路面からの初期入力を上手にいなしていることがよく分かります。
次にコーナリングです。コーナリング中の内輪サスペンションは伸びる方向に動くので、ストロークの余裕があまりないというのが常。このような状況でもヴェゼル・モデューロXは路面のアンジュレーションを上手に吸収してハンドリングが乱れません。
それでいてハイスピードコーナリングでは、いつの間にかタッチしていたバンプストッピングラバーがロールを上手く制御しています。
カイエンの場合、エアサスと電子制御ダンパーによって路面を常にモニタリングしながら超速で制御をおこなっているのですが、電子制御のないヴェゼル・モデューロXでも不思議とカイエンに近いフィーリングを感じます。
ヴェゼル・モデューロXがカイエンをベンチマークとした目的は、このサスペンションフィールとコーナリング中のプロセスにあると筆者は見ました。
コーナリング初期のサスペンションのいなし、そしてロールの姿勢づくり。これをカイエンにセットされているようなハイメカを使わずに、コンベンショナルなサスペンションで近づけた熟練のエンジニアに拍手を送りたいと思います。
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みんなのコメント
フロントサスのジオメトリーが悪いので基本突っ張るようなセッティングでしかまともに走れない。
リヤサスはあきらかなストローク不足でまともに動かない。
新型に移行するのでいまさら買う必要もない。